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主人公は、私でした。


 ジルは机で、何かの作業をしていました。けれど(わたくし)が部屋の中を覗くと私に気づいて、目を細めました。



 私は久しぶりに見たジルにドキドキしながら、王妃の手紙と、地図や日記を机の上に広げました。そして簡単に、一つ一つ、私の推理を説明していきました。


 ここがゲームの中であることや、『懺悔の手紙』の意味などには、もちろん触れません。




 私の説明を聞きながら、ジルは肩を震わせ両手を握りしめていました。



「本当は、頼んだ時から諦めてたんだ。俺が、俺なんかが、愛されているはずが、ないって。」


 ジルはそう呟いて、目をギュッと閉じました。そして閉じた目の辺りを手の甲で押さえ、暫くの間、考えていました。



「ありがとう、フローレンス。君以外ではきっと、この真実に辿り着けなかった。」


 ジルは大きく深呼吸をすると、王妃の手紙を丁寧に小さく畳み、胸ポケットへとしまいました。



「フローレンス、一緒に王宮を出て、一緒に生きていこう。」


 ジルのミルクティ色の瞳が、まっすぐ私を見つめてきました。涙で潤んだその瞳に、私は囚われてしまいました。


 ドクドクと速くなる心臓を、真っ赤に染まる頬を、ジルに触れたいという欲求を、私は、抑えることができませんでした。




 その時、私の中の天使と悪魔が急に討論を始めました。



悪魔「フローレンスは騙されてる。」


天使「騙されてなんかないわ。これから二人は、幸せになるのよ。」


悪魔「フローレンスは、ジルの何が好きなんだ。」


天使「好き、じゃないわ。愛よ。フローレンスはジルを愛してる。きっかけは、平民と結婚したいってゆう邪な気持ちだったけど、だんだん彼自身に、惹かれていった。」


悪魔「そうだ。フローレンスは、ジルが王子であることも王宮にあがることも、望んでいない。むしろ、嫌だ。嫌なのに、それでも一緒にいたい。愛してる。ジルが相手である必要がないのに、愛してるんだ。」


天使「素敵ね。」


悪魔「お前はバカか、黙れ。じゃあ、ジルは。ジルは手紙の謎が解けず、解けそうなフローレンスと出会った。ジルにとってフローレンスは必要なんだ。それは、恋でも愛でもない。ただの、打算だ。」


天使「何ですって。あの謎解きには、フローレンスと結婚する必要は無かったのよ。フローレンスが王太子と結婚してても、ジルは頼むことはできたもの。」


悪魔「お前は本当にバカだな。フローレンスが王太子と結婚してたら、ジルの謎解きになんか付き合うわけないだろ。次期王妃は、そんなに暇じゃない。」


天使「そんことないわ。優しいフローレンスなら、手伝っていたはず。」


悪魔「ない。王太子が許さないだろ。そもそもジルが、王太子妃に頼むとは思えない。アイツは謎解きをさせるためにフローレンスに甘い言葉を囁いて、落としたんだ。もしフローレンスを愛してたら、会いたくなって、会いに来るだろ。アイツは、全く、来なかった。会わなくてもいいからだ、フローレンスと。」


天使「それは、忙しかったのよ。フローレンスだって、行かなかった。だから、おあいこよ。」


悪魔「ジルが説明を拒否したから、フローレンスは、行けなかった。ジルが来ないのとは話が違う。ジルはもしかしたら、王太子を恨んでて、王太子の結婚を潰したくて、フローレンスに手を出した可能性もあるぞ。忙しい、だと。アイツは公務もないのに何をしてるんだ。エミリー様と逢い引きか。フローレンスの次は、エミリー王女か。王太子を、笑うために。」


天使「そんなこと、ないわ。ジルは、そんな人じゃない。」


悪魔「どうしたら、そう思えるんだ。ジルの態度と言葉を見ろ。アイツは、悪い人間だ。金も仕事もないのに、フローレンスを王宮から連れ出して、どうするつもりだ。フローレンスは見映えがするから、娼館ででも働かせるのか。」


天使「そんなことないわ。二人は一緒に幸せになるのよ。もし娼館で働くことになっても、それでもいいじゃない。二人で力を合わせて生きることは、素敵なことよ。」


悪魔「天使、お前は娼婦が何をするか、分かってるのか。お前は、ジルと一緒に行けばフローレンスが不幸になることを知ってて、それを勧めてるのか。そうなら、お前は悪魔だ。天使の仮面を被った悪魔。天使は、俺の方だ。」



 ああ、私も、教会に高額な寄付ができていたら、ジルの本心を知ることができたのでしょうか。



 私は、本当にバカです。



 詐欺だと分かっていても、ジルを恨む気にはなれません。



 騙されているとしても、ジルと一緒にいたいのです。



 ただ利用されているだけなのなら、もっと利用価値のある私で、いたいのです。




 謎解きが終われば、捨てられるかもしれない。私はそう思っていました。だから解かない方がいいのではと悩みもしました。



 けれど、ジルは私とのこれからを、考えてくれています。それだけで、十分です。今までのことは、どうでもいいです。



 私は頷き、ジルの手に、自分の手をのせました。ギュッと握り返されたことに安堵して、私は、今まであった全ての悲しい出来事を忘れました。



 もうどこでも、何でもいいから、私はジルといたい。


 一緒に、生きていきたい。



「少し、時間をくれないか。王宮を出る準備と、挨拶しなければいけない人がいる。」


 私はまた頷き、ジルの部屋を出ました。




 こうして、ジルは王妃の呪縛から逃れて、私と一緒に旅立つことになったのです。



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