主人公は、私です。
私が「また」と呟いてアシュリーの手を頭から離そうとすると、逆に、腕を掴まれてしまいました。
「また今度、って。お前、うちにまた、来るつもりか。」
アシュリーの言葉に、私は恥ずかしくなりました。ここを出なくては、そう思っているのに、また来るとすぐに言ってしまった自分を、私は恥じました。アシュリーに甘えている自分が、嫌になりました。
「ごめん。迷惑だよね。もう、来ない。」
私の謝罪に、アシュリーが「いや」と頭を振りました。
「迷惑、ではない。そこじゃない。問題は、そこじゃない。王子と、結婚、するんだろ。」
何を言っているのでしょうか。
私はアシュリーの話の飛躍に、苦笑しました。
「ジル、バーゼル王子との話は、断ったの。そもそも、プロポーズじゃないの。王子は、もうすぐ結婚する。多分、私はまた、謎解き係りだと思う。それか、資料の整理係りか。それとも、何か面倒なことが起きて、私に手伝ってもらいたいのかも。」
私は、作り笑いを浮かべました。
アシュリーが舌打ちをして、眉間に皺を寄せています。
「話は、聞いたのか。」
答えづらい質問です。私は俯きました。
私とジルは、分かり合えない、相性の悪い二人なのです。
「聞いて、ない。聞けば、私はいつも、ジルに騙されちゃう。私にはジルの何が真実で、何が嘘か。いつも、分からない。」
アシュリーが私の頬に手を添えると「バカ」と囁きました。
「フローレンス、お前は本当に、バカだ。何が真実か、嘘か。そんなこと、知る必要もないだろ。」
なんですか。
その意味不明なアシュリー理論は。
「知らないと。私はバカじゃないけど、バカになっちゃうの。」
私が叫びそうになっていると、アシュリーがまた舌打ちをしました。
「お前、自分のことが全く分かってないな。お前は、そもそも、生まれつき、ずっと、バカだ。諦めろ。」
冷たい言葉に、私は叫びました。
「私は、バカじゃない。」
アシュリーが私の口を手で塞ぐと、指に力をいれてきました。
「黙れ。大事なのは、そこじゃない。」
大事なこと。
一体、なんでしょうか。
もう大事なことが何なのか、それすら私には分かりません。
「王子の真実と嘘は、お前にはどうでもいいことだ。問題は、お前の、真実だ。」
私はアシュリーの言葉に、何も言えなくなり黙りました。
私の、真実。
そういえば、私はいつもジルに気づかって、私がどうしたいか伝えてきませんでした。いつも、我慢していたのです。ジルに、嫌われないように。
「私。私の真実。私は、ジルが好き。好きで好きで好きで、頭がおかしくなりそうなほど、ずっと、どこにでも、ジルが、いつも、いる。」
だから、私はどうしたいの。
「一緒に、いたい。」
あとは。
「嫌われたくない。騙されたくない。利用されたくない。他の人と結婚しないで。私を見て、本当に、愛して欲しい。」
アシュリーが、私の額に唇を落としてきました。
「それなら、それでいいだろ。あんなヘタレ王子、お前なら、簡単に落とせるだろ。」
アシュリーの冷たい瞳が、私の瞳を覗き込みました。
小さな頃から私を見つめてきたその瞳が、「私を愛している」と訴えています。自分を信じることができない私よりも、きっとアシュリーの方が、私のことを信じてくれています。
主人公が嫌。
家も嫌。
美しさも、賢さも、チートの全てが嫌。
全て捨てて、本当の私になりたい。
そう、思っていました。
けれど本当は、捨ててしまいたいその全てこそが、私、フローレンスなのです。
主人公もチートも実家も能力も使わなくても、本当の私を愛してくれる人と結婚したい。そう思っていました。
けれど、そんなフローレンスは、この世にいないのです。
私の名前は、フローレンス。
ジェスス公爵家の次女でございます。
私は、賢い。
私は、美しい。
私は、強い。
私は、優しい。
父は魔術師団団長。母は国王陛下の妹。兄は騎士団副団長。姉は公爵夫人。弟は王太子殿下の側近。妹は社交界の華。
私は幼少の頃から冷静沈着で、物事をよく見、考えることができ、社交も完璧で、乗馬やダンスなどもすぐにできるようになりました。
私は、特別。天才、と呼ばれることもあります。
これが、私です。
私は私の全てを使い、あのヘタレ王子を、幸せにしてみようと思います。
「ありがとう。私、行ってくる。」
アシュリー、ありがとう。私を愛してくれて。
「私、もう来ない。ジルのこと、絶対に落としてみせる。」
アシュリーがいつも通り鼻で笑うと、私の髪をなで、背中を押して、私を部屋から追い出しました。
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