主人公は、私ではないですか。
「あ。」
王子が、本棚の奥の壁にかけてある絵に気がついて、気まずげに、私を違う方向へと誘導しはじめました。
私は気になってしまい、王子の横を通り抜け絵の前に立ちました。
そこには、中央に国王が座り、王妃、王太子がその左右に、それから何人もの側室達と息子、娘達が描かれた、家族の肖像画がありました。確か、王子は十三人いるはずですが、案の定、ジルが足りません。
けれど私は、納得もしました。
国王一家は、全員、金髪碧眼なのです。なんでしょうか、これは。気持ち悪いです。あの国王は、金髪と碧眼だけを愛しているのでしょうか。ため息しか出ません。
私がげんなりしながら絵を眺めていると、王太子が、上の方から、私を、見下ろしていました。
「このプライドの高そうなディミトリ殿下が、エミリー様と行くことを選ぶなんて。」
私は、絵ですら他人を見下していて、現実でも威圧感を振りまいているディミトリ殿下を眺めていたら、つい思ったことが口にだていました。妻の傀儡になることを認めるなんて。おかしいですね。何か、裏があるのでしょうね。何か、ドロドロとした、理由が。
ああ、ダメです。
私、これでいいのでしょうか。
歴史と、現実が、もう、ごちゃごちゃになっています。私は歴女なのに、これではリアル家政婦です。
まあいいか。楽しいし。
とっても、楽しいし。
「何かあるのでしょうか。」
私は、王子の情報通を見越して、不思議そうに尋ねてみました。案の定、王子は、嬉々として話し始めました。
「そうなのぉ。エミリー様ってっ、怖いんだっ。すごいんだぁ。」
王子が指で王太子の顔をなぞり、ふふと笑いました。
「ディミトリ兄様は、最初すっごい警戒してたんだぁ。しかもぉ、自分の取り巻き達がエミリー様の側に侍るようになってっ、苛ついてたっ。毎日こわかったぁ。でもエミリー様は、兄様を誉めてぇ、誉めてぇ、王業など他人に任せ自由に生きることが兄様には相応しいってっ、洗脳したらしい。」
なるほど。上手い手ですね。
王太子の自尊心を刺激して、言うことを聞かせるなんて。
私が感心していると、王子が、私の顔を覗き込んで、頭を左右に振りました。
「でも僕は、そうじゃないと思うんだよなぁ。」
そう囁いたまま、王子が、口を閉じました。
私は王子の意見が気になり、気になり、気になって、先を促しました。
「兄様はバカだけど、頭が悪い訳じゃないんだぁ。多分、自分が王の器ではないことに気づいてたんだと思うぁ。あと最近、バーゼルお兄様の優秀さにも気づきはじめてたのかもぉ。そこにエミリー様の話が来てぇ、渡りに船でぇ、自分のプライドを守るために国を捨てることを選んだんだよぉ、きっとっ。」
むむ。これは、この意見は、鋭いですね。
ドロドロですね。ドロ山ですね。
王子は私の手を引くと、図書室の入口付近のテーブルに連れていきました。そこにいた司書を移動させ、分厚い資料を指差し、私に囁いてきました。
「見て、見て。これ。」
それは、図書館の貸し出し記録でした。
本は貴重なので、誰が何を借りたのか、司書が勝手に記入するのだそうです。王子は最後の方の頁を開くと、また、指を差しました。
「最近、ディミトリ兄様が借りた本。魔法書ぉ。土魔法についてぇ。魔法の歴史ぃ。魔法と王家ぇ。」
私は王子の意図が分からず、続きを待ちました。
「多分、バーゼルお兄様が土魔法の使い手だって気づいてっ、調べたんじゃないかなぁ。それで気づいたんじゃんないかなぁ。バーゼルお兄様はぁ、出来損ないじゃないって。」
この子は、目ざとい。
敵にまわったら、怖いですね。私はもう一度、この子を大事にしようと心に決めました。
でも本当は、決心などしなくても、きっと、多分、いいえ、絶対に、私は、この子を敵になどまわせないのです。
「王子。眼鏡を、取っていただけませんか。」
私がお願いすると、その脈絡のなさに王子が驚いて、顔を赤らめながら一歩後ろに下がりました。
初ですね。私も、他人のことは言えませんが。
「眼鏡に、ゴミが付いていますよ。」
私はそう言い、外された王子の眼鏡を自分のシャツの袖で磨きました。そして、眼鏡のない王子の顔を、意を決して、見、見、見まし、見ましたっ。
ぶっ。
鼻血。鼻血。鼻血が。
イケメン。
イケメン。
イケメンきたーーーー。
そりゃそうだ。この子は、私の理想のイケメンなんだからっ。
キラッキラッ輝く瞳と、スッと伸びた鼻筋、大きくて厚い唇。一見、ゴツいのだけど、笑うと顔に皺がよって子犬のようになる、癒し系イケメン王子。素直で情熱家。優しくて、かわいい。頭が良い、勉強家。目ざとく、情報通。今はまだ子供ですが、もうすぐ、大人の色気を放つ、良い男になります。
私の、理想の彼氏。
数多創った男性達は、癖があったり、病んでたり、恋愛はご遠慮願いたいタイプでした。その中で、只一人この子だけは、私の理想の彼氏として作り上げた、最高傑作の、良い男なのです。
はぁああ。
かっこよすぎる。




