主人公は、私です、もっちろん。
何かが、おかしいです。ジルの、扱いが、おかしいです。
従者がいない。
部屋が質素。
公務がない。
ジルと婚約した私は、誰かに紹介されることもなく、ひっそりと来客用の部屋を与えられ、結婚するまではそこで過ごすよう言われました。学校には、馬車で、ここから通っています。
ちなみに私にも、公務はありません。
私はいったい、王宮で何をすればいいのでしょう。
あ、もちろん。フローレンスは、王宮の中を探索して、名所巡りをする予定です。かの有名な初代国王とその息子が決闘をして、その際にできた傷が残っていると言われている庭の柱を、今日は見に行く予定です。その後は、図書室で本を漁る予定です。憧れの、王宮の図書室です。ああ、楽しみすぎる。涎。よだれ。
けれど、私がフローレンスではなく、貴族の娘だとしたら、一体、何をしながら日々を過ごせばいいのでしょうか。
あ、コネ作りか。
もしくは、美容に時間をかけるのでしょうか。
けれど、私には、お金がありません。お金がない場合は、どうすればいいのでしょうか。ジルに、貰うのでしょうか。難しい問題ですね。だって、多分、ジルも、お金を持っていないのです。
王宮は、力関係がはっきりしています。
例えば、今日は天気が良いので紅茶を庭で、と、考えたとします。
誰も庭にいなければ、お洒落をしてそこでお茶会をはじめて良いのですが、私達には準備をしてくれる使用人がいないので、そもそも無理です。
では、王の側室がお茶会をはじめたとします。そこに王妃が来れば、当然、場所を譲ります。その準備や片付けは、全て、従者がするのです。
買物の支払いも、王族はせず、従者がします。
だから、従者を持たないジルは、何もできないのです。
これは、明らかに、誰かの、陰謀です。
おかしいのは、国王一家です。
いえ、王妃、でしょうか。
ジルは、ひとりぼっちです。こんなにも人が沢山いる王宮の中で、たった一人で、生きてきたのでしょうか。
私は考え事をしながら長い廊下を歩いて、王宮の図書室にたどり着きました。
何かジルに関する資料を探そうと、本棚を物色していると、最近の王族の行動履歴が記された資料がありました。
私はそれを手に取り、けれど、開くことができません。
ここに書いてあるジルを見て、私はどうするのでしょうか。私はジルが好きなので、ジルのことは全て知りたい。この資料を読みたい。今すぐ、読みたいです。
けれど。私は、私が見ているジルを、信じるべきではありませんか。ここに何が書いてあろうと、私はジル本人の言葉を、行動を、信じるべきではありませんか。
私は資料を閉じ、棚に戻しました。
初代国王の資料を探そう。そうだ、そうしよう。
「フローレンス様、ですか。」
その時、突然、後ろから声をかけられました。私は振り向くと、はいと答え、相手を確認しました。
あ。あああ。
ああ。
「僕、この国の第五王子です。はじめまして。」
はじめてじゃないよ。はじめて、じゃない。
第五王子。
私が創った、子。




