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12.全員での受け入れ希望らしい

ドラゴンを解体出来る奴が来た。との報せを受け、久し振りにギルドへ来たヤマト。


その姿を確認したと同時に駆け寄って来たのは、ロイド。


「ヤマトさーん。どうだった?」


恐らく、童貞卒業の心境を訊いているのだろう。決して茶化しではなく、心底純粋な興味で。


それが分かったので特に気を悪くする事なく、顎に手を置き思案のポーズ。なんで焦らしてるんだろう……あの人。っと思いながらも答えを楽しみにする周りの視線が、少し面白い。


連日連夜娼館を利用。しかも羞恥も後ろめたさも無く、その絶対的な美貌を晒しながら堂々と。


男性陣は一周回って尊敬してしまった。因みに女性陣は、その顔を利用して不特定多数に手を出さない節度を持った紳士……とさえ思っている。美形は狡い。


そして何故か回っている、ヤマトが童貞だった。との事実。一体どこから広まったのか。


それを聞いた時の皆の反応を見たかったな。


そう思いながら口を開いたヤマトに、


「出禁になりました」




なにやらかしたんだあの人。そしてなんでそんな爽やかに言うんだ。


まじで意味分からん。




全員大混乱である。


「は……。なにしたんすか」


「ナニをしました」


「そーゆーのいいから。娼館側の横暴なら俺等抗議してやりますよ」


「横暴と言えば横暴ですが、正当な理由が有るので大丈夫ですよ」


「だから、なに」


「私の口からは少し抵抗が有ります」


困ったように眉を下げるヤマトに眉を寄せたロイドは周りを見渡し、目当ての人物を視認。タイミング良くギルドに入って来た、依頼終わりのヴォルフ。


瞬時に静まり返った場に不思議に思うヴォルフは、その渦中の人物……ヤマト。と眉を寄せたロイドを見た瞬間に、また面倒事を……。と頭を抱えた。


それでも2人の方へと足を動かすのだから、世話焼きで間違いないのだろう。気に入った相手に限りで。


「なんだよ」


「ヤマトさんが娼館出禁になった理由。なんすか」


「……あー」


「俺等が納得いかねえなら抗議すっから」


「やめろ」


「理由」


譲らない意志。懐き過ぎている。


一応ヤマトを見ると視線に気付き見上げて来て、眉を下げての苦笑。


……まあ、確かに自分の口からは言えねえな。


現状の全てを理解したヴォルフは言い難そうに後頭部辺りを掻き、それでも小さな溜め息の後に口を開いた。


「こいつ、基本紳士だろ」


「で?」


「娼館の女にも紳士」


「そんだけで?」


「加えて、サディスト」


「……ん?」


「サディストってのはヤってる時に相手に尽くすんだよ」


「……つまり」


「百戦錬磨の高級娼婦が、こいつの後は仕事にならねえ」


「うっわ」


「で。それをやったのが“この顔”だ」


「……ヤマトさん」


「そんな目で見ないで下さい」


つまり。


仕事が出来なくなる程の快楽を与え、しかも連日連夜別の女性を相手にしたから……


「って事で。女達がこいつに本気になりそうってんで、娼館側が断腸の思いで出禁にした。訳だ」


高級娼館を毎日利用出来る程の財力。加えて、場所が場所なので誰も明言しなかったが……王族のレオンハルトと懇意な人物。


その存在を出禁にするのだから、確かに娼館側も断腸の思いだっただろう。ヤマト本人が気分を害さなかった事だけが救いである。


因みに出禁を聞いたレオンハルトは声も出せない程に爆笑し、腹筋を攣らせていた。愉しんでくれて何よりだと満足したので、一切の反省の色が見えない。


ドン引きの視線が集まる中、態とらしく肩を竦めて見せたヤマト。どうやら“反省の姿勢”は見せる事にしたらしい。今後に活かすかは別として。


「……なんで、んな事したんすか。ヤマトさん」


好奇心。恋人でもない金銭を介した一夜限りの娼婦に、なぜ尽くしたのか。なぜ、尽くせたのか。純粋な疑問。




っていうか“尽くす”って概念知ってるのか、あの人。……あぁ。そうだった。貴族じゃないんだっけ。


なんでだよ。貴族で在れよ。いっそ王族で在れよ。脳バグるわ。




ヤマトの存在には慣れたが、未だに貴族疑惑は健在らしい。疑惑払拭の道のりは遠い。


「なんで、とは」


「娼婦相手にんな事しなくて良いんすよ。つか何したら高級娼婦が本気になんすか。薬使った?」


「使いませんよ。単純に、奉仕を愉しんだだけです」


「あんた程“奉仕”が似合わない人居ねえよっ! やった理由は!?」


「今、言いました」


「は」


「愉しんだ。だけです」


「……あんた、いつか刺されますよ」


「失礼ですね。私は只、女性の魅力を最大限に引き出しただけ。童貞故の探究心です」


「それをその顔でやんのがタチ悪ぃ」


「お気に入りです」


「美形自覚してのは清々しいけどさあっ! ヴォルフさんっ」


「知るか」


「あんた保護者だろ!」


「願い下げだ」


「傷付きます」


「良かったな」


それだけにあっさりと受付へ向かうヴォルフと、そのパーティーメンバー。この2人も可笑しそうに笑っているから、心底愉しんでいるらしい。


何やらぶつぶつと独り言を始めたロイドに小さく笑い、先程から解体部屋の方で呆れ返っているギルドマスターの方へ。漸くドラゴンの解体に移れる。


と思った矢先……


「ヤマト・リューガ」


いつぞやに聞いた、凛とした声。


その呼び掛けに振り向けば、たった今ギルドに入って来た……傷だらけのSランクパーティー。美女集団、の。




相変わらず真っ直ぐな目だなあ。




暢気にそんな事を考えながら向き直り、目の前に来て見上げて来る彼女達へ微笑みを見せる。それは先日の侮辱など気にしていないようなもので、周りは少し不思議そうな表情。


許したのか、それとも……無関心を隠す笑みなのか。


相変わらず読めねえなと周囲は見守っているが、新たな娯楽の到来に内心わくわくして居る事には違いない。受付の方から鋭い目で歩いて来るヴォルフ以外、の話だが。


一度ヴォルフへ視線を向けたSランクパーティーのリーダーは、それでも直ぐにヤマトを見上げ口を開いた。


「私達だけでベヒモスを討伐して来た」


……ん?


聴覚が認識した予想外の言葉。いきなり何だと不審がる周りは、微笑みを崩さないヤマトにも不審がっている。


脈絡の無い討伐報告。しかも、冒険者でも無い相手に。


ヤマトを心配し防波堤になろうと行動したヴォルフですら、思わず足を止めてしまった程に訳が分からない状況。


そんな状況で更に口を開いた彼女は、真っ直ぐと強く瞳で。凛とした声で。


「私達は強い。だからこそのSランクだ」


「はい」


「力を持っているからこそ、これからも弱い者を助ける。それが私達の正義には変わりない」


「お好きにどうぞ」


「だからこそ分からない。なぜお前は力を持ちながら、弱い者を助けない。お前の“正義”はどこに有る」


先日と似たような言葉。だが、そこに敵意は無い。


だからこそヤマトは目元を緩め、僅かに引いた足を軸に少しだけ振り返る。その視線の先には、未だに訳が分からないと困惑するヴォルフ。


――ふっ。


小さく笑ったヤマトはまた彼女達へ向かい合い、


「友人の為に」


それはそれは美しい笑み。慈愛すら伝わって来るその表情は、聖母と言われても違和感は無いだろう。


脊髄反射なのか……呼吸を止めてしまった、Sランクパーティー。周りの冒険者達。依頼を出しに来た、一般人。


最早、強制的に呼吸を止められたと言っても過言では無い。息を呑むとはこの事か。


それ程の衝撃を視界から脳へと叩き込まれた。それは正に、神秘の一言。


――“神”とは斯くあるべし――


無意識にそう考えてしまった自分に気付き、慌てて我に返り酸素を取り込む。最低限の生命維持である、呼吸。


それを取り戻した事で衝撃を叩き込まれた脳は再び機能し始め、真っ先に考えたのはひとつ。




この人は貴族や王族の器に収まらない。自分本位で、傲慢で。でもそれ以上に、


呆れる程のお人好し。




なぜそう感じたかは分からないが、全員がそう確信する。


あの公開侮辱も癇に障ったからではなく、理想の押し付けを正そうするものだったとしたなら。彼女達が今後周りから受け兼ねない忌避の目を危惧したからこそ、自らの評価を顧みず柔軟な道を示す為の荒療治の言動だとしたら。


相手から敵意を向けられたから、敵意に見せかけた心配を返した。ならば、好感を向ける者に対しては……


「キアラだ。君を誤解していた。すまない」


「ヤマト・リュウガです。私も言い過ぎました。すみません」


Sランクパーティーのリーダー、キアラ。彼女が差し出した手を当然のように握り返したヤマトは、少しの嫌悪も無く只管に柔らかい笑み。


目元を緩めたそれに苦笑したキアラは、離した手をその儘腕組みに変え呆れた顔に。


「しかし、もう少し分かり易い言葉を口に出来ないのか。中々に傷付いたぞ」


「あの程度で折れるのなら、お貴族様を相手に出来ないでしょう?」


「貴族と何度も会っている私達だから立ち直れた。リリア達は慣れていない。そのやり方が悪いとは言わないが、相手を選ぶ事を覚えろ」


「……うん。嫌です」


「、」


「男女関係無く。脆弱な者を側に置く気は無いので。今後もそれに関しては、徹底的に心を折ります」


「……理解は出来るが、な…」


「それに。傷付いた女性は皆さんも誘い易いかな、と」


「は?……っお前と云う奴は! やはり許せん!」


「それは正しい正義ですね」


ふふっ。可笑しそうに笑うヤマトに、パーティーメンバー揃っての抗議。その抗議を聞き入れる気が無いのか、全く崩れない笑みで軽く流していく。




まあ……なんだ。つまり、和解したって事で良いのか?




終始訳が分からなかった周りは、愉しそうなヤマトにそう結論付け安堵の息を。


Sランクパーティーと、王族が懇意にしている“黒髪黒目”。その各々の立場がありながら仲違いする事は、冒険者ギルドにとって不利益となっただろう。


現に、ギルドマスターも安堵している。どうやら肩の荷が下りたらしい。


本当に話題に事欠かない人だと呆れ半分愉しみ半分の周りは、更に口を開くキアラに注目。


「それに聞いたぞ。娼館を出禁になったとは……。どうせ、その言動と顔が原因だろ」


「女性の勘は怖いですね」


「ハァ……まったく。男なら仕方ないが、お前に憧れる女達が居る事を忘れるな」


「流れ者の私に憧れる方が悪いと思いますよ」


「私達は悪くない」


「……うん?」


「君は友人想いの気持ちの良い男だ。憧れるなと言う方が無理だろう」


「ちょっと、待って」


「嫌だ」


「キアラさん。待って」


「強い女を好むのだったな」


「あの、」


「付き纏うつもりは無い。だが、私達の感情を無下にするな。考えてみてくれ」


「……あんな事を言われたのに、悪趣味では」


「君はいい男だよ」


ふっ……と小さな笑みを溢すキアラは目を伏せ、それでも直ぐにまたヤマトを見上げる。


周りからの驚愕の視線を気にも止めず、


「自分を見詰め直せた。ありがとう」


どことなく、憑き物が落ちたような表情。彼女達もいつの間にか、なにかに駆られるような感覚に苛まれていたのかもしれない。


Sランクパーティーと云う、重責。“それらしく”在らねばならない、と。冒険者達の手本に成らねば、との……焦燥感に似た衝動。


それが、ヤマトからの侮辱を切っ掛けに薄れた。メンバーと改めて話し合い、視野が狭くなっていた事に気付けた。


大袈裟に言うなら、恩人。なのだろう。


「君が好むのは強さではなく気高さだろう。目指してみせるさ。だから、考えてくれ。頼んだぞ、ヤマト」


言いたい事は言った。と、すっきりした顔で踵を返すキアラ。それに続き、よろしくねーっ。と笑顔で手を振りながらギルドから出て行った、美女集団。


……まじか。


「さ、すが……Sランク。仲が良いですね」


「その感想なにっ!?」


即座にツッコミを入れたロイドに、あいつまじすげーな。……と、硬直する事しか出来ない周りは心の声を一致させる。




憧れの美女集団。


その全員がヤマトへ憧れを持った事実に、野郎共は今夜嘆きながら酒を飲みまくるんだろう。




そう確信するギルドマスターは、いい加減ドラゴン解体を始めたい。そう呆れ、溜め息を吐いてからヤマトへと口を開くのだった。





閲覧ありがとうございます。

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今程に全年齢に設定した事を後悔した瞬間はない作者です。どうも。


元女性だからこそ知る、女性の“魅力”を最大限に引き出す方法。

イロイロと書きたかったよね。うん。イロイロと。

大人しく自重しておきます。

因みに主人公には“尽くした”と云う認識はありません。

言葉通りに探究心による行動です。

……かきたかった……。


ヴォルフは完全に保護者ポジになりましたね。

冒険者らしい厳つい外見で世話焼きな冒険者が好きな、私の性癖です。

これからも保護者として頭を抱えてほしいです。

可哀想に……。


キアラ、お気に入りです。

美女は栄養。

初登場の通り、本当に正義感のあるいい子なんです。

死が身近にあるこの世界では少し忌避感を抱かれても、“人”としては本当にいい子です。すき。

度々登場させたい所存。


次回、嘔吐。

解体されたドラゴンは美味しく頂かれる。

主人公の“地雷”に少し触れるかも。

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