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prologue
夜半を過ぎた頃、王は書を閉じた。
「稚拙だな」
こう呟きながら「聖経直解」と記された書物の表紙を軽く叩いた。
最近、若い士大夫の間で西方の書籍がもてはやされている。何が彼らを惹きつけているのだろうか、気になった王はその中の数冊を実際に読んでみた。西方の書物だが漢訳されているため、朝鮮の人々でも容易く読むことが出来るのである。
「確かに西方の器物の中には有益なものはある。挙重器などはその好例だろう。だが…」
実体のないもの~思想などは我が東方が優れている。幼い頃より四書五経を始めとするあらゆる書物に目を通してきた王だからこそ断言出来る。
「彼らはまだ学びが浅いのだろう。深く学んでいけば、このような書で説かれている内容がいかにつまらぬことかわかるであろう」
王は立ち上がると明日の経筵のことを考えた。本来、経筵は学識のある士大夫が王に学問を教える場なのだが、今は王が若手臣下たちに教える場となっている。王は師にもならねばならないと思っているためだ。
「久しぶりに詩経をやろうか」
王は執務室を出て自室に向かうのだった。