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8話 お兄ちゃんにだけ好きになってくれれば嬉しいよ

「くっそー、負けだ」


 俺はレースゲームでずっと負け続けていた。本格的なレースゲームというよりかは、アイテムがあって、妨害しあって順位を決めるレースゲームだ。


「言い訳させてくれ。中学生になってからほとんどゲームしてないんだ」


「私、何も聞いてないんだけどー」


 意地悪そうな顔をした晴夏は女の子座りで俺の横にいる。リモコンはしっかりと握られているが、半ズボンのジャージから出る生足。その綺麗な膝が俺の膝と当たっている。ちなみに俺は胡座をかいているが、そんなことは今、どうでもいい。


 膝なんて柔らかいわけがないんだ。女の子の身体は柔らかいからこそ魅力的なのに、膝なんかが触れたぐらいで、俺がドキドキするわけが・・・・・・。


 もう不安だ。こんな小学生の女の子に安心させられて、ドキドキしてしまうなんて。確かに俺は年上より年下の方が好きだけど、ロリコンなのかと言われると、そういうわけじゃない。一歳とか二歳ぐらいだったら年下でも良いってだけのことで、晴夏のことは、どうなんだろう。年齢は関係ないと願いたい。女性としての魅力に惹かれただけだと信じたい。


 俺、これから理性保てるんだろうか。


「ほら、お兄ちゃん、行くよ」


「行くって何処に」


 俺が心の中でしゃべっている間に晴夏はゲームのスイッチを切っていて、玄関の方で靴を履いているところだった。俺は座ったまま首だけを玄関へと向ける。


「買い物」


「こんな時間に?」


 時刻を見ると、夜の十時だった。


「さっきお昼のときに買えばよかったんじゃ?」


「今、思いついちゃって、こんな夜遅くに一人で行っちゃったらおまわりさんに捕まっちゃうし、荷物持ちも欲しいし」


「まぁ良いけど、全然寝れる気しないし」


 俺は腰を起こして、立ち上がった。


 何買うんだー? と玄関へと足を進める。





 俺と晴夏は外に出た。夜は少しまだ肌寒いが、元気な人なら半袖で行動してそうなぐらいの気温だ。


「カーテンと突っ張り棒があったら脱衣所作れるかなって、思いついちゃって」


「いやだから、本当にお風呂も分けちゃったら解決じゃないの?」


「だーかーらー、それは無理なんだって」


「なんで?」


「怖いから・・・・・・」


「そっか」


 それなら仕方ないか。ってすぐに認めてしまっている俺はどうなんだ。でもわからないでもない。俺だって小さい頃はシャワー中、目が開けられないとき、何かこの世のものではないものがいるのではないかとビクビクしたことがある。


「この時間に売ってる店なんかあるのかな」


「ん?」


 晴夏は夜空を見上げながらゆっくりと歩いている。


 月明かりと外灯が照らす公園の遊歩道は人気がなくてロマンチックだ。周りの車の音とかは聞こえてくるけど、二人だけしかいないこの環境には特別感がある。


「そうだよね。とっさに出てちゃったけど、買えなくても良いよ。夜のお散歩なんて、パパとママには怒られるもん」


「ふーん。俺だから許されるってことね」


「そうなんだよー。お兄ちゃん優しいし」


「そうか?」


 俺は別に優しくしているつもりはない。年下を愛でているだけな気がする。ただ、親に置いていかれた晴夏がかわいそうだとは思うから、寂しい思いは極力だけど、させたくないとは思っている。


「晴夏はさ、これからどうしていくんだ?」


「え?」


「いつまでも俺といるってことでもないだろ? いつかお父さんとか帰ってくるんだし」


「どうなんだろう。いつ帰ってくるかは聞いてないよね」


「流石に夏休みとかになったら会いに来るんじゃない?」


「多分ね。わかんないけど」


 晴夏曰く、パパは仕事人間で、ママはパパの金魚の糞みたいなものらしい、晴夏のことも溺愛しているけど、パパとの仲良しっぷりといったら、どんなに頑張っても勝ち目はないらしい。


 何歳になっても、仲良くいられる夫婦っていうのは憧れている。


「晴夏は好きな子とかいるの? 学校とかでさ」


「うーん、あの男の子かっこいいよね。とかっていうのはあるけど、好きかどうかはわからないかな」


「大人になってみんな言うのがあってさ、小学校の頃はスポーツ出来る子がモテるんだって。中学校はちょっとヤンチャしてるやつ、高校生は勉強できるやつだったかな?」


「じゃぁ、お兄ちゃんは? 大学生は?」


「それは知らないって。俺はずっとそこに属さないで来たし」


 ふーん。って言って晴夏は側にあったベンチに腰掛ける。


「疲れちゃった」


「休んでくか」


「うん」


 晴夏は背もたれに背中をピタッとくっつけると、手を太ももの間に挟み込んだ。


「なんだ? 手冷たい?」


「ううん。大丈夫。ほら!」


 晴夏は右隣に座った俺の左手を両手でギュッと握った。ドキッとした。将来の姿を想像してドキッとしたわけじゃなくて、今の姿のままでもドキッとしてしまっていることが問題なのだ。自分でもロリコンなのではないかと疑ってしまうぐらいだ。


「温かいでしょ?」


「うん。温かい」


「癖なんだよね。挟み込むの」


「そうなんだ。良いね」


「え、何が?」


 半ズボンから見える太ももは何の汚れもないように美しい。一度で良いから触れてみたい。


「そんなに落ち着く?」


「うん?」


「俺も挟み込んでみて良い?」


「え? えっと、あの・・・・・・なんで? どういうこと?」


 晴夏は明らかに動揺していた。挟んでいたはずの手は頰を包み込んでいて、照れを隠している。入れても良いよと言わんばかりに少しだけ開かれた両足。


「恥ずかしいけど・・・・・・お兄ちゃんなら良いよ?」


 俺は何を言った。俺は何を考えた。


 俺の左手は晴夏の太ももの間へと吸い込まれていく。こんなこと知られたら、晴夏の両親に怒られかねない。けれど、俺の理性は止まらないまま進んでいく。


 とてつもなく柔らかい。そしてとてつもなくスベスベしていて、あっという間に椅子の木材に指先が当たった。こんなにも細いのかと実感する。


「どう?」


「落ち着かないね」


「えー、嘘だー。そんなの嘘だって」


 俺は左手を抜いた。晴夏の太ももの温もりがまだ残っている。


 晴夏は否定をしてくるけど、落ち着くわけがない。女の子として魅力に感じている子の太ももの間だぞ。その近くに何があると思う。色々とあるんだ。心臓がドクドクして、高揚する他ないだろう。


「お兄ちゃんなら良いよって、俺のことお兄ちゃんとして見てるんだよね? 男として見てないよね?」


「わかんない」


 晴夏は口を閉ざした。


「晴夏はモテそうだけどな」


「そうかな」


「かわいいと思うよ」


「本当に!」


 晴夏は目を見開いて、俺を見た。よほど嬉しかったんだろう。


「あ、あぁ」


 その勢いに驚いていると、晴夏は小さく口を開いた。


「お兄ちゃんにだけ好きになってくれれば嬉しいよ」

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