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2話 お兄ちゃんの家の鍵?

 肌寒さを感じて、ブルッと身体が震えた。眠たい目を擦り、眩しい太陽の光を浴びた。枕元に置いていたスマホで時刻を確認する。


「七時過ぎか・・・・・・おい、起きろ、晴夏」


 俺が晴夏の方を見ると、ピンク色のパジャマに身を包み丸くなっている晴夏が寝ていた。猫が擬人化したらこんな感じだろうか。


 んーっと声をあげて、身体を伸ばすと、再び丸くなった。


 まだ夏になってないぐらいの時期だから、油断した。ブランケットぐらいは必要だったか。


「もー、朝?」


 晴夏の寝ぼけた声。


「そう、朝」


「学校何時から?」


「ん? 八時十五分に着けばセーフだよ」


「もう八時だぞ」


 驚いたように身を起こした晴夏は、俺の手にあるスマホを取り上げて、時刻を確認した。


「あれ・・・・・・まだ七時過ぎ・・・・・・」


「いやー、ごめんねー。なかなか起きないから嘘ついちゃった」


 あはははは。と笑う俺。女の子座りで不機嫌そうに膨れる晴夏。


 なんだろう。今後うまくやっていけるんだろうか。そういえば、俺はいつまで晴夏の面倒を見ていないといけないんだろうか。


「パパとママはいつ帰ってくるの?」


「お仕事が終わったらだって」


「なんだその曖昧なやつ」


「知らないんだもん」


「それもそうか、朝飯どうする?」


 俺は立ち上がって何もないキッチンへと足を運んだ。


「ほんとなにもないぞ、どーする? 俺行く途中にスーパーでパンとか買うけど、一緒に来る?」


「うん。用意してくる」


 晴夏は目を擦りながら廊下を通過するとパジャマのまま部屋を出て行った。


「朝、弱いんかな、大丈夫か?」


 俺はお風呂についてある鏡で歯磨きをして顔を洗った。遠目にはスーツに見えるような私服を身にまとい、いつも使っている大きいリュックサックを背負った。そして家の鍵をかけると、晴夏の部屋をノックして、ドアを開けた。中には入らずに外から声をかける。


「迎えに来たぞー」


「ちょっ、見ないで!」


 晴夏は制服に着替えている途中だった。上は完全に着替え終わっている。スカートを履いている途中のようで、中腰になり片膝を曲げていた。真横を向いているのでパンツの柄は見えないが、色はピンク色らしい。


 部屋で着替えてはいたが、廊下とのドアを開けっぱなしだったので丸見えだった。


「ピンク色好きなんだな」


「エッチ! 外で待ってて!」


「あ、はい」


 俺は自然と閉まるドアに身を任せ、少しずつ見えなくなる晴夏の姿を微笑ましく見守った。


 もう時刻は八時に近い。小学校がここから近いことは知っているが、スーパーに寄るなら、そろそろ出ないと時間的に危ない。


 カチャッ。と音が鳴った。ドアが開いた。


「よし、行くか」


「うん」


 晴夏は家の鍵をかけて、スカートのポケットへと仕舞い込んだ。


 階段を降りて道路へと出ると大通りへと向かう。


「小学校こっちだろ?」


「うん。よく知ってるね」


「近いからな」


「朝食べてる時間ないかもね」


 俺はポケットからスマホを取り出すと、時刻を確認した。数字は八時五分を示している。


「そうだな」


「まぁ一日ぐらい朝ごはん抜いたって死なないよ」 


「そりゃそうだ」


 晴夏の斜め後ろを歩く俺は、晴夏をチラチラと見ている。ピンク色のランドセル。大きな丸いピンク色の玉が付いた髪留めは、ワンポイントでかわいらしい。そこから垂れているポニーテールは、まさに馬の尻尾から来たであろうネーミングを思わせるかのように揺れている。


「制服もピンクだったら良いのにって思わない?」


「高校生とかになったらリボンがピンク色の学校は探せばあるかもな」


「ほんと!」


 あぁ、呟くと同時に晴夏は足を止めた。大通りに出た。横断歩道がついている十字路だ。


「私、こっち」


 晴夏は右を左を指さした。


「俺、真っ直ぐだな」


「また帰りにね!」


 と言われたが、俺の方が帰るのは遅いだろう。


「いつ頃帰ってくるの?」


 晴夏は俺を見上げた。


「五時には家に居るよ」


「それじゃぁこれ」


 俺はポケットから取り出した家の鍵を晴夏の手に握らせた。そのとき、小学四年生の女の子の手はこんなにも小さいのかと驚いた。


 そりゃぁ、さみしくもなるわな。こんなに小さいんだもん。俺も少しは早く帰ってあげようかな。親じゃないけどさ、一応年上だから。


「お兄ちゃんの家の鍵?」


「俺、帰り晴夏より遅いからさ、渡しとく」


「何時頃になる?」


「七時には帰るよ」


「わかった。じゃぁ、連絡先、交換しておこう。なにかあったら連絡するし」


 しゃがみ込んで地面に置いたランドセルからスマホを取り出した晴夏は、SNSのIDを俺に提示した。


「あぁこれね。おっけー」


 晴夏と連絡先を交換した俺は晴夏にパーの手を出した。


「ほれ、頑張ってこい。ハイタッチな」


 パチーンという音を立てた俺と晴夏の手のひら。


「それじゃ、また夜にな」


 青信号になった横断歩道を俺は渡る。


「いってらっしゃーい」


 という元気な晴夏の声が後ろから聞こえる。俺は軽く手をあげて、下ろした。


 俺は少しでも子供との接し方に慣れてきただろうか。まだ出会ってから二四時間と経たないけど、少しは物腰柔らかくなっているかな。


 それより、晴夏の両親はいったい何を考えて俺のところに晴夏をよこしたんだろうな。仮にもこっちは男で、晴夏は女の子だぞ。色々とわかってんのかな。それともまだ俺のことガキだと思ってるんだろうか。もう晴夏も四年生なんだから、大人な体型じゃないにしても、恥ずかしがる仕草だったり、口調だったりは大人びてるんだし、確実に大人への階段は登ってるよな。

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