主人公は、私ではありません。
私とバーゼル王子が離婚してから、四年が経ちました。
私はあの後すぐに学校に相談し、アシュリーの元を離れました。私は弱りすぎていてアシュリーの優しさを受け入れられず、一人になりたかったのです。
傷ついてボロボロになった私ですが、無事高校を卒業し、当初の予定通り図書館の整理係として職を得ました。たまに、貴族の屋敷で家系図を作る仕事も引き受けています。
独占企業ですので、かなり儲かっています。けれど、贅沢もお洒落もしようとは思えないまま、薔薇色であるはずの十八歳から二十二歳までの四年間を、暗く寒い部屋の中で本に囲まれながら過ごしてきました。
アシュリーは、そんな私の生存確認のため、二月に一度些細な理由で私を屋敷に呼びつけます。今回は、育てているサボテンが枯れそうだから最後に見ろ、というものでした。水のあげすぎでしたので、サボテンの育て方を正しく説明しておきました。
私は美味しいお茶をいただきながら、この屋敷に馴染みすぎている自分に不安を感じています。
私が使っているこのカップは、かわいいです。アシュリーの好みでも、夫妻の好みでもありません。私の好みの食器が、この屋敷には当然のように置かれ、私が来た時にだけ使われます。
けれど、アシュリーは何も言いません。
ただ、私の近況を聞いてそれを鼻で笑い、解散する。
この関係に、私は正直救われています。
そして今朝、バーゼル王子が近々婚約するという記事を読みました。とうとう、この日がやってきました。私が、何かの決断をしなければいけない。今は、そのような時です。
私は、ゲームについても少し思い出しました。
直接教会に行けない主人公フローレンスに代わって、『懺悔の手紙』を受け取っていたキャラクターがいました。
この子は主人公のサポートキャラで、とても可愛そうな立ち位置にいました。
フローレンスを慕いながら、買物に行かされ雑務などを押し付けられ、挙げ句の果てにはフローレンスが狙っている相手の情報収集までさせられます。それでも、このキャラはフローレンスを愛し忠実に言いつけを守りつづけます。
そして、ほとんどの人物が主人公の恋愛対象であるこの物語の中で、数少ない、主人公の恋愛対象にはなれないキャラでした。理由は、このサポートキャラがいないと、基本の物語と恋愛イベントが進まないからです。物語の進行役、とでもいうのでしょうか。フローレンスを愛しながら、フローレンスのために尽くし、フローレンスの物語を守る。それが、このキャラの存在意義でした。
色々なことを思い出す中で、このサポートキャラと、私の体験が重なる部分があったのです。
ああ、私は、ジルのサポートキャラなのだ。そう思うと、全てがきれいに繋がりました。
私は、主人公であるバーゼル王子の物語が紡がれるために必要なイベントなどをこなし終えたのでしょう。そして、必要がなくなったので、捨てられたのでしょう。
多分、私のチートは、全てバーゼル第三王子のためにあります。
私が、ここが物語の中だと知っていることも、中世ヨーロッパ風な公爵家の娘でありながら現代日本人のような感覚を持っていることも、知識も考え方も、王宮に囚われているバーゼル王子を、あの状態から動かすために与えられた、私の基本設定なのでしょう。バーゼル王子が物語を始めるための、踏み台なのです。
私の基本設定があまりにもチートだったため、私は勘違いをして、私が主人公だと思ってしまいました。
物語の進行役が、物語の流れを知っているのは、当然なのに。
はあ。
なんということでしょう。
私は、本当にバカです。
私は誰とでも結ばれる。そう、夢見ていた十八歳のフローレンス、ドンマイ。私には多分、運命の相手などいないのでしょう。
いいえ、そうではないかもしれません。
只のサポートキャラである私には、そもそも『物語』がないのです。それは、無限の可能性でもあります。私は、誰と恋に落ちることもできるのです。
只一人、主人公のジルを除いて。
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