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61.火葬前に子供達は就寝

「ヤマトおにーさん! アンデッド倒してくれてありがとうっ」


歓迎会兼アンデッド掃討記念の開催。それを知ったエルフ達は指示を受けるまでもなく、それはもう流れるように宴の準備をと森の恵みの収穫へ。


オクラ……収穫した方が良いのか?と数分間悩み話し合ったことは、収穫班だけの秘密である。なんとなく今回はやめておいた。


わいわいがやがや。篝火に囲まれ、アンデッド氾濫への恐怖が無くなった事実に安堵し各々騒ぐエルフ達。


ヤマトへ感謝を伝えに来る者や、まだ少し警戒しているのか遠目に会釈程度で感謝を示す者。『感謝の搾取』をするつもりは一切無いので、会釈する者達へは緩く手を振るだけのヤマト。


天蓋の下。座り心地の良い絨毯で上機嫌。


“歓迎”を示す為に王で在るリリアナが横に居るからか、ヴォルフは「何の宴?」と遠巻きに不思議がる冒険者達へ説明に行っている。知り合いらしい。


ヴォルフが居ないから、か。とてとてと駆け寄って来た子供エルフからの感謝の言葉に目元を緩め、それでも真実は別なので口を開いた。


「倒したのはプルなので、お礼はプルに言ってくださいね」


「ありがとうプルちゃん!」


やっぱり素直でいい子だなと満足し、ぽふりと子供エルフの腕の中へ飛んだプルに笑いそうになる。どうやら、わっしょいわっしょいが気に入ったらしい。


ぱたぱたっ。プルを抱いたまま子供達の方へ向かったので、緩く手を振っておく。


そんなヤマトに苦笑したリリアナは、しかし子供達を窘めようとはしない。のびのびと成長させることがエルフ全体の教育方針なのだろう。


しかしヤマトは只人なので、“エルフ族として”の謝罪はすることに。


「子供達がすまない」


「構いませんよ。プルも楽しんでいるので」


「だが、あのスライムは護衛のようなものだろう」


「いえ。ペットです」


「……えらく凶悪なペットだな」


「普通に接している限りはいい子ですよ」


「それは分かっているが……な」


子供達が心配なのだとは察している。様々な高ランクの魔石を取り込んだ、意思を持つ化け物そのもののスライム。


しかし本当に、害さなければ只の謎の塊でしかない。野生のスライムと違うことは知性を有しているくらい。


アンデッドエルフを体内に取り込んでいたのに、普段と変わらない愛らしいスライムボディだった。その事実は、とことん気になる系オタクのヤマトとしては是非とも解明したい。『ハイエルフの誕生条件』同様、解明出来ないことは理解しているが。




――そう云えば。


“せんせい”の研究書の中にスライムを題材としていたものがあったかも。スライムの体積に質量が依存しない理由は、確か……スライムの体内は“亜空間”では?ってな仮説を立てていたような。


だとしたら……スライムは無条件に無属性を有していて、アイテムボックスと近い環境の空間を体内――いっそ“体組織”に構築しているってことかも。アイテムボックスに収納可能な生物は活動停止したものだけだから、アンデッドを収納出来たのならアイテムボックスに似た“なにかの空間”なんだろう。


もしくは。アイテムボックスはアンデッドを『生物』と認識していない、とか。


あー。“せんせい”の本難し過ぎて早々にリタイアしたから、もっとちゃんと読んでおけば良かった。めっちゃ気になる。気になる木。名前も知らない木ですから。


アレなんて名前の木だったっけ。思い出せない。なんか、猿?っぽい名前だった気がする。


あーもやもやする。直ぐに調べられるインターネット、本当に偉大だったんだな。




完全に思考が脱線したので、ふるりと頭を振りスライムについての考察を思考の端へ。いつか“あの森”の小屋へ里帰りした時にでも読み直そうと心に決め、不思議そうに見て来るリリアナへ眉を下げてみせる。


常に何かしらを考えているので、エネルギーを使っている脳が糖分を欲している。あと普通にお腹空いた。


「お食事、もっと頂いて良いですか? 甘いものも」


「よく食べるな。良いことだ」


「これは子供扱いでしょうか」


「望むなら寝かし付けてやろう」


意地の悪い笑み。


揶揄ってると言いたげなそれは、心を許してくれている証拠なのだろう。素直に嬉しい。


「エルフ族の子守唄は興味があるので、少し悩んでしまいます」


「お前は肉欲が薄いのだな」


「まさか。人並みにありますよ。同意の無い行為に興奮しないだけです」


「ヴォルフの教育方針か」


「なぜ」


「保護者なのだろう?」


「否定は出来ませんが。ヴォルフさんは“友人”で、本人から確定は頂けませんが“親友”です」


「アレでか。往生際の悪い」


「どうやって確定の言葉を引き出すか。考えることが愉しいです」


「良い趣味だ」


「ありがとうございます」


褒められた。と満足そうなヤマトにくすくすと笑うリリアナは、給仕の者へ追加の食事を頼む。


往生際の悪いヴォルフを恥ずかしがる子供のようで微笑ましい、とでも思っているのか。


確かにハイエルフからすると、100年も生きられない只人は例外無く子供のような感覚なのだろう。


「――そう云えば。こちらにはルーチェさんの転移魔法で来たのですが、エルフにとってはロストマジックではないのですか?」


「その認識で合っている。ハイエルフの一部は使えるが、頻繁には使用しない。座標設定が中々に難しくてな」


「へえっ。座標設定って必要なのですね」


「当然。幾ら魔法に長けているハイエルフでも、理論無しに魔法は……待て」


「はい」


「お前、使えるのか。それも座標設定無しに」


「移動にも戦闘にも便利ですよね」


「戦闘に転移魔法を使う阿呆はヤマトだけだろう。流石に、その剣と指輪の所有者なだけ在る」


「リリアナさんから見ても恐ろしいです? この剣と指輪」


「常に身に付けたいものでは無いな」


「確かにちょっとやんちゃです。不意打ちで、魔力の吸収量を上げて来るので」


「『やんちゃ』で片付けるな。お前の魔力量はどうなっているんだ。――あぁ。魔族か」


「人間です。リリアナさんは“魔族”にお逢いした事が?」


「エルフ族が無抵抗で只人に狩られたと思うか?」


「なるほど。――あ。ありがとうございます」


給仕の者から渡された料理を受け取り上機嫌で食べ始めるのだから、確かに“食”を最優先にしている。自分から魔族の事を訊いておいて。マイペースにも程がある。


リリアナからは魔族への恨みが感じ取れない。恐らく魔族は直接関与しておらず、なにか……魔道具のような物を只人側が悪用したのだろう。


例えば。この指輪のような、魔力を吸収する魔道具を使って。


恐らく……いや。




確実に、魔族も魔力量は膨大。


でも魔力コントロールが出来ない幼子は至る所で魔力溜まりを発生させ、急激な魔力消費により何度も寝込んでいた。とか、かな。


その魔力を適度に発散させる為に作った魔道具を只人達が悪用して、エルフ狩りをしたんだろうなー。


だとしたら。魔族の魔力量はエルフより上なのかも。


ちょっと闘ってみたい。また思いっ切り魔力解放したい。近くにドラゴン出て来ないかな。出て来ないか。


知性を有しているからこそ生態系の頂点に君臨しているドラゴン。そんな存在が、自然を愛しているエルフを襲うとは思えないし。


あー。ざんねん。




残念と思いつつもむぐむぐと箸を進めるので、ヤマトの優先順位は明確。食いしん坊でなにより。


戻って来たヴォルフが『また食ってんのか』と言いたげな顔をしたが、気の所為だと思うことにした。


「ヤマトは魔族の国に行くのか?」


「どうでしょう。お逢いしてみたいとは思います。お知り合いが?」


「……魔族が開発した、魔力を吸収する魔道具。直接の非は無いのに責任を感じたのか、先代が国を興す為に数人が手を貸してくれた。彼等が今も生きているかは分からない。表には出していない情報だから口外はしないでほしい」


「私達に話しても良かったのですか?」


「お前達になら話しても良いと思った。何故だろうね」


眉を下げて小さく笑むリリアナは、本当に話してしまった理由が分からないらしい。その綺麗な瞳に困惑の色が見える。


確かにエルフ族としてヤマトに恩を感じ信用しているが、それは恐らく……信頼とは異なるまた別の“なにか”。言語化出来ない、“自然”に近い生物としての直感による判断なのかもしれない。


なんとなく。そう予想をつけたヤマトは目元を緩め、




「中々に気分が良いです」




その感覚と判断は当然だと。絶対的な“支配者”の傲慢。


そう認識されても文句は言えないその言葉は、しかし本当にそう思い口にしただけの純粋な感想。本音、なのだと何故か確信してしまう。


それは、ヤマトの柔らかい空気感のお陰なのかもしれない。嬉しそうに、上機嫌に。ぽふぽふと可愛らしい花が舞っている幻覚が見える程の笑み――っと云うのも、理由のひとつだろう。


エルフ族。特に己の顔を見慣れているリリアナさえ、思わず瞠目してしまう程の愛らしさ。紛れもなくヤマトは男なのに。自分の造形美を把握した上での無垢な笑み。


もう、なんか……呆れもない。兎に角“顔”が良い。


なんとなく。ヴォルフへ視線を向けると呆れた顔で首を横に振られたので、ヤマトの“顔”の良さに苦労しているのだと察した。かわいそうに。


「お知り合いは、もう?」


「あ? あぁ。誘ったら全力拒否された」


「恥ずかしがり屋なんですね」


「『王族と酒飲めるか』だと」


「まさかこの国でも王族疑惑が健在だなんて。誤解は解いてくれました?」


「洗脳疑われた」


「皆さん、何故私を暴君にさせたがるのでしょうか」


「似たようなもんだろ」


「え」


「で。あのハイエルフは」


唐突な話題の転換。


エルフ族の為にアンデッドへ挑んだ、ルーチェの家族。その火葬をこの場で実施し、『誇り高いエルフ』として大勢から見送らせる為に場を整える。その、口火。


一応にもヴォルフも“黒髪黒目”へ憧憬は抱いていたが、それは崇拝ではない。子供が英雄や勇者に憧れる感覚に近いもの。


しかし。あの国の大半は“黒髪黒目”を畏怖と同時に敬愛し、獣人に至っては崇拝している。


火葬を『“黒髪黒目(ヤマト)”の歓迎会』と同時に行うのなら、場を整えないと祖国からのエルフへの印象が著しく低下し反感を買うのは必至。であれば、些細な口喧嘩から小競り合い……最悪戦争に繋がる可能性もある。


貴族がどうなろうと知ったことでは無いが、国民は別。それに……




あの王子サマはこいつの“友人”だしな。


友人として気は回してやらねえと、こいつから“唯一強く望まれた存在”――その事実を汚し“ヤマト”の顔に泥を塗る事になる。何より、筋が通らねえ。


この愉快なアホの隣に在る為に。


望むのなら、それ相応に。




その本心と優越感は表には出さない。表情にも、勿論言葉や態度にも。


全てがいつも通りなのでヤマトも純粋な気遣いだと認識。やっぱり優しい人だなと、上機嫌に口を開いた。


「ヴォルフさんのそういうところ。好きですよ」


「あ、そ」


「ふふっ。――リリアナさん。ルーチェさんは、どこに?」


食事の手を止めリリアナへ顔を向けたヤマトは、先ずはルーチェの所在の確認。その次にルーチェの心を気遣う言葉と“彼等”を悼む言葉を口にし、その流れでエルフの葬送を質問。そうして漸く「火葬は故郷の風習なので親近感を覚えますね。失礼でないなら、共に見送っても?」――との申し出を口に出来る。


その申し出の為の下地作り。周りに違和感を覚えさせないために必要なプロセスなので、面倒だとは思わない。寧ろ違和感を覚えさせた方が面倒な事態になりかねない。




そうやって“綺麗に”整えるから貴族疑惑払拭されねえんだよ。アホ。




しかしヴォルフには、その真実を教えてあげるつもりは無い。


これはヤマトが必要だと判断した事で、確かに整えた方が色々と楽。“黒髪黒目”ならば尚更。未来で楽をする為の努力。


例えばヴォルフがヤマトの立場なら、同様の事をしただろう。流石にここまで“綺麗に”は整えないが。


何より。この貴族“らしい”整え方は予想通りで、貴族では無いと知っているからこそ面白い。リリアナが視線で「本当にこいつは貴族じゃないんだよな?」と確認を取って来ている事も面白い。小さく頷いてみたが、納得出来ないと言いたげに眉を下げた事も面白い。


愉快な“娯楽”で酒が美味い。ウケる。


「――では、お願いします。リリアナさん」


綺麗に整え終えたヤマトは満足そうに目元を緩め、食事を再開。どことなく諦めた目をするリリアナは控えているエルフへ「火葬の準備を」と、少しだけ大きな声で指示。


何やら長く話した後に火葬準備を指示。これで、周りの大人エルフ達は理解し安心する。“黒髪黒目”へ激しい憧憬を抱くあの国を怒らせなくて済む、と。


「あ、そうだ」


ふと。思い出したと言葉を溢したヤマトは、アイテムボックスから取り出した通信の魔道具に魔力を込めた。


「――こんばんは、レオ。ヤマトです。今、大丈夫ですか」


《あぁ。来るのか?》


「いえ。今エルフの方々から歓迎して頂いているのですが、葬送に参加させて頂こうかと」


《待て待て説明が足りない。何がどうしてそうなった》


「詳細はエルフの王へお問い合わせを」


《おい、待て》


「はい」


《そこに居るのか。エルフの王が》


「気持ちの良いヒトです」


《っだから!そのような重要事は先に言えと……いや。いい。貴方はそう云う人だ》


「何やら誤解が」


《どうだかな。急ぎ書信を送る。ヤマトが居るのなら問題は無いだろうが、何かあれば頼む》


「ご挨拶は?」


《私がそのような愚行を犯すと?》


「ん、ふふっ。君は本当に賢いですね」


《知っている。次に来る時は、せめて前日に連絡をしてくれ》


「分かりました。おやすみなさい、レオ」


《あぁ。おやすみ、ヤマト》


通信の魔道具。それに送っていた魔力を切り、再びアイテムボックスへ。


ジト目で見て来るリリアナへ顔を向けたヤマトは、満足そうな顔。


「恐らくこれで問題ありません。レオ――第二王子はとても賢い子なので」


「……お前は“そう云う奴”か。理解した」


「うん?」


なにがだろう。


不思議そうに首を傾げるヤマトに態とらしく頭を抱えて見せたリリアナは、世話役に任命したルーチェ。彼のこれからの苦労を思い、心の中で手を合わせるのだった。





閲覧ありがとうございます。

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主人公が迂闊過ぎてハラハラな作者です。どうも。


この世界では、王族との会話を他国の不特定多数へ聞かせるなんて普通なら外患誘致罪で即処刑となります。

例え私的な日常会話だとしても。

それ程に『王族』は絶対的な存在なので。


なのに“許されて”いる主人公。

『全ての事象が自分の為に存在している』――そう思っているのだと、レオンハルトから認識されているので仕方ない。

“黒髪黒目”と云う要素もその認識に拍車を掛け、プラスと同時にマイナスにも働いていますね。

これまでの言動の結果なので自業自得。ウケる。


そしてリリアナを始めエルフ達も、同様の認識をしてドン引きしています。

自業自得。ウケる。


ヴォルフ、自由を愛する冒険者で貴族嫌いでも愛国心は人並みにあります。

なので主人公が“整える”ことにこっそり感謝していたり。


「魔族……まじで居るのか……」と内心困惑していましたが。

皆が知る“魔族”の印象とは真逆なので当然の反応ですね。

流石に魔族の国へは付いて行きませんが。

だって“あの森”の更に先だとの言い伝えだし。

普通に、死ぬ。むり。


エルフの魔法事情。

理論無しに魔法は使えないので、子供達は物心付く前から両親から魔法を教わっています。

当然ながら勉強嫌いのエルフも居ますが、魔法理論だけは特に苦痛や億劫と思う子供はいません。

エルフにとって魔法は“呼吸をする”ことと同列なので。


その“気になる木”は『モンキーポッド』だよ、ヤマトくん。


因みに。

火葬時の鎮魂歌が古代語と聞いた主人公、オタク魂に火が付きリリアナに質問しまくりました。

ヴォルフが担いで強制終了させなければ、そのまま古代語の勉強会となっていたでしょうね。

古代は、ロマン。


次回、世話役ルーチェ。

又の名を、マッマ。

肉球。

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