主人公は、私ではありません。
残念ながら、どんなに美しく天才な私にも、できないことがあります。
それは、王宮に入ることです。
私は意を決し、ジェススの家に向かいました。
お父様とお母様には、会わせる顔がありません。
けれど、ただのフローレンスでは、誰かの力を借りなければ、バーゼル王子に会うことさえできません。
そうならば、利用してやろうじゃありませんか。お父様もお母様も、お兄様もお姉様もフーリィもフィーナも、ジェススの家も。私の美しさも優しさも、チートも、天才であることも。
全て、使って、アイツを落とす。
私は少し目尻に皺が増えたお父様と、応接室で向かい合っています。
私は頭を下げ、謝罪の言葉を述べました。私が至らず、家に迷惑をかけてしまったことを謝りました。
けれどお父様は首を左右に小さく振って、構わないと短く告げただけでした。私が離婚したことで、この家にも迷惑がかかったはずです。それでも、お父様は文句の一つも言わず、ただ、家に戻るよう勧めてくれました。
私は、目に力を入れました。泣きそうです。けれど、泣きません。
私は、笑います。
私はお父様の優しい提案を断り、背筋を伸ばしました。
「お父様、お願いがあります。明日、王宮で開かれる舞踏会に、私を連れていっていただけませんか。」
いつの間にか、部屋にはお母様、フェルゼットお兄様とフィーナも集まっていました。皆が私とお父様を囲うように様子をうかがっています。
「何故。」
お父様の表情の険しさに、私は首を傾げました。お父様はなぜ、あんなにも嫌そうな顔をしているのでしょう。
私は他の家族も見てみました。お母様は心配そうに私を見つめ、お兄様は腕を組みながら考え込んで、フィーナは怒っているようです。
「バーゼル王子に、会いたいの。」
私の言葉に、皆が息を飲みました。
静まり返った部屋に、なぜか、ぴんと張ったような緊張感が漂っています。お父様は険しい顔のまま私を鋭い目で観察しています。
「何のために。」
お父様の質問に、私は家族全員をもう一度見つめてから、はっきりと答えました。
「私、王子を、落とします。」
え。
四人全員が、驚いて口を開けました。
「復讐じゃないのかぃ。」
お父様が鋭いツッコミをいれてきました。
なるほど。
皆は私がジルのことを刺しに行くとでも思っていたのですね。張りつめていた空気が、一気に和やかになりました。
「全く、フローレンス。お前はいつも、私の予想を裏切り、何か面白いことをやろうとするな。」
お父様は楽しそうに笑って、「好きにしなさい」と言いました。お父様が認めたということは、それが家族全員の方針になります。
けれど、フィーナが私に抱きつきながら懇願してきました。
「お姉様、やめて。王子を落とすって。そんなこと、やめて。王子は、私から見ても、ただの役立たずよ。」
フィーナの言葉に吹いたのは、フェルゼッドお兄様でした。
「フィーナ、正直に言いすぎだ。だが確かに、最近の王子は酷いな。だが、俺は応援するぞ。お前のことだ、何か面白い事情があるんだろ、フローレンス。」
お兄様がニヤニヤ笑っています。
意外です。超ド級のシスコンお兄様が、私の恋を応援してくれるとは思いもしませんでした。
すると今度はお母様が、私の両手を握りしめました。
「フローレンス。私は、いつかあの糞餓鬼を絞めようと思っていたのですよ。でも絞めるより、そういう面白い意趣返しの方が、斬新で良い気がしてきたわ。気が晴れやかに、なるでしょうね。」
お母様が、にこりと笑いました。
その時、屋敷の入口の方が騒がしくなり、こちらに誰かが向かってくる足音がしました。
「姉様。居るの。探しまくったよ。どこ。」
弟のフーリィです。
フーリィは部屋に入るなり私を捕まえて、私を責めてきました。
「何で、バーゼル王子のプロポーズ、断ったの。あの人、もう死にそうだよ。」
フーリィがもたらした新情報に、全員が首を傾げました。
「え、あれ、プロポーズだったの。」
一番驚いたのは、私です。




