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29.「一発芸、魔族」を披露したら泣かれた

「鬱陶しい」


「はい」


「……」


眉を寄せるヴォルフと正反対に笑顔のヤマト。昨晩、ヴォルフの部屋で改めて“ちゃんと”謝罪をして漸く許しを得た。


なので、一夜明けての朝食。今迄は向かいに座っていたが、今日は隣に。それ程にショックで寂しかったらしい。


つまり。甘えている。


それは機嫌を取る目的ではなく、単純に好意を示すための行動。勿論恋愛的な意味は無い。友愛、親愛。安心しましたと言いたげにその“顔”をへにゃへにゃと緩めて。




それがダメだって分かんねえのか。こいつは。ほんっと、偶に距離感バグんな。


相手が相手なら囲われんぞ。アホ。




っとは言わずに溜め息だけに終わらせる。デザートのオレンジのムースは、一口食べてからヤマトの前へ流した。


「ダンジョン、大丈夫ですか?」


「あぁ。先にギルド寄る」


「分かりました。そういえば、まだ接触が無いです」


「怖がってんだろ。『貴族の施し』と『暴君』で」


「いじめないで下さい。ちゃんと反省していますし、以後気を付けます」


「それをキレてる時に言ってみろ」


「……気を付けます」


「期待はしねえ」


しょんぼりと肩を落としながらデザートを食べ始めたヤマトは、続々と食堂に入って来る冒険者達に目元を緩めての挨拶。


はざまーす。返って来た緩過ぎる挨拶は、彼等がヤマトに慣れたという証拠。慣れてくれて嬉しいと、満足。


昨日の内にロイドから全員に話していたらしく、いつもより活動開始が早い。


「先ギルド行くんすよね」


仲直りの確認は不要、と早速本題。


「そのようです。良い依頼は早く無くなるんですよね。もっと早く行かなくても?」


「恒常依頼でも割の良いのあるんで。肉とか」


「あぁ。確か、真っ先に王族や貴族の買付師へ連絡が入るんでしたっけ」


「そー。庶民がブル食うとか、王都ではまず無理。個別で依頼出すにしても高額になるし」


「次はブルのスポットに遭遇したいです」


「またギルド半泣きにさせんの」


「義理を通しているだけですよ」


「義理?」


「私は直接お肉屋さんに卸しても良いのですが、君達が困るかなと」


「……あー、そーゆー。あざっす」


「どういたしまして」


大量の肉をギルドを通さず直接卸す。だとしたら確実に、買付師の耳に入る前に売り切れる。


王族や貴族よりも庶民の人数は遥かに多いので、それは当然のこと。例えスポットに発生した魔物を全て持ち帰っても、王都の庶民には行き渡らない。


そうなれば、プライドの高い貴族はギルドに小言を溢して来る。


――『“黒髪黒目”は冒険者でなくとも、その側に冒険者が居るじゃないか』と。


その、明らかな難癖を。だとしても冒険者でない者が、冒険者ギルドに卸す理由は無い。


それでも小言を受けたからには、その“側に居る冒険者”へ一言伝えなければならない。あらゆる権力の及ばない、国を越えた組織だとしても。……いや。


国を越えた組織だからこそ、敵対行為と取られないように貴族の顔を立てなければならない場合もある。張本人が冒険者でなくとも、その対象の側に冒険者が居るのなら……ギルドとしても無関係は貫けない。


その対象が“黒髪黒目”なら尚更に。


只の、ヤマトの気紛れ。しかしその気紛れでヴォルフ達が理不尽な小言を貰う事は望まない。ギルドへ卸す理由は、その言葉通りに『義理を通している』だけ。


ヴォルフやロイド、2人のパーティーメンバー。これまでに交流した冒険者達。分かり易い好意を向けてくれる、その彼等の顔を立てて。


決して“貴族”の顔を立てている訳ではない。


満足そうに配膳された朝食を食べ始めるロイドに「どゆこと?」っと訊ねるパーティーメンバー。ロイドの簡潔な説明で理解し、礼を口にする彼等へ頬を緩めた。


「そう云えば。昨日、レストランから招待されたんです。連日満員御礼のお礼だそうで。取り敢えずゴボウとベーコンのキッシュを提案してみたのですが、何とも言えない複雑な顔をされて面白かったです」


取り敢えずでする事じゃない。


全員が真顔で心の声を一致させる中、デザートの残りを口へと運んだ。











冒険者ギルド。依頼を選ぶ冒険者達を、微笑ましいと後方から見守るヤマト。痛い程の視線は完全にスルー。


していたが、


「おっ。やっぱ居た! ちわーっす、ヤマトさん」


「……あ。お久し振りです。お元気そうですね」


「もち! 何してんの? ヴォルフさんは?」


「依頼を選んでいますよ。ロイドさん達ともダンジョンに行こうかと」


「あっははは! まじでロイド張り付いてんの! ウザくね?」


「可愛いです」


「ヤマトさんが良いなら良いけどー。――そうそう。盗賊なんすけど、あの後三箇所の拠点潰したらしいっすよ。っても、まだ残ってるっぽいけど」


「かなり大きな盗賊団だそうですもんね。使い捨てなら、すぐに補充できそうですし」


「それ。あでも、いっこ不思議な事。無人の拠点が一箇所あったらしいんすよ」


「不思議ですか? 魔物か“なにか”に襲撃されただけだと思いますが」


「んー。ほら、俺等の野営地の近くだったんで。ちょっと気になって」


「なら、私達は運が良かったです」


「んんー……。そうっすね! どうせ別の拠点に合流したんだろうし」


「盗賊がどうなろうが、どうでも良いですからね」


「ヤマトさんが言うとなんかゾワゾワする」


「貴族じゃないですってば」


「未だに信じらんねー」


「傷付きます」


「本当は?」


「愉快です」


「やっぱ貴族っぽい!」


けらけらと笑う、ひとつ目の領で別れた冒険者達。あの後暫く滞在してから王都に来て、丁度さっき到着したらしい。


恐らく、商人の護衛。自由気儘な冒険者が短期間で長距離を移動する理由なんて、それくらいしかない。


「まだ王都居るんすよね。今日飲みません?」


「ヴォルフさん達次第ですね。ダンジョンに泊まるかもしれないので」


「え。ヤマトさんも?」


「折角ですし」


「なにが?」


「え」


「迎え行くんで受付に言っといてくださいね」


「はい。宿は、」


「その辺の奴に訊いときますよ。じゃ、俺等依頼達成の処理あるんで」


「はい。都合が合えば夜に」


「期待しときまーすっ」


決して“黒髪黒目”へとって良い態度ではない。ヤマトと交流の無い周りの冒険者達は、顔面蒼白。今にも気絶しそうな者達は、確実にこの王都で生まれ育ったのだろう。


へらへらと笑いながら受付へ向かう冒険者達に手を振り、入れ替わりで戻って来るヴォルフ達。会話の間に依頼を決め、手続きを済ませたらしい。


立ち止まらずすれ違いながら一言二言交わす姿は、正に冒険者。他者への関心が薄い。


だからこそ。冒険者側から話し掛けられるだけでなく、立ち止まって長い会話が生まれるヤマトの存在が一層際立つ。流れ者だから尚更に。


ヴォルフ達と共にギルドを出ての、道中。


「良い依頼ありました?」


「メタルリザードいたろ。そいつ」


「王都一の工房だから5体までは買い取りますー、ってよ」


「ヴォルフさん達には余裕ですね。ロイドさん達は?」


「オーガの剣。レアだし時間掛かるかも」


「今日は泊まる事になりそうですね。断って来ます」


「用事?」


「さっきの冒険者から飲みに誘われました」


「あー。楽しんで下さい」


「いえ。折角なのでご一緒します」


「なんで」


「え」


「ちゃんと寝れねえし毒虫出んだから戻って。ヤマトさんの肌荒れるとか無理」


「肌荒れなら魔法で治りますし、虫はプルが食べますよ」


「ダメ。戻って」


「……ヴォルフさん」


「戻んぞ」


「一度だけ」


「野営で満足しとけ」


「……過保護」


「よく分かってんじゃねえか」


そう言われてしまえばこれ以上は食い下がる事は出来ず、肩を落としその過保護を享受する。いつか、ひとりで潜った時にでも泊まるつもりでは居るが。


愉快だとニヤつく2人のパーティーメンバーに眉を下げたが、これも慣れてくれたからだとボジティブに捉えておく。


会話が生まれたり、沈黙が流れたり。でもその沈黙は気まずいものではない。


周りから受ける羨望と嫉妬の視線。流石にヴォルフ達は鬱陶しく思うが、だからと言ってヤマトから離れるつもりも無い。


ヤマトを好ましいと思っているのはヴォルフやロイドだけではなく、2人のパーティーメンバーも同様。自由を愛し国を渡り歩く冒険者だからこそ、“黒髪黒目”が相手でも対応はあまり変わらない。


普段より断然敬意を払ってはいるが。


――暫く。


徒歩とギルド所有の相乗り馬車に揺られ着いた、ダンジョン。新規のダンジョンなので比較的冒険者の出入りは激しい。


冒険者達から見事な二度見と凝視を受けながらダンジョン内へ入り、転移魔法陣で向かうのは中層。


ロイド達もいつの間にか潜っていたらしい。この短期間で中層まで攻略しているのだから、本当にゆっくり探索しているのか疑問に思う。


「あ。その角の奥に居ますよ」


「なんで分かんすか」


「探査魔法で」


「うははっ、わっかんねー」


ファントムウルフを持ち込んだ時も思ったが、索敵に似たよく分からない魔法を使うヤマトと云う存在は規格外。


ヒトの理の外に存在する驚異。故に“魔族”だと疑われている。


しかし魔族ではないとも確信している。伝承にしか過ぎないが、魔族には必ずツノが生えている。その形は様々で、ツノの大きさと強さは必ずとも比例しないそうな。


的確な連携で危なげなく討伐したオーガからツノと魔石を抉り取ったロイドは、こんなツノかなー。と、両手に持つそれをヤマトの額に当ててみる。


きょとんっ。不思議そうに目を瞬いたので笑ってしまった。


「やっば! ヤマトさん超似合うし超魔族!」


「格好良いです?」


「まじかっけえ!」


「ありがとうございます」


楽しそうでなにより。


可笑しそうに笑うヤマトに釣られ皆も笑い、ヴォルフは呆れるもヤマトが良いなら良いかと放置。


『“魔族”という呼称を侮辱だとは思いません』


以前口にしたその言葉通り、気を悪くする事も否定も拒否もしない。寧ろ受け入れてすら居る。


どうやら、ロイドが楽しそうなので純粋に褒められていると判断したらしい。弟属性なロイドだからこそ……かも知れないが。


なんにせよ。ヤマトが“ヤマト”ならばヴォルフにとってはどうでも良い。


例え元から魔族だと分かっていても、今と変わらず――望まれるままに“友人”を受け入れたのだろう。


その理由について、ヴォルフは己の事なのによくは分かっていない。馬が合う……のだと、今のところは無理矢理だが納得している。


「やっぱ出ねーなあ。剣持ち」


「ヤマトさん暇でしょ。ヴォルフさん達とメタルリザードの階層行って良いっすよ」


「私は構いませんが、どうします?」


「あー……子守りしとけ」


「分かりました」


「え。や、暇っしょ」


「全く。楽しいですよ」


「えぇー……ヤマトさんが良いなら良いけど」




絶対高ランクのメタルリザードやらを討伐した方が楽しいのに。なんで俺等の子守り選ぶんだろ。


つか子守りて。


いやまじ子守りてなに。ヤマトさんも同意してんの解せない。




釈然としない思いを抱くが、ヤマトと行動できるので機嫌は良い。あっさりと歩いて行くヴォルフ達へ手を振り、直ぐ。


ヤマトへ張り付いた。寄り添うように、ぴったりと。


「甘えてます?」


「子守り、つわれたし。“らしく”しよっかなーて」


「君は何でも楽しみますね」


愉快。くすくすと笑いながら緩く頭をひと撫で。他の子達は来ないのかと視線を向けると、むりむりっ。ニヤつきながら胸の前で立てた手を左右に振られた。


単純に畏れ多いからなのか、ロイドの邪魔をして不機嫌になられるのが嫌なのか。恐らく、どちらも。




なんで、こんなに懐いてくれるんだろう。何かしたっけ?


面白いから良いけど。




自覚が有るのか無いのかは不明だが、ヤマトも世話を焼く事は好きな部類。勿論、好ましい相手に限りで。


そうでなければ彼等の宿代なんて出さない。怯えず好意的に、丁度良い雑さで接してくれる彼等の事はとても気に入っている。不快にならない言動を見極めているから、尚更に。


それはヤマトに限らない。


「ん? あ、ごめんプルちゃん。潰した?」


最終的なジャッジは、プル。


ペットとして主人を守るためなのか、それとも友愛として守っているのか。なんにせよ……本来最弱とされるスライムとしては異常。


コートの中から出て来たプルはロイドの頭に乗り、大丈夫。とぷるぷる揺れる。


でも直ぐにヤマトの肩を伝い、その黒髪の上へ。相変わらずの特等席である。


「ところで。あと10秒程でオーガが襲って来ますよ。4体」


「げえっ」


折角堪能していたのにと肩を落とすロイドは、それでも離れ剣を手に通路の先を見据えた。切り替えが素晴らしいと、感心。


ヤマトの言葉通りに現れたオーガだが、また剣持ちは居ない。ハズレ。


これは割の悪い依頼だったのでは……。


そう考えるヤマトは、数秒後にはオーガの魔石とツノで充分稼げるんだろうと理解。だからロイド達も受けた、と。


「手を借りたいならいつでもどうぞ」


「要らねーっすよ」


だろうな。あっさりと納得するのは、一切の危なげなくオーガを討伐しているから。


とっくにAランクパーティーの実力だろうに、と。


余裕を持って着実に実力を付けている。それはリーダーで在るロイドの采配だと察し、その才能を少しだけ羨んだ。


他者の才能を見抜き成長を促すなんて、チートなヤマトには出来ない。確かにレオンハルトの封印された魔力を開放したが、指導はしていない。そんな技術も無く責任も持てない。持つつもりも無い。


だからこそ。自分に出来ない事を当然のようにこなすロイドは羨ましい。それは純粋に、尊敬出来る要素。


「素晴らしい」


「、なにっどこが!? うわちょっ……待って後で聞かせて!」


ベースが“これ”なので台無しだが。


「あぁ。こちらの話なのでお気になさらず。レッドオーガ来てますよ」


「はあああああっ!? 4体の後に変異種とか巫山戯んな!!」


何やら急激にテンションを上げたロイドは、くすくすっ。愉しそうなヤマトの笑い声に口角を上げ、4体目のオーガの腕を飛ばした。


レッドオーガだとしても手を借りる気は更々無い。





閲覧ありがとうございます。

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尊敬できるところは素直に尊敬する主人公が誇らしい作者です。どうも。


いや本当に、年上年下関係なくそれが出来るって凄いことだと思うのですよ。

それを本人に伝えるか否かは別として。

だってロイド、それを伝えられたらめちゃくちゃ喜ぶけどめちゃくちゃ周りに自慢するじゃん。嬉しさのあまりに。

だとしたら余計な面倒事が起こりそうで。

『“黒髪黒目”から尊敬を受けた人間』として確実に貴族から目を付けられるし、縁を切った父親がちょーっと何か茶々入れて来そうで。

なので伝えませんでした。

面倒事は種を撒かずに回避するに限りますからね。


ダンジョン一泊は全力却下された主人公、冒険者じゃないけど冒険者“らしい”事をしたいだけなのです。

折角の異世界だから『胸踊る冒険』をしたい。

そもそも“森”での野営の方が危険なので、毒虫くらい別に……と思っています。

過保護を肯定されたので今回は大人しく諦めましたが。

なんだかんだ甘やかしていますね。


“義理”を通しているので確かに甘やかしています。

ロイド達に対しては勿論ですが、年上のヴォルフ達も甘やかしていると云う事です。

冒険者でないなら義理を通さずとも構いません。

ヴォルフ達がギルドから小言を伝えられたとしても、“ヴォルフ達”がヤマトの側に居るので文句を言う権利はありません。

それは筋違いなので言うつもりも微塵もありません。

“勝手に”ヤマトが“義理を通す”との名目で甘やかしているだけです。

気遣い、とも言う。

甘える時は甘えるけど、甘やかす時は甘やかす。

だからタチが悪いと認識されているのでしょう。

たちわっっっる。


次回、些細な問題発生。

貴族の義務。

郷愁。

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