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そして、腐蝕は地獄に――  作者: ヰ島シマ
第一章 出会い、敗北、勝利
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6.深夜の悪夢

 せっかくの一網打尽作戦は失敗に終わり、ベルトリウスは次の案を絞り出さなければならなくなった。

 自分の体……毒が、”鼻が曲がりそう”と言われるまで悪臭を放っているとは思わなかった。こうなると安易に飲食物に仕込んむわけにもいかない。無難に一人一人の寝首を掻いて回るのが一番手っ取り早いかと、ベルトリウスは住民の生活を観察して過ごし、ひたすら夜を待ち続けた。




◇◇◇




 深夜―― 警備当番の男達が徘徊している。外から聞こえた話では、人数も経路も昨晩と同じらしい。


 ベルトリウスはニオイ消しのためにある細工をしていた。まず地面の土と家畜用の飲み水を組み合わせ、べっちょりとした泥状にする。それを爪の間や頭皮まで、薄くまんべんなく塗り込むと、乾き切る前に粒子の細かいサラサラとした砂を落として上塗りする。そこにまた泥状の土を重ね、乾かないうちに砂を落とし……と、繰り返し体を汚すことによって、層の厚い土の鎧を(まと)った。

 家畜と畑に囲まれた村だ、土壌の香りなら目立たないだろう。見た目は酷い土人形になってしまったが、悪臭についてはこれでほぼ解決したと見ていい。

 最後に小屋の柱に掛かっていた長布を服代わりに体へグルグル巻きにすれば、最低限の尊厳は守られた。ついでに長布の近くに置いてあった鉈を腰に下げれば、準備は万端だ。


 まず排除すべき相手は、やぐらに立つ見張りだ。高所の目は早めに摘んでおくに限る。

 ベルトリウスは警備全員の視線が村の外へ向いた瞬間に、音を立てず、つ素早く無駄のない動きで小屋の裏戸からやぐらの足元へと移動した。まさか魔物がすでに村の中にいるとは誰も思っていないため、皆塀の外ばかりに気を向けている。

 十メートルほど続くやぐらのはしごを誰にも気付かれることなく大胆に登り切ると、ちょうどこちらに背を向けていた警備の口を左手で塞ぎ、右手に握った鉈で喉をかっ切った。ンー、ンー、と(うめ)きながら数秒藻掻いた警備であったが、彼の窮地に仲間が気付くことはなかった。

 動かなくなった男をやぐらの床にゆっくり転がすと、ベルトリウスは次の標的……徘徊している警備へと目を向けた。あれが消えれば他の警備も殺しやすくなる。そうなれば、寝ている村人などあっという間だ。


 はしごを下り、裏戸から一旦家畜小屋の中へと戻る。そして警備がちょうど裏戸前を通り過ぎると、静かに扉を開け、先程と同じように口を塞ぎ男の喉に一線を刻んだ。いつ足を引っ張るか分からない死体は井戸に捨てて隠しておく。

 あとは近い順に塀の見張りを同じ手口で殺していった。隣で誰かが死んでいても、案外周りは気付かないものなのだ。




◇◇◇




 ミハの家はどこも煙突が備えてあり、侵入者にとって大変ありがたい設計であった。

 ベルトリウスは邪魔者が消えた村で堂々と殺戮(さつりく)をやってのけた。

 口を塞ぎ、喉を深く切る……警備達に行ったのと同じやり口だが、今回は能力の検証のために鉈に己の唾液(だえき)を付着させて切ってみた。すると、被害者は皆あの野犬と同じように泡を吹いて死んでしまった。血に限らず、他の体液も使えるということだ。そして……。


 ―― 五十六人。一夜にして殺された村人の数だった。


 ただ、二人だけ生き残った者がいる。十代後半の若い男と、その小さな妹だ。

 彼らが朝目覚めると、両親はベッドの上で血にまみれていた。その光景を目にした妹は絶叫して気絶し、兄はそんな妹を抱えながら助けを呼びに家を飛び出たが、どの家を回っても他に生きている人間を見つけることはできなかった。

 兄は呆然としながらも家畜が無事であることに気付くと、荷台に詰め込めるだけの物資を乗せて馬と繋ぎ、妹が御者席から落ちないよう自身の体に縄でくくり付けるとすぐさま出発した。


 ここから西へ数キロ行ったところに隣村がある。助けを求めるんだ。

 兄は両親の亡骸を(とむら)う前に村を去る罪悪感に涙しながら、馬の尻に鞭を打った。


 悲劇の兄妹を乗せた馬車は虚しく野を駆けた。

 荷台にかすかな悪臭を乗せながら。

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