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104.説教日和

ドワーフ国は“洞窟”と云う環境と滝の影響で湿気があり、それは洞窟内に施された送風の魔法でさえ対応が追い付かない。それでも送風の魔法のお陰で断然過ごし易くはなっているので、これ以上を望むことは我儘だと国民は理解している。


観光客もこれも“醍醐味”だと、一時の不快さも観光の一環として享受している。理解が無く騒いだ者は、警備隊から慣れたように詰め所へ拉致られるだけである。


『自然』を愛しまくっているエルフ族――ルーチェにとっては、この湿気すら愛しく尊いものと認識しているので一切の問題は無い。只管に享受するだけ。


あくまで『ドワーフ国の環境』に限りで。


「あんたは……本当に……少しは大人しく出来ないのか」


「子供のように騒いだ覚えはありませんが」


「大人として問題を起こすなと言っている」


痛む頭を押さえるルーチェは、案の定リリアナから「世話役頑張れ」と。使者として送り出された。各国の今後の対応の報告は通信傍受の恐れがある為、共に来たハイエルフが持ち帰っている。


なので。直ぐに帰国する理由が無くなった。……ので。


カリオからヤマト達が泊まる宿を聞かされ、重い足取りで宿へ訪れたルーチェ。ヤマトの部屋に押し入り、椅子に座りその“黒”と相対。脚を組んで。“黒髪黒目”を見下ろして。


困ったように眉を下げるヤマトは正座中である。どうやら『説教は受け入れます』と示す行動らしい。“黒髪黒目”の影響が多岐に渡っているのなら、『正座』が表す様々な意思表示も伝わっていると考えて。潔い。


問題を起こした自覚があるだけ、まだマシなのかもしれない。


「構築式の改良点は、それはいい。エルフ族は気付いていた上で、取引の等価とならないから教えなかった。理解が出来るかも不明だったからな」


「崩落防止の構築式、何故か2周も遠回りしていますよね。あの箇所は連結してはいけないのでしょうか?」


「魔力量の差だ。エルフが魔力供給をするのなら、連結させても恙無く発動する。それこそドラゴンの魔石でもあれば、向こう200年は連結の構築式で問題無い」


「なるほど。種族的に遠回りをしなければならないだけで、詳細に設定(・・)することで魔力を安定させているのですね。勉強になります」


「勉強して何になる」


「一般的な魔法使いに擬態する時とか」


「非常識なあんたの口から、『一般的』と云う単語が出た事が驚きだ」


「あ、ひどい。その『非常識』は、ルーチェさんが培って来た上での感覚的な認識と偏見に過ぎませんよね」


「神獣や精霊と話せる(・・・)者が『常識』を語るな」


「それはそうなんですけど」


一応屁理屈を捏ねてみようと思ったらしいが、あっさりと折れた。『神獣や精霊と話せる』――それを持ち出されては何を言っても意味は無いと、流石のヤマトも理解している。


しかし改める気は無い。普通に、お喋りが楽しい。それだけの理由で。


「一応、確認なのですが。この説教はリリアナさんからの命令ですか?」


「いいや。他国でまで『世話役』を押し付けられて腹が立った俺の、個人的な鬱憤晴らしだな」


「すみません。反省します」


しょんぼりっ。全力の反省。


リリアナからの命令ならまだ逃げ道はあった。“命令”での説教なんて、する方もされる方も気分が良いものではない。ならばその点を上手く突けば切り上げられた。


しかしこれは、ルーチェが抱いた感情による説教。ヤマトが原因で抱かせた個人的な感情を、元凶のヤマトが否定することは出来ない。そんな恥知らずではない。


ルーチェの言葉通り、他国でまで『世話役』を押し付けてしまったから。それは、ルーチェからすると腹が立って当然のこと。




自分は『世話役』ではなく“友人”なのに――と。




つまり。拗ねている。


「重ねて。リリアナさんは、何か言っていました?」


「『あまりやらかし(・・・・)てやるなよ』と」


「やらかすの前提」


「あんたがやらかさなかった事。これまでに通った国であったか?」


「覚えないようにしています」


「『支配者』の傲慢か」


「……いじめないでください」


「嫌だ」


“友人”からの『支配者』認定の言葉。他の“友人”達からもそう思われている事実は察しているが、こうも率直に伝えられてしまうと中々に心にクる。対等で在りたいし在ってほしいのに……と。上位者としての我儘でしかないが。


ルーチェもヤマトのその気持ちは分かっている。分かっている上での、一種の――侮辱。ヤマトが嫌がり、落ち込むと確信した上で。


それ程に腹を立たせてしまったらしい。


ヤマトとしてもルーチェのその気持ちは理解出来るので、抗議はしない。できない。反省するだけ。


こうやって……




きちんと(・・・・)理解しているから、この男は狡いのだがな。俺の気持ちを尊重し、自分が悪いと反省する。その反省は……まあ。“友人”相手に限るのだろうが。


エルフ族に匹敵するこの“顔”の、圧倒的な武力を有する傍若無人な『支配者』が……俺の言葉ひとつで感情を揺さぶられている事実。


確かに優越感を覚えてしまう。


ヴォルフも頻繁に、このような優越感に浸っているのだろうか。いや、羨ましいとは思わないが。


頻繁に優越感を覚えると云うことは、頻繁に腹立たしさも覚えていると云うこと。勿論“甘え”による優越感の方が多いとは分かっているし、その『甘えられての優越感』の方が毒なのだろう。趣味が悪い。


なんにせよ。こうやって素直に反省されては許したくなってしまう。反省し謝罪すると云うことは、この“特別”な存在の心に居座ることが出来た――そう、云うことだから。


俺も『ヤマト』に甘くなった。いや、諦めもあるのだがな。




先程よりもしょんぼりするヤマトは、『支配者』発言に相当のショックを受けたらしい。冗談や揶揄いならば軽く否定するだけだが、本気で言われては流石に落ち込む。


それでも自分が悪いので抗議はしない。只管に反省するだけ。


なので。


「……あぁ。面倒を掛けたな」


「まったくだ」


午前の冒険者活動を終わらせて戻って来たヴォルフが、昼食はどうするのかとヤマトの部屋に入ったら数秒……程の硬直。無自覚の“騎士”としては『主』に正座をさせているルーチェへ怒りを持って当然だが、しかしこの現状の理由を直ぐに思い至りルーチェへ向ける労るような目。


味方がいない。


それを察したヤマトは、がばりと蹲った。


「うぅ……ひどいです……ちゃんと反省してるんですよ……そろそろ、許してくれても良いじゃないですか! 私のこと嫌いなんですか!?」


「姿勢を正せ。足が痺れただけだろう」


「バレますよね」


けろりっ。素直に姿勢を正すヤマト。嘘泣きでのヒステリックは通じなかった。


嫌われていない自信があるからこその、現状では最も有効的な行動だったのに。不発。


「あんたが、本気で『“友人”の罪悪感(それ)』を利用する卑怯者だと?」


確かに本気で利用する気は無かった。一応やってみただけで、不発に終わる事も予想していた。


単純に。説教に賄賂は悪手も悪手なので、今――この現状ではこれがこの足の痺れから解放される、最も確率が高い選択肢だったから実行した。それだけ。


他の――“友人”ではない者ならば、その圧倒的造形美に罪悪感を抱き許しただろう。そもそも説教すら出来なかったのだろうが。


「説教中なのに、私を理解してくれている事がちょっと嬉しく思っちゃいました」


「だろうな」


「『ドワーフの技術』を気に入ったので、観光による収入へ貢献出来たらと思いまして」


「へえ」


「『精霊』からのご招待。ルーチェさんなら拒否出来ます?」


「夜への変更を願い出ただろうな」


「ぅ……」


「あとは?」


「……水の精霊。とても可愛らしかったです」


「正座5分追加」


「精霊と逢えたのが羨ましいからって、意地悪しないでください」


「10分」


「……リリアナさんに抗議します」


「お好きにどうぞ」


はんっ。鼻で笑うルーチェに、撃沈。リリアナに抗議したところで、愉快そうに笑われるだけだと予想が付いた。味方がいない。


一応。念の為。もしかしたら……あわよくばを狙ってヴォルフを見上げてみると、直ぐに気付き向けられる視線。


「良薬口に苦し、か」


ダメだった。とても愉しんでいます、と言うような笑み。厳つい顔がとても凶悪。完全に“裏”の元締に相応しい悪役の笑み。


潔く諦めたヤマトは、更に追加された10分の正座を泣きそうになりながら耐えるしかなかった。


嘘。ちょっと泣いた。あし、いたい。







「まあヤマトが悪いな」


「追い打ち……」


ずーんっ……盛大に落ち込みながらも、持ち込んだ肉での炭火焼きを食べていくヤマト。“食”は最優先。


昼食。店への道中に依頼終わりのランツィロットを見付け、丁度昼食を取るとのことだったので合流。店に入ってからルーチェが居る理由と先程の反省会を話したら、迷いなく先の言葉。


事実で正論なので抗議はしない。できない。


店員に焼いてもらう肉はそこそこのランクに留め、貝類や野菜も頼んでいる。初日にT・レックスの肉を焼いてもらったら、香りに釣られた他の客からの物欲しそうな視線を受けて少し鬱陶しかった。店員達の目も鬱陶しかった。完全にスルーはしたが、二度と頼まないと決めた。


当たり前のようにヤマトの手元には、どんぶりに大盛りの米。焼いている野菜の他にサラダも食べている。食いしん坊で、なにより。


「流石にカリオがかわいそー」


「丸投げ常習犯だからな。こいつ」


「それ程ではないと思いますが」


「お前説教されたばっかでよく言えんな」


「ぅ……ちゃんと、丸投げする相手は選んでるんですよ?」


「そもそもすんな」


「私が面倒事を綺麗(・・)に片付けられると思います?」


「エルフんとこでやっただろ」


「……しましたっけ?」


「お前まじ何なんだよ」


ルーチェの家族を送る時、『故郷の葬送と似ているので共に見送りたい』と。国の為に命を賭した“彼等”を英雄として、正式な葬送で見送ってあげられる。正式に見送ってもらえる。その、同族を深く愛する『エルフ族』の心に寄り添って。


それはもう丁寧に、綺麗に整えていた。なのにそれを覚えていないなんて。


つまりそれは、無意識で当然の配慮だとの思想による言動だと云うこと。誰よりも自由に生きている、ナチュラル傲慢のクソガキなのに。


「そりゃあ、こーゆー奴(・・・・・)だから許しちゃうよなあ」


どことなく感心の色が含まれたランツィロットの言葉。一応『――ってな感じでエルフ王から気に入られた』と、ヴォルフからは聞いている。葬送の件も、大まかに。


ルーチェへ向けたその言葉に返事はなかったが、特に気分は害さない。これが本来の“只人に対するエルフ族の態度”なので、露ほども気に留めない。ぶっちゃけ、どうでもいい。


迷惑を掛けられたルーチェがヤマトを許したのは、ランツィロットの発言通り。


ヤマトが自ら動く時は『国』の為ではなく、『ヒト』――それが“個人”でも“技術”でも、己の琴線に触れた存在の心へ寄り添った時なのだと。そう、ルーチェも分かっているから。だから許すしかなかったのだと。


ルーチェの説教には、心配をした事実への照れ隠しもあったのかもしれない。不可避で生殺与奪の権を握られる精霊の領域に、足を踏み入れた“友人”……心配しない筈がない。




……まてよ。




ふ、と。強烈な違和感を覚えたルーチェ。


ぱくぱくと幸せそうに炭火焼きを食べていくヤマトと、酒を飲みながら肉を味わうヴォルフ。そのふたりを視線だけで交互に確認してから……確信。


「ヴォルフは、ヤマトから聞いていなかったのか」


「なにを」


「『精霊の領域』は、その精霊の属性で構成されている」


「……おい」


ぴたりっ。


地を這うような低音。脊髄反射で手を止めたヤマトはいつも通りの笑みだが、内心では冷や汗だらだら。


やはり教えていなかったのだと。でなければあの(・・)過保護なヴォルフが、たった2日で“いつも通り”で在れる筈がない。


確信を事実として認識したルーチェが続けた言葉は、


「水の精霊なら、水中。『精霊の領域』は、生殺与奪の権を無条件で握られる」


「手前ぇは宿戻ったら説教だ」


「ルーチェさんの悪魔っ!!」


無事に説教宣言へ繋がった。


ヤマトとしては的確な、しかし同時に身勝手な抗議はしたが勿論意味は無い。


「正直に、全てを話さなかったヤマトが悪い」


「美味しいお肉提供してるんだから見逃してくださいよっ」


「後々、もしも『精霊の領域』から五体満足で戻って来れなかった時。その時にこの事実を初めて知ったヴォルフが、なにを思うか。予想に容易い筈だが?」


「ぅ……」


「まあヴォルフなら責めるよなー。知らなかったっても、ヤマトを止めなかった自分を」


「それは……――やばいです。助けてくださいランツィロットさん。ヴォルフさんの方見れない。ドワーフの子供さえ泣き喚きそうな顔になってる気がする」


「ヤマトが悪いー」


「自業自得だ」


「そうなんですけど! これを言ったら、水の精霊からの援護があっても……直ぐに許してもらえないと思ったから……だから言わなかったのに」


「分かっていたなら、潔く説教されることだ」


「……あくま」


力無い声。絶対的強者のヤマト――“黒髪黒目”にこんな声を出させて許される(・・・・)者が、果たしてどれ程にいるだろうか。


許されない者が大多数だが、見たい者は大勢存在するだろう。例えば“あの国”の民とか。獣人の国の民とか。


弱々しい“黒髪黒目”なんて解釈違い甚だしいが、それはそれとして『“友人”に弱い“黒髪黒目”』は見たい。生涯を通しての最推し。様々な姿を見たい。


その姿を特等席――真正面で見る事が出来るヴォルフは、ちっ……合わない視線に舌打ちをひとつ。


ぴくりと反応したヤマト。漸く、そろそろとヴォルフと視線を合わせ……


「説教2時間と尻叩き10回。選ばせてやる」


「説教2時間でお願いします」


潔く諦めた。選ばせてくれるだけ優しいなと、変に感心しながら。


思わず顔を逸らしたランツィロットは、どうにか笑いを堪えることに成功。


「尻叩きは屈辱だもんなあ」


「いえ、それ程では」


「え。じゃあ尻叩きで良くね? 10回で済むんだし」


「もしそれで新しい扉を開いたら、ヴォルフさんに責任を取ってもらうように全力で画策しますよ。私」


「……逆だろ」


「はい?」


「いーやァ?――つーか、ヴォルフは2時間も説教出来んの? ネタ切れなるだろ」


「そうだな」


「ん?」


「ヴォルフさん、言いたいことを言ったら腕組んで無言で凝視して来るんですよ。気不味いですし、怖いです。顔が」


「3時間にされてえか」


「ごめんなさい」


即謝罪の言葉を口にしたヤマトに、次は俯き笑いを堪えるランツィロット。……まあ。




ヴォルフはヤマトの“顔”で、美術品鑑賞も兼ねてるんだろーなー。“説教”ってのを名目にして。ずっと見てても不自然じゃないし。


怒りながらもそれ出来るんだから、ほんとこいつ面喰い過ぎ。しっかり“顔”に騙されてやんの。


まじウケる。




やはり、自分の尻は自分で拭わせるスタイル。『ウケる』で済ませたランツィロットは、先程自分が口にした『逆だろ』からヤマトの意識が逸れたので一安心。


もしも……だとしても口にしたくない。考えたくもない。ダメ、ゼッタイ。


「あ。ヤマト。肉、無くなりそうだから追加してくんね?」


「可愛くおねだりしてくれたら」


「おっさんのぶりっ子見たいん?」


「割と見たいです」


「ヤマトくんおねがあいっ」


「ん、……ふふっ。仕方ないので、施して差し上げます」


「ヤマトが言うと“いかにも”って感じ」


「お肉。要らないようですね」


「俺の好感度、稼がないとでしょーが」


「もう不必要でしょうに」


「さあ? どうだろうな」


にたりと笑うランツィロットは、くすくす笑うヤマトが既に『答え』に気付いているのだと。それを察したが、まだ足掻きたいので軽く流しておく。


たとえその『答え』を渡したとしても、ヴォルフ程にハマる気は更々無い。




閲覧ありがとうございます。

気に入ったら↓の☆をぽちっとする序でに、リアクションやブクマお願いしますー。


ルーチェが来てびっくらこいてる作者です。どうも。


なんで君ドワーフ国に派遣されてんねん。

(A.キャラひとり歩きの弊害)


『尻叩き10回』を選ばれても、ヴォルフは説教2時間にしました。

「どんな趣味だ」とか言って。

ヒーローの“黒髪黒目”に尻叩きなんて出来ませんし、何より『ヤマト』なので手は上げたくない。


そしてランツィロットの『逆だろ』の呟き通り、もししていたら“新しい扉”を開いたのはヴォルフの方。

だってドストライクの“絶対的造形美”が、見返りながら涙目で「ごめんなさい」とか言うんですよ。

面喰いのヴォルフはほぼ確実に落ちる。


※何度も言うが決してBLじゃない。

(尚、説得力)


災難ルーチェ。

主人公が『精霊の領域』に招待されたと聞いた瞬間、リリアナから命令されるより先に嫌な予感を覚えていました。

案の定、エルフ国とドワーフ国の国交に影響し兼ねないので再度『世話役』として駆り出された。かわいそうに。

一応リリアナが主人公を紹介しましたからね。

「やることはやりました」と示す為のパフォーマンスとして。


ルーチェ、主人公は“友人”なので本気で嫌だとは思っていないけど中々にムカついたようです。

でも正座だけで許したから、やっぱり『ヤマト』には甘い。

ご迷惑をお掛けしています。


正座を崩したらじわじわと痛み始めた脚に耐える表情は、『これは絶対に見てはいけないやつだ』と。

ヴォルフとルーチェは脊髄反射で顔を背けた。

見たかったが、理性が勝った。


この後。

宿に戻ったヤマトはしっかり説教されたよ。

ベッドに座っての説教だったので脚は無事。

無言凝視のヴォルフ、やっぱり怖かった。

主に顔が。


今年最後の更新が『説教』で良いのかと思いましたが、まあ『ヤマト』なので寧ろ“らしい”なと変に納得しました。

来年もこのタチの悪い激重友愛スローライフに、まったりお付き合いくださると幸いですm(_ _)m


よいお年を!


次回、思ったより楽しい。

ケット・シーの得意なこと。

「甘やかして来ます」


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