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59.有言実行は大切ということ

誤字脱字のご報告、毎回感謝しています。


「屋台があるのは嬉しいのですが、名物料理は特に無いんですね。少し残念です」


「調味料、輸入に頼ってるからだろ」


「でも、ほら。特産物を使用しての名物料理とか」


「エルフの魔力が流れ込んでる森だぞ。魔力が宿ってねえ食材を安定的に収穫出来るって?」


「納得してしまいました。残念ながら」


ルーチェがエルフの王との謁見手続きを進める間。それなら観光と食べ歩きをと散策するヤマトは、ヴォルフからの正論に素直に諦めたらしい。


それでも。ここぞとばかりに山の幸を重点的に食べまくってはいるが。


「よく入るな」


「魔力に変換しています」


「野菜ばっかで飽きねえの」


「野菜、好きですから。フルーツも食べていますし。それに、キノコ類が豊富でとても嬉しいです。山芋もありましたし」


「生卵と納豆、オクラに山芋。米にぶっかけて食ってるお前、周りからドン引かれてたぞ」


「何故でしょう。美味しいのに」


純粋に首を傾げるヤマトは、そもそも生卵を食べる地域は極一部と云う事実を忘れているらしい。ヴィンセントの領地で生卵を食せたからこそ、元の世界の感覚が抜け切れていないのだろう。


更に言うと、納豆のニオイで鼻が良いエルフ達は撃沈。新手のテロかと思ったが、ヤマトが至福の表情で食していたので大混乱していた。


加えて、山芋は薬の一種として扱われている。滋養強壮に良いとは理解しているようだが、しっかりじっくり火を通してどうにか食べられる程度。加熱により栄養素が壊れるので、だったら別の食材で栄養を摂る方が遥かに効率的。好んで口にしたいものではない。


その山芋を生で幸せそうに食べていたのだから、エルフ達は本気で“ヤマト”と云う存在にドン引き。そもそも何故往来で食べた。こっそり食べてほしかった。


あと触手系魔物の寄生先であるオクラを食べるなんて正気の沙汰ではない。こわい。


「次からは宿の部屋で食え。気持ち悪ぃ」


「ひどい」


「ゲテモノ食い見せられる周りの身になれ」


「ゲテモノ……とても身体に良いのに」


「そもそも何で店先で食った」


「山芋、早く食べたかったので」


「……お前はそう云う奴だった」


「食いしん坊ですから」


「“顔”に合わねえ」


「美味しそうに、幸せそうに食べる“この顔”は魅力的だと自負しています」


「ゲテモノじゃなけりゃな」


「うーん、ひどい。――ヴォルフさん、ヴォルフさん」


「あん?」


「大変です。こんにゃくです。ちゃんと毒素抜けてます。――ちょっと待ってください。ワサビも……え、うそ……松茸……ヴォルフさん、知っていたなら昨日言って下さいよ」


「お前が『気候に慣れたいから宿でのんびりしましょう』つったろ」


「私、ここに定住します」


「貴族サマと王族が乗り込んで来たら、あのハイエルフはそっぽ向くだろうな」


「……っ」


「嘘泣きすんな」


「落ち込んではいます」


両手で顔を覆いさめざめと俯いてみたが、瞬時に嘘泣きだと看破された。しかし言葉通り本気で落ち込んでいる。


「こんにゃく……」


「毒だろ」


「特殊な製法で無毒化出来るんです。鑑定結果も“無毒”ですし。過去の“黒髪黒目”が製法を教えたのでしょうか。それとも魔法が得意なエルフですから、毒素を抜く魔法を使ったのでしょうか。だとしたら……錬金術に近い? 確かに魔法と錬金術は似て非なるものですし、毒素の除去は錬金術寄りの魔法の可能性はありますね」


「さっさと買って来い」


「はい」


何やら唐突に分析を始めるが、ヴォルフの言葉に素直に従い店へ。ワサビを買う時に怪訝そうな顔をされた。解せない。


ワサビに限らず。これまでの“黒髪黒目”はヤマト同様に山芋もオクラも買っていたのだが、毎回エルフ達は怪訝な顔で少し不気味に思っている。頻度はさて置き、エルフ以外は口にしないから……なのだろう。


大量買いで利益が上がるので喜んで売るし、次の入荷を訊かれたのでまた収穫に行くが。


そうやって食べ歩きながら食材を買い漁っていると、近付いて来る慣れた気配。


「話は通せました? ルーチェさん」


「『今直ぐ』と」


「これは……試されているのでしょうか」


「贅沢な野郎だ」


「野郎ではない。王は女性だ。頼むから、王に前でその態度はやめてくれ」


「俺は“それ”聞いてやっても良いが、こいつは対等かそれ以上だろ。『同胞がアンデッドになったから手も足も出ない。頼むからアンデッドを掃討してくれ』――そっちが試される側なんだよ。どうせダンジョン化も進んでんだろ。アンデッドダンジョンは完成しちまえば大勢の光属性か、眉唾モンの聖属性でしか消せねえ。神聖国が正当な取引をすると思ってねえから、あんたの独断でこいつに頼んでエルフの王も飛び付いたんだろうが。だったらこいつに媚び諂うべきじゃねえの」


「それは……」


苦虫を噛み潰したような顔。『麗しの種族』にあまりこのような表情はさせたくは、……いや。ヴォルフにとって最優先は『ヤマト』なので、エルフなどどうでも良いのだろう。


なので。これ以上“ヤマト”を軽視し“価値”を貶めるのなら。


「こいつは今、ドラゴンを捌けるあんたの技術を評価して“友人”に成りたがってる。あんたの心を掴むためにミノタウルスのツノ(賄賂)ドラゴンの両翼(破格の報酬)を渡してる。この国の食材も心底気に入ってる。だが、」


一度。言葉を止めたヴォルフはヤマトへ視線を移し、目元を緩めたままルーチェを見続ける“黒”。その視界を手で遮ってみる。


しかし何も言わずに視線だけを向けて来るヤマト。


それが『許可』だと確信。込み上がる“優越感”に任せ僅かに口角を上げ、続く言葉を口にした。


「俺が『不快』だと言えばヤマトは今直ぐこの国を出る」


「、……」


「勘違いすんな。今この国でこいつへの無礼や理不尽が許されるのは“友人”の俺だけだ。冒険者でも聖職者でもねえ存在に救国を懇願してんなら、只人への恨みは二の次に相応の対応をすべきだろ。弁えろ」


「……実際の掃討は、スライムだろう」


「“ヤマト”が許さなきゃプルは動かねえよ。言っとくが、俺よりプルの方が容赦ねえぞ。スライムは魔物だ。“森の掃除屋”の特性で警告すっ飛ばして“処理”する。こいつが“友人”に欲しがってるあんたの顔立てて、こいつの“友人”としてあんたに警告してやってんだよ」


「……ハァ。分かっている。一応、言ってみただけだ」


頭が痛い。と片手で両のこめかみを抑えるルーチェは、「だろうな」と大したリアクションも無いヴォルフに溜め息をひとつ。




板挟みの俺のことも少しは労ってほしい。そして他のエルフ達が居る前で言わないでほしかった。


……いや。皆に“只人のヤマトの価値”を周知させる為に必要な場を設けるつもりではいたし、このタイミングが最も効率が良く効果的なのだとは理解出来るが。


しかし……もう少し、言葉選びと云うものを……




……っとは言わず、それでもちょっとした文句は口にすることに。


「あんた、意外と喋るんだな」


「ヴォルフさんは私の事大好きですから」


「お前が言ったらまじで“王族”になるからだよ。感謝しろ」


「ありがとうございます。助かりました」


「……ハァ」


「なぜ溜め息」


「さあな」


『感謝しろ』と言われて素直に感謝をされてはむず痒い。しかも、心底からの感謝だと分かる表情と声色。




こう云うとこが“タチ悪ぃ”んだよな。こいつ。


素直に感謝して、謝罪して。今回みたいに簡単に“俺”を信頼しやがって。


甘え上手はお前もだろ。




思わず呆れるヴォルフは、しかしヤマトからのその“甘え”に不快な思いは無い。それは、無条件で信頼されていると云うことだから。


寧ろ……手放しに信頼されている事実。めちゃくちゃ嬉しい。それは“黒髪黒目”だからではなく、“ヤマト”だから。


恥ずかしいのでこの本音は絶対に口にしないが。


「行きましょうか。ダンジョン化が進んでいるのなら、早い方が良いですし」


「恩に着る。『魔力還元』の説明はまた後日に頼む」


「報酬の食材、楽しみです」




報酬で貰うのに大量買いしたのか、あの只人……ヤマト……さん。




周り。エルフ一同ドン引きである。


そしてダンジョン化が進んでいる事実で強い不安感を皆が抱いていたので、それを解決してくれるのならと“只人呼び”はやめたらしい。只人へ恨みはあっても、国を救ってくれるのなら敬意を払う。


っと……云うか。どう見ても“食”以外に興味が無いので、只人だからと恨むのがちょっとバカバカしくなった。元々、エルフに好意的な“黒髪黒目”と云う事実もあるが。


何にせよ。変な只人(ヒト)が来たな……と珍獣を見る目でヤマト達を見送ったエルフ達は「変な只人(ヒト)が来たな」と、周りの者達と何とも言えないその感覚を共有するのだった。







エルフの魔力が宿った樹木。長い年月蓄積され高濃度のそれは、複雑に絡み合った立派な大木と太い枝で構築される――戦火程度では焼け落ちない、堅牢な天然の要塞。


エルフが集落を作ると、長や王が居住と選んだ場所には必ずこの“要塞”が育つ。……のだと、樹木の城を案内するルーチェに教えてもらい素直に感心。


エルフと自然の関係性は神秘の宝庫だと、更に感動さえ覚える。


「王へ面通しを」


「どうぞ」


とある部屋の前。警備をしているエルフが表情を変える事無くドアを開けたので、ルーチェに続きヤマトとヴォルフは部屋の中へ。広い空間。


一段高いところで玉座に座る、見目麗しい女性のハイエルフ。それは、自分の“顔”で『美』に慣れているヤマトでさえ思わず感心してしまう程。


……なるほど。




これは中々に壮絶な奴隷時代を過ごしたのだろう。“色々”と。


彼女の恨みも理解出来る。




だからと言って、ヤマトが特に気を使うことは無い。不躾に質問して予想と事実を擦り合わせることもしない。


自分には関係の無い事だ。と、切り捨てて。


「ミノタウルスのツノとドラゴンの両翼。感謝する」


歓迎の言葉の前に、感謝の言葉。それは歓迎する気は無いという事なのか、それともヤマトの為人を試しているのか。もしくは……エルフの伝統を紡ぎ続けることができる事実から溢れた、純粋な感謝なのか。


判断が付かなかったので、ヴォルフは取り敢えず眉を寄せておく。「救国を懇願するなら立場を弁えろ」と伝える為に。


正面なので当然気付いたエルフの王は、それでも言葉を続ける気は無く。じっとヤマトを見続ける。


真っ直ぐと見て来る“黒”。報告にあった通り、他者を怖がらせない為にと緩ませた目元。これ迄に逢った“黒髪黒目”達とは圧倒的に違う……“なにか”。


数分にも思える、数秒間の沈黙。の、後。


口を開いたヤマトは、


「そちらの奴隷達は“当時”の王族や貴族でしょうか」


斜め上の質問を口にした。


ぽかんっ……と口を開けたのは、ヤマト以外の全員。何故いきなり、明らかな“地雷”を思いっ切り踏み抜いたのか。地雷原でタップダンスでもする気なのか。


現に。徐々に眉間に皺を寄せていくエルフの王。顔を真っ青にする、ルーチェと警備の者達。


“なにか”を期待し目を輝かせていく奴隷達――“当時”のエルフの王を奴隷とし、彼女へ恥辱の限りを尽くした王族と貴族達。言葉を発さないのは喉を潰されたのだろうか。


そんな中、……ハァ。盛大な溜め息と共に、盛大に頭を抱えたヴォルフ。止めはしないが。


「だったら……どうした。この家畜共の願い通り『不老』にしてやっただけだ。何かを願うには、相応の代償が必要だろう」


不快。怒りと侮蔑に満ちた歪んだ顔で、殺意の籠もった声で。


不意に――動かした手を顎に置き何やら思案し始めたヤマトは、また……数秒。


うん。


なにか。を納得したように小さな声を溢してから、




「素晴らしい」




緩んだ目元で。柔らかな声での、純粋な称賛。


ぽかんっ……


再び口を開けたエルフ達は、満足そうなヤマトを凝視するだけ。エルフの王も、何を言われたのか……と理解出来ずに困惑の表情。


奴隷達は絶望の顔でヤマトへ縋る目を向けるが、ヤマトが彼等へ視線を送ることは無い。真っ直ぐとエルフの王を見ており、こてりっ。


態とらしく首を傾げてから言葉を続けた。


「『不老』と云う神業には大きな代償が必要です。その代償が“贖罪”ならば、確かに等価と言えます。個人的な復讐だとしても、『エルフは非道な行いには必ず報復する』との宣言としては効果的です。『報復することが“できる”種族』と周知されれば他国への抑止力になりますし、それは民を守る事にも繋がりますね。本当に、素晴らしい」


「……止めぬのか」


「何故私が? そちらの方々とは他人です。彼等に特に興味も引かれませんし、貴女の復讐を止める権利は私には有りません。ならば、私が彼等を救う正当な理由は?」


「――っは、ははは! いいや、無いな! 名をヤマトと言ったな。お前を気に入ったぞ。改めて歓迎するよ。私は、リリアナ。数々の無礼を許してほしい」


「無礼と思っていないのでお構いなく。改めまして、ヤマト・リュウガです。宜しくお願いします、リリアナさん」


「あぁ。そちらは……ヴォルフだったな。検問所では“整えて”くれたとか。助かった。感謝する」


「素材の価値暴落を防いだだけだ。礼は要らねえ」


「そうか。悪いが、時間が惜しい。早速アンデッド掃討について話し合いたい。歓迎会は、その後に。エルフの矜持の下に盛大な饗しを約束する」


「アンデッド掃討記念のお祭りと同時開催として構いませんよ。プルを主役にして頂けると嬉しいです」


「あぁ。そのように」


今までの張り詰めていた空気が消失した事実に、安堵の息を吐くルーチェ。「プルを主役に」との申し出を受け入れて貰えたことが嬉しいのか、隣でニコニコと満足そうなヤマトに漸く肩の荷を下ろす。


周りのエルフ達もこっそりと安堵の息を。リリアナから向けられた視線に小さく頷き、絶望に打ちひしがれる奴隷達を連れ部屋から出て行った。


これも……試していたのだろう。只人として、“只人の奴隷”にどのような反応をするのか。と。


思いっ切り斜め上の反応が返って来たので、いっそ愉快だと。結果はリリアナだけでなく、他のエルフ達もヤマトを気に入ることとなった。


エルフの悲劇の歴史を軽視せず、『不老』の方法に一切の興味も向けず。寧ろ――「復讐は正しい」と同義の言葉を口にしたヤマトを。


「あ。リリアナさん」


「なんだ」


「『家畜』だなんて、家畜に失礼ですよ。一応使えはするのなら、せめて『ゴミ』で」


「……それもそうだな。家畜には悪いことをした」


素直に聞き入れるリリアナは、奴隷時代に受けた仕打ちにより『善性』を失ったのかも知れない。





閲覧ありがとうございます。

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夜にもう1話更新しますが、今回は後書き有りで。


こいつまじで『王』じゃん……と呆然としている作者です。どうも。


まっじで性格と云うか性根が悪いですね。

いや興味が無いからこその、事実に基づいた考察による言葉なのでしょうが。

この世界に来て『見捨てること』を知った故の結論でもある。

その冷静な分析と無情の非情さが恐ろしいですね。


この後、地下墓地の大まかな構造を広げながらの話し合いが始まりました。

しかしアンデッドの詳細な数は分からないので、プルに全て丸投げすることに。


「プルなら大丈夫です。賢いので」

「親バカか」

「はい」


誇らしげに肯定していたので、自覚があってなにより。と、それ以上ツッコむのはやめた。


板挟みのルーチェ、災難でしたね。

リリアナの過去を知る故に擁護したい思いと、“ヤマト”の有用性を理解しているので機嫌を損ねたくない思い。


ヴォルフはそのどちらの思いも察していましたが、それでも主人公の“友人”としてボロクソに文句は言います。

今この国でヴォルフが気を使う相手は“ヤマト”だけですし。

エルフの事情なんてどうでも良いんです。

でも“ヤマト”がルーチェを欲しがってるから、ルーチェの顔は立てる。

ヴォルフ、いい人なんです。


だとしても山芋オクラ納豆卵かけご飯は気持ち悪いから見えないとこで食べてほしい。

ねちょねちょ、むり。

なぜ食える……とドン引きしてました。

ご迷惑をお掛けしています。


次回、ヴォルフと他愛もない会話。

プルは仕事が早い。

“家族”。


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