主人公は、私ではないのでしょうか。
私とジルが婚約してから、三ヶ月が過ぎました。
私は、平日は相変わらず客室から学校に通いながら、休みの日はジルと王宮で過ごしています。
そして突然なのですが、正式に、結婚することになりました。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
私は今、最高に幸せです。
ジルに片想いをすること一年弱。両想いになってから三ヶ月。走馬灯のように思い返される日々に、私はつい涙ぐんでしまいました。そして、これからの毎日を考えると、ドキドキワクワクが止まりません。私が、主人公です。
私、
こんなに幸せで、
いいのでしょうかーーーーーー。
私達は、式も挙げず披露宴もないまま、こっそりと結婚申請書を教会に提出し、受理されました。
いいのです。私は、純白のウェディングドレスなど、全然、全く、微塵も、1ミリも、望んでいませんでしたので、いいのです。これで。はい。
こうして私は、数少ない荷物を、ついに、ジルの部屋に置くために、整理をしています。たった今から、私は、ジルの部屋の住人です。ドキドキですが、嬉しくて、嬉しくて、また涙が出そうになりました。私は今までの思い出達を噛みしめながら、部屋を掃除しています。
私が鼻をすすっていると、ドアが叩かれ、ジルが慣れた様子で入ってきました。
私達は、あのプロポーズから、一時も離れず、一緒に過ごしてきました。私はジルに慣れ、ジルも私に慣れて、私達はとても良い距離感にいます。
更に、今から、甘い、甘い、甘い、新婚生活が、始まるのです。きゃ。
私がニヤニヤしながら目の前の旦那様を眺めていると、ジルが、一度私から視線を逸らしてから、姿勢を正し、私を正面から見つめ、頭を下げてきました。
「君に、頼みたいことがあるんだ。」
私は首を傾げ、どうぞと促しました。
何でも、頼まれますよ。
「この手紙を誰が書いたか、調べて欲しいんだ。」
そう言って、ジルが少し黄ばんだ紙を渡してきました。私は半分に折られていたそれを開き、簡単に目を通してから、頷きました。
「俺達は結婚したから、フローレンスも図書室の、王族専用の部屋に入れるようになった。多分そこにヒントがあると思う。」
ジルはそう言うと、今日はもう遅いから明日また、と、部屋を、出ていきました。一人で。
え、私は。
私は、一緒に行かなくていいのですか。
あれ、せめて、せめて、お休みのチューは。
ないの。
ないのかよ。
んん。
いいえ、ちょっと、物事が理解できないのですが、私は、バカになってしまったのでしょうか。
あれ。今日から、私達、夫婦ですよね。新婚さんですよね。いらっしゃい。ですよね。あれ。あれ。
え。
どういうことですか。
時を、戻してみましょう。
私達は本来であれば、王太子より弟が先に結婚するのはよくない、という理由で、王太子とエミリー様のそれを待って、後日式を挙げる予定でした。
けれど、エミリー様の国の事情で、二人の結婚が二年後になってしまいました。私は仕方がないと諦めていたのですが、ジルは大慌てでそれは困ると両親に訴えました。いつも何も言わないジルが抗議したことに、王や王妃は驚いたようです。
けれど、結局、私達も二年後以降に、ということになりました。
あ、そういえば、その時ジルが、確認していましたね。
「王族専用の部屋には入れるよう、手配していただけませんか。」
けれど、これも断られていました。
そうしたら、私とジルを見て、申し訳なさそうにしていたエミリー様が、国王陛下にとりなして、私達の籍をすぐに入れられるよう説得して下さったのです。ジルは無邪気な笑顔で、感謝の言葉を述べていました。
私はてっきり、ジルは早く私と結婚したいから抗議をしてくれたのだと、嬉し恥ずかしだったのですが、違うのですか。
王族専用の部屋も、私のために、早く許可をくれと言っているのだと、思ったのですが。違うのですか。
何か、おかしいですね。
いや、おかしくはないか。
いやいや、何もかもが、おかしいよ。
何なの、この手紙は。
甘い、新婚生活は。どこいった。
待て待て待て待て。
え、この手紙を誰が書いたか知るために、ジルは、私と、結婚したのですか。
いやいやいや、流石にそれはない。それはないですよね。そんな理由で乙女と結婚するなんて、あまりにも酷いです。ジルが、そんな酷いことを、するはずが、ありません。
そもそも、この手紙はどうでもいいのです。
だって、私は、頼まれれば、快く、家政婦でも、探偵でも、スパイでも、殺し屋でも、します。してみせます。問題は、そこではありません。
なぜ、結婚したら、私達の距離が、離れてしまったのでしょう。問題は、そこです。
ダメダメ。
冷静に。冷静に。状況を整理しないと。家政婦にならないと。
家政婦。やはり、私は、家政婦。なのですか。
主人公には、なれないのですか。
あ、ダメだ。寝る。




