歩行者天国
この空は肌色と青色で出来ている。
「危な!?」
真横へ墜ちてきた巨大な足が、土色の瓦礫の山を踏み潰す。
足は毎日決まった時間、決まった場所を踏みつけていく。ゴミを処理する僕らにはとてもありがたいものだ。
「いやー近付くとやっぱり凄い迫力だなぁ」
「おいお前!あぶねぇからこっちこい!」
先輩に呼ばれたので少し後ろに下がる。
先輩は働き者なので、僕らのグループではリーダーとして振る舞っていた。
「この足の主は毎日どこに向かってるんだろう」
「さぁ。まあでも多分、俺達と同じじゃねぇか?」
先輩が工事で出た大量のゴミを押し出す。
「俺達も毎日仕事で同じとこ通るだろ?きっとこの足も毎日仕事に行ってんだ」
「そういうもんですかねぇ」
「おおよ。分かったらほら、お前も足動かせ」
足を動かす先輩に習い、ここで働き始めてから早数ヶ月。妹達の為に働かないといけないことは分かっているが、どうにも毎日に刺激が足りない。一度でいいから遠くへ行ってみたいのだ。
「……そうだ」
翌日、僕は件の足の墜ちるすぐ近くで待ちかまえていた。
そして横合いに足が墜ちてきた瞬間、
「とりゃっ!」
巨大な足に飛び乗ることが出来た。
そこから必死にしがみつきながら見た景色は、今まで見たことのないモノで溢れていた。
それからは毎日、が天国のようだった。
ある日、
白と黒の山
回る空と大地
赤い水溜まり
を見て、それきり足はこなくなってしまった。
先輩は商売上がったりだと言っていたけど、僕にとっては外にいけないことの方がゆゆしき事態だ。
だからもう一度あの足の元へ行きたい。
あの足が埋まった場所へ。
そこで僕は新たな女王になるのだ。