主人公は、私です。
3章はここからです。
私はバカで、なんて男を見る目がないのでしょう。
主人公が、チートが、嫌だった。
強く美しく賢く優しいジェスス家の娘である私フローレンスが、重かった。
皆が私のチートを愛するほど、愛されない自分が惨めだった。
チートを失くした私を、愛してほしかった。
けれど、チートではない私は、下らない人間なのでしょう。そのような私が、誰かから愛されるはずがありません。チートがあったから愛されてきたのに、なくても愛されるだろうと、なぜ私は思えたのでしょう。
私は王宮の豪華な門をくぐり、立ち止まりました。
行くあてが、ありません。私には、行く所も帰る所も、ない。
これから、どのように生きていきましょう。とにかく学校に相談をして、以前入っていた寮の部屋を借りましょう。
ああ。
私、どのように学校へ行けばいいのでしょうか。馬車も、お金も、持っていません。
私は目尻ににじんできた涙を、必死にこらえました。今泣いては、私が、あまりにも惨めです。笑わないと。バーゼル第三王子など、私が捨ててやったのだと、笑わないと。
私は、空を見上げました。
私が目に力を入れて涙を止めていると、ガラガラと砂ぼこりを舞いあげて馬車が走ってくるのが見えました。見覚えのある、馬車です。
「アシュリー。」
私は無意識に、呟きました。けれど呟いてから、頭を振りました。
いいえ。
そんなはずはありません。私達はひどい別れ方をして、学校で会っても挨拶もしない関係を続けています。
プライドの高いアシュリーが、私を許すはずがありません。
けれど、馬車は私の目の前に止まり、開いたドアから現れたのは、アシュリーでした。
私は驚きました。
驚きすぎて、言葉を失いました。嬉しくて、涙が出そうになるのを、また、こらえました。
けれど、ダメ。
今は、ダメです。
今アシュリーの嫌みを聞いたら、私は潰されてしまう。もう二度と立ちあがれない。そのような状態に、私は追い込まれてしまいます。私とアシュリーの関係は、いつでも戦闘モードなのです。気を抜けば、一瞬にして、喰われてしまう。
「フローレンス。」
懐かしい、低くて強引な声に、私は身構えました。
次の言葉は、なんでしょう。私を罵って、蔑んで、笑うのでしょうか、アシュリーは。
私が目を閉じると、懐かしい、子供の頃の匂いがしました。懐かしさに引かれて、幼かった頃の思い出がよみがえってきて、涙が込み上げてきました。辛い思い出も沢山あったはずなのに、笑顔だった毎日しか思い出せません。
その思い出の全てにいるのは、アシュリーです。
「フローレンス。」
いつも私を引きよせる、その声と乱暴な腕。
私の体がアシュリーに包まれて、頬に、アシュリーの頬がすりよせられました。
「おかえり。」
アシュリーが私の耳元で囁いた言葉に、私の涙腺は、決壊しました。
おかえり。
ここに、私は帰ってきて、よかったのでしょうか。
いえいえ。
いいはずがない。いいはずが、ありません。これはずるい。私が、ずるすぎます。
私は、アシュリーから体を離しました。
「おかえり。なんて言われたら、困る。」
私が真剣な表情でアシュリーを見上げると、アシュリーは私の髪の毛で遊んでいました。
「なぜ。うちに、来い。」
アシュリーは何の表情もない顔で、そう言いました。
「何言ってるのっ。私はっ、アシュリーを置いてっ、ジルに嫁いだんだよ。」
私が叫ぶと、アシュリーが顔をしかめて心底嫌そうに答えました。
「だから。」
だから。ですって。
だから、ってなんですか。
「私は出戻りで、九ヶ月で王宮を追い出された、髪も短い、男の格好してる変人よ。ジェススの後ろ楯も、ない。」
自分で言いながら惨めです。私は目を閉じました。惨めすぎて、涙が止まりません。
「黙れ。」
私は、黙りました。
いつもなら、アシュリーに黙れと言われると、腹がたって言い返してきました。けれど今は、私自身が、黙りたかったのです。
「俺には、変わらず、かわいく見える。」
え。
変わらず、かわいい。アシュリーは一体、何を言っているのでしょう。
「え。どうゆうこと。」
私が本気で首を傾げると、アシュリーは私の髪の毛をつまみながら強い口調で言いました。
「フローレンスが何をしても、しなくても、変わらず俺のフローレンスだ。」
何ですって。
いつもと言っていることが、違います。違いすぎます。
「美しくも賢くもなくなったら、いらないって、前に言ったよね。」
私が食ってかかると、今度はアシュリーが首を傾げました。
「何の話だ。フローレンスが美しくも賢くもなくなるはずないだろ。バカか、お前は。」
え。
「どうでもいい。」「黙れ。」
アシュリーの言葉は、全て私を押さえつけて否定するものだと思っていました。私の言葉を聞かず、受け入れず、黙らせるための暴言だと、思っていました。
まさか、逆なの。
逆なのでしょうか。
私の全てを受け入れているから、私が何をしてもしなくても、全てそのまま受け入れる。だからそんなことは言わなくてもいい。
そういうことなのですか。
私は息を飲みました。私は今まで、ずっとアシュリーのことを誤解していたのでしょうか。
「アシュリー。私、バカになった。」
私がそう呟くと、アシュリーは鼻で笑いました。
「お前は、昔から、バカだろ。思い出せ。」
バカになった私も、受け入れてくれるのですね。
ダメダメ。
ダメです。私はアシュリーに絆されてはいけません。
「待って。ダメ。私はジルが好きなの。このままアシュリーとは、行けない。」
私はジルが好きなのに、私を好きなアシュリーと一緒になど行けません。行っては、いけません。
「知ってる。どうでもいい。」
私は、この重大場面に相応しいよう、重々しい口調で涙を流しながら訴えています。けれど、アシュリーの答えは軽くてテキトーで、私の緊張感を剥いで捨てました。
「また一緒にいれば、オレのことが好きになるだろ。」
ジルが好きな私も、受け入れるつもりのようです。
「帰るぞ。」
私はアシュリーに手を引かれて、それを振りほどく力はもうありませんでした。
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