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そして、腐蝕は地獄に――  作者: ヰ島シマ
第一章 出会い、敗北、勝利
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4.遭遇

 落下は数分にわたり続いた。

 味わったことのない終わりのない浮遊感に胃液やら何やらが口から漏れ出しそうなのを耐えることしばらく……ゴゴゴゴッと大きな音が、自身を食らったこの巨大な魔物の腹内に響き渡った。




 クリーパーは地上の上空部分と繋がると、ベルトリウスを腹からほっぽり出した。

 そう、上空。空だ。

 何の準備もしていなかったベルトリウスは受け身を取る間もなく雲の隙間を抜け、尻から地へ落ちた。幸いにも落ちた先が森だったため、木々に引っ掛かり勢いを緩めながら着地することができた。

 元より脆い体はあちこちが裂け、ベルトリウスは痛みに(もだ)えた。


「くっそ……せめてもう少し頑丈な体にしてくれよっ……!」


 誰に言うでもなく吐き捨てると、ベルトリウスはよろよろと立ち上がり、一歩二歩と歩き出した。肉に関してはすぐ裂けるほど脆いが、あの衝撃でも骨が無事だったことを考えると案外丈夫な肉体なのかもしれない。


 当てもなく森を進みながら、ベルトリウスは今後について考えていた。

 命の恩人とはいえ、出会ったばかりの女のために雑用をこなし続けるなんてのはゴメンだった。”誰かのために”、という言葉は性に合わない。

 とはいえ、一度地獄(あそこ)で己が圧倒的弱者であったことを知らされると、当面はエカノダに取り入って行動した方が安全な気がする。


 エカノダは魔物を強化する力を持っていると言っていた。彼女のために働いて自分を強化してもらい、そこそこの力を得られたらキリのいいところで離団しよう。ダメならその時また考えよう。


 とりあえずの目処(めど)を立てたベルトリウスは、今は命令通り人に襲い掛かるしかないと諦めをつけた。

 しかし、そうとなれば、どうやって襲おうか?

 エカノダが与えてくれたという特別な力が何なのかまだ判明していない上に、現状のベルトリウスの装備といえばナイフなど武器の一つも無ければ、最低限の衣服……下着すら身に着けていない。

 ここにきて自分が全裸だったことにようやく気が付いたベルトリウスは、調達しなければいけない物がたくさんあるなと面倒くさそうに頭を掻きながら溜息を吐いた。




◇◇◇




 右手に向かったり左手に向かったり。ふらふらと気分で歩く方向を変えて進んでいると運の良いことに前方から人の声が聞こえてきたので、ベルトリウスは息を殺して近付いた。


「さっきからどんどん臭くなってないか? 近くに腐った死体でもあっかな」

「だとしたら、ここを離れた方がいい。近頃は街道でも魔物が出るって話だ。万が一、森の生き物を食い荒らしてるとも限らねぇ」

「全く恐ろしい時代になったもんだぜ。賊に野生動物、そこに魔物だって? 狩りもできねぇなら俺ら平民はどうやって生きりゃいいんだ」


 視線の先にて不安を漏らし合う二人組の男は背負っていた皮袋を担ぎ直すと、来た道を引き返していった。

 一人は(なた)を、もう一人は弓を身に付けている。魅力的な装備を頂戴したいのは山々だが、ただ奪うにしても無策で出て行っては分が悪い。

 ベルトリウスが何か罠に使えそうな物はないかと、周囲を見渡していると……ふと、一匹の野犬と目が合った。


 ”不味(まず)い”、と思った次の瞬間、予想した通り野犬はベルトリウスに向かってえた。


 すぐ近くで発せられた大きな鳴き声を聞き、背を向けていたはずの男達はベルトリウスのいる方へ注目してしまった。唯一幸いなのは、男達は武器を構えているだけで、こちらに近付こうとはしていない点だ。

 魔物だろうと野生動物だろうと、相手が獰猛(どうもう)な生物なら背を向けて逃げた時点で”襲ってください”と攻撃を誘致しているようなものだ。しかし、だからといって近付いて確認するのもまた愚行。

 正解のない中で、男達の選択は及第点といったところだった。


 ベルトリウスは男達に見つからないよう中腰で茂みを駆けた。勢いをつけたまま野犬に飛び付くと、太く尖った歯が生え詰まった口を力ずくで開け、自身の腕を(ひじ)が隠れるまで思いきり中に突っ込んだ。

 急に喉奥まで入り込んできた異物に野犬は呼吸ができなくなり、最早鳴くどころではなくなるとジタバタと暴れ、その拍子(ひょうし)にベルトリウスの体を自慢の牙や爪で引っ掻いた。すでに満身創痍(まんしんそうい)だったベルトリウスの体からは、さらなる血が流れる。


 一筋の血が腕を伝い、野犬の口内へ流れ込んだ時だった。

 野犬はギョロッと目をかっ開き、大きく痙攣(けいれん)を始めた。


 突然の変化にベルトリウスも少々面食らっていると、口からブクブクと白い泡を吹き出した野犬はそのうちにピタリと動きを止めてしまった。そして四肢をだらんと垂らし、目から生気を失っていった。


 これにより、ベルトリウスはある仮説を立てた。

 己の能力とは、”体液を毒にする”ことではないかと――。


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