おまけ2
ああ。
私は、今、この世界の真ん中にいます。
私、もうすぐ、歴史の本に載りそうです。
本に、私が。
信じられない。ああー、楽しみ。
実は、ジルが、策に策を重ね、なんと、あっさりと、国王と王妃を、追い込んでしまったのです。
仕事はやっ。
玉座の国王陛下が、騎士団の方々に囲まれています。隣の王妃殿下も、騎士に拘束されています。
普段の厳かな雰囲気とはうってかわった物々しい雰囲気に、私の胸の高鳴りは、最、高、潮、です。
ついに、ついに、やってきました。
私は、今日この時のために、何十回、いえ、何万回も、ありそうな台詞を練習してきました。この最終章を、誰が、どのような流れにしたとしても、私は全力で割って入って、厳しく、時には優しく、犯人を説得し諭し、涙あり笑いあり感動ありの名場面を、絶対に、作り上げます。作り上げてみせます。
私は、今日、英雄になるのです。
いいえ、ベ テ ラ ン 家 政 婦 に、なるのです。
騎士団団長が、張りのある声で国王夫妻の罪状を読み上げてから、合っているかを二人に確認しました。
国王は表情を崩すこともないまま、黙秘しています。
あぁ、かっこいい。
このおじさん、私は、実は、ひそかに、けっこう好きです。
王妃は、真っ青な瞳に涙をためて、自分を拘束する騎士を見上げました。美しく甘い王妃の涙に、周りの人々が息を飲みました。王妃は、王妃を押さえる騎士の腕が少し緩んだ隙に、その騎士に詰めより、震える声で訴えました。
「私は。私は、何もしていません。何かの、間違いです。」
甘いけれど意思の強いはっきりとした否定に、若い騎士は迷い、団長に指示を求めました。
王妃は自由になった両手を広げ、今度は周りの人々に訴えました。
「みなさんには、私が、愛する息子に害をなすような悪女に、見えるのでしょうか。」
王妃の問いに、大広間はしんと静まりかえり、皆の視線が、王妃ただ一人に注がれています。
王妃はゆっくりと微笑み、涙をこぼしました。
「私は、何も、しておりません。」
私は王妃の言葉に、鼻で笑ってしまいました。よくもあんな堂々と、嘘がつけるな。すごいな。あの人。もはや見事。お見事。
さすが、犯人。黒幕。毒親。子離れできないダメ母。
まあ、確かに。
息子、には何もしていないですね。
けれど、息子の嫁、には、散々刺客を送っていましたよね。毒も、これでもかってくらい、盛っていましたよね。それはもう、ドバドバっと、ドバドバと。
それを、こんなにも、私は知りませんってシレッと、何にもなかったかのような顔で、無罪を訴えるなんて。はあ、そうですか。ほー。
王妃は、可愛いぃお目目の涙を拭いながら、騎士団団長の両手を小さな手で握りしめました。なんで。なんで、握るの。わざわざ、握る必要、ありますか。近っ。距離近いよ。団長は、愛妻家だから。
「私は、無実です。信じてください。誰かの、計略です。私は、騙されているのです。」
それは、当たっています。
王妃が刺客を手配しやすいよう、毒を手に入れやすいよう、裏で、策をこねこね、こねこね、こねくりまわしていた人物が、確かに、います。要するに、愚かな王妃はその人物にのせられて、王太子妃である私に、散々、嫌がらせをしてきたのです。
私は、国王夫妻のすぐ横で何もせず立っているジルに、視線を送りました。
ジルは私の視線に頷き、母親に歩み寄りました。
いよいよ、ですね。崖のシーンでしょうか。
「あ、それ。俺です。」
え。
ジル、今何つった。
最近、柔らかく微笑むことがなくなったジルが、イタズラを大成功させた近所のクソガキのように、とても嬉しそうに、歯を見せて笑いました。
ああ、そうですか。
そういうことですか。遠足は、家に帰るまでが遠足ですもんね。
ジルは、イタズラは、ネタをばらすところまでがイタズラだと、思っているのですね。
私は、イタズラの仕掛人は、秘密にしておいたほうがいいと思っていました。むしろ、当然、何の疑いもなく、何の相談もしなくても、秘密にするだろうと思って、その流れでしか、私の分の台詞、練習してなかったよ。どうすんの、これ。
嘘でしょ。
人生で、一度あるかないかの感動の名場面、最終章。憧れの犯人逮捕の瞬間を、ジルのおかしな考えで、めちゃくちゃにされそうです。
どうしましょう。
とにかく、ジルの存在をなかったことにして、私が割って入りましょう。話の流れを軌道修正して、感動の、名場面、最終章。感動の。あの、私が一番好きな、崖で崖で、犯人を説得するやつに変えましょう。
私は全てを軌道修正するために、急いでジルの袖を掴み、小さな声で注意しました。
「それ、今、言わなくていいやつ。秘密がいいと思う。」
私の方を振り返ったジルが、子供のように笑いました。
「知った方が、諦めがつくよ。」
ジルの言葉に、王妃はふてくされたように私達を睨むと、悪魔のような微笑みを浮かべて言いました。
「まさか、愛する息子の策にはめられるなんて。呪ってやる。見ていなさい。私が、お前達に屈服することなど、あり得ない。」
王妃は何かを叫びながら、騎士達に連行されていきました。
ああああ、怒らせた。
ジル、だめだよ、怒らせたら。
私は、ため息をつきました。
王妃は、幼いころからの夢を叶えるべく、必死でのぼりつめてきたのに。すごく頑張ってきたから、もう反省して、これからは皆で仲良く、とかさ。王妃のプレッシャーと孤独と戦っていたけど、もう私が代わりますよ、とかさ。あるでしょ、怒らせず、納得させる方法が。
で、王妃が涙を流して私にすがりついて、謝って、仲直り、しないと。
ごめんなさい、もうしません。これからは、皆で国のために尽くしましょう。とかさ。そういう場面よ、今。なのに、あの人、ブちぎれて、呪いの言葉を吐きながら退場ってどういうことなの。
はあ。もう、いいです。
私は諦めました。現実は、やはりドラマのようにはいかないのでしょう。ちぇ。
国王は騎士達の腕を払い自ら玉座を立ち上がり、ジルの目の前にやってきました。
「お前達の今後を、見守ろう。」
威厳のあるその雰囲気に、周りの者達は背筋を伸ばしました。
国王は王冠を取り、ジルにそれを投げました。危ない。この国の、至宝が。
ジルは危なげなくその冠を受け取ると、頭にのせました。いや、だから、それ、至宝だから、もっと大事に扱いなさいよ。
王冠は、ジルの頭にぴったりと嵌りました。
うーーーん。やっぱり、主人公はジルですね。
ジルの主人公補正、強し。私がいくら頑張っても、ジルの物語を軌道修正することなどできないのでしょう。
まあ、いいです。
いいよ。もう。やめやめ。
ジルの物語に介入するの、ヤーメた。
私は、私の物語を、紡いでいけばいいんでしょ。そうします。
読んでいただき、ありがとうございます。
なかなか評価しづらい物語だと思いますが、感想、お待ちしてまーす。




