主人公は、私だって言ってるじゃん。
さあ、ここまでが、この国生れ、この国育ちのフローレンスの推理とその結果です。
では、家政婦チートのフローレンスは、一体何を知っているのでしょうか。
この恋愛小説は、ネットで公表されたもので、主人公のフローレンスと貧乏騎士が大恋愛の末、結婚するまでの紆余曲折をえがいた、何の面白味もない物語でした。
それが、作者は何を思ったのか、まあ遊び半分だったのでしょう、作品の基本設定と恋愛イベントの詳細を公開し、そこに違う恋愛対象を入れて、皆も小説を書いてみよう、という企画を立ち上げたのです。
酔っぱらっていたのでしょうね。
そうしたら、これが思いの外大反響で、数多の相手と、数多のルートが出来上がり、それを更に他人が手直しできるというお祭り騒ぎになったのです。
これが、そもそもこの物語ができた流れです。そして私自身も、この流れの中にいると考えていました。
けれど、王妃の手紙を見た時に、私は違和感に気がつきました。
あれ、これなんか、どっかで、見たことあるなーー、と思ったのです。
そして、思い出しました。この手紙は、小説には出てきません。これは、その後に発売されたゲームの中で登場する、『懺悔の手紙』と同じ形なのです。
ゲームは、小説バージョンがカオス状態になりすぎて、ストーリーを追うことさえ難しくなってしまったこと、単純にゲーム化の要望が多かったためにできました。
主人公フローレンスは、勉強をしたりお洒落をしたりしながら自分の能力値をあげ、イベントに参加して、目当ての彼と恋愛をするのです。
ですがここで、大問題が発生しました。
オタク女子達が創りあげたイケメン達は、あまりにも屈折していて、裏がありすぎて、分岐点での選択問題が、常にヘルモード状態となってしまったのです。
強者女子達はこれに歓喜し、やり込みを生き甲斐としていたのですが、普通の方達の賛同は得られずゲーム離れが起きてしまいました。
そこで運営が出した新たな手が、『懺悔の手紙』という救済システムでした。
この物語の中には教会があります。プレイヤーは課金をして、教会に寄付をすると神父が出てきます。神父は、プレイヤーにどの選択肢をやり直したいのかを聞いてきます。そして、その選択肢に対応した『懺悔の手紙』を渡してくれるのです。
『懺悔の手紙』とは、相手キャラクターの本心です。
例えば、相手がジルだったとしますね、そしてイベントは私が第七図書館でジルにクッキーを渡し告白しようとした場面だとしましょう。
ゲーム中の質問は、
『プレゼントに、何を渡しますか?』
そして選択肢は、
『1クッキー、2チョコレート、3おはぎ、4何も渡さない』
だとしましょう。
私はすでに、『1クッキー』を選んでいる状態です。そうすると、ジルの本心である『懺悔の手紙』はこんな感じになると思います。
『フローレンスからクッキーを渡された。苦いチョコレートが好きなことを、覚えていてくれたんだ。嬉しい。いっぱいチョコが入ってるな。しかも、クッキーには告白と同じ意味がある。』
これが、ジルがクッキーを渡された時の本心だとプレイヤーが知れば、選択肢は合っていそうなので、選択をやり直さず、そのまま続ければいいです。
ではプレイヤーが、不正解の選択肢『3おはぎ』を選んでいた場合は、どうなるでしょう。
『おはぎだった、がっかり。小豆は苦手だ。なんでこの国でおはぎを出してくるんだ、あり得ない。いや、むしろ、貴重なおはぎを、という愛情の込め方だろうか。いや、この国の習わし通りに愛を込めて欲しかった。』
ジルの本心を見る限り、嬉しそうではないので、この選択肢は間違っていると予想できます。そして、この国の習わし通りに愛を込めて欲しい、と言っていることから、この国で告白と同じ意味を持つクッキーが欲しかったはず、と予測ができます。結果、選択肢を『おはぎ』から『クッキー』に変更すればいいのです。
と、いうように、主人公フローレンスに対するジルの本心が、この『懺悔の手紙』には書かれているのです。
このヒントを元に、プレイヤーは選択肢を選び直すことができます。ただし、あまりにも前の選択肢を選び直すと、物語全体が変わってしまうので、選べるのは二個前の分岐まででした。
王妃は『懺悔の手紙』に、愛する息子、と書いています。と言うことは、それは王妃の本心です。王妃は「息子」を愛しています。
そしてもし、この「息子」がジルを指しているのであれば、王妃はジルを、愛しています。
私は、手紙について、司書に確認しました。
ゲームの中で課金をすると、神父様が出てきてやり直したい選択肢を聞いてきて、教えると、神に祈ってくれます。そして、天から『懺悔の手紙』が降ってきます。手紙には、相手や自分の名前は書かない、という決まりがありました。
こちらでも同じで、記名せず、それを封筒に入れ、教会に送るようです。すると、神父が内容を確認し、神に赦しを得るために祈ってくれます。こちらの人々は、他人には言えない罪や後ろめたい気持ち、許されない野望などをこの手紙に吐き出し、神父様に読んでもらい赦してもらうことで、心の安定を手に入れるらしいです。
私は知りませんでしたが、司書が今隣で、熱弁しています。
さて、情報が沢山ありすぎて、混乱しそうですので、整理してみましょう。
①この物語は小説ではなく、ゲーム版のようだ。もしくは途中からゲームに変わった。
②『懺悔の手紙』には、書いた人の本心が書いてある。
むむ。
私はおかしなことに気づきました。
『懺悔の手紙』は、ゲームの中では、主人公のもとに、のみ、集まります。
そうですよね。選択肢をやり直す情報を持っていていいのは、課金した、主人公だけですから。
ですがこの手紙は、ジルの物です。いや、私の手元にあるので、私の物、なのでしょうか。いやいや、これはいつか返しますので、ジルの物です。
あれ。
こちらの世界では、ゲームと異なり、主人公以外の人にも『懺悔の手紙』を見る権利があるのでしょうか。
私は司書に確認しました。
司書は勢いよく頭を振りました。ダメダメ、ダメダメ。絶対にダメ。『懺悔の手紙』はとても個人的なもので、絶対に誰にも見られたくない内容を書くので、だって神への懺悔なのですよ、神父以外が読むことは許されません。まして、他人の『懺悔の手紙』を手に入れるなんて、あり得ません。絶対にダメです。そんなことしたら、もうその教会には誰も行きません。
と、言っています。
なるほど。そうですよね。見られたくないですよね。
では、なぜ。主人公である私ではなく、ジルの手元に、手紙があるのでしょうか。
あれ。主人公、私ですよね。
ん。まさか。
まさか。まさか。私がトラックに跳ねられた後に、男主人公版ゲームが、発売されたのですか。
もしかして。
まさか。
私、攻略対象の方ですか。
嘘でしょ。




