主人公は、私でよさそうです。
彼は、一体誰なのでしょうか。
さあ、家政婦の時間です。
彼の、整えられていない髪型とゆったりとした服装から、多分平民か、貴族だとしても困窮している家の出身だと思われます。けれど、彼の、あの笑み。あれは困窮している人間にはできない、余裕がないと出ない表情のように思われます。渡された紙も、そこそこ上等な物で、字はとてもきれいです。そうなると、彼は裕福な平民の家出身でしょう。実際、私は他の学年でも、ほとんどの生徒の顔を覚えています。けれど、彼の顔に見覚えがありません。ということは、数多いる貴族達が過ごす談話室や食堂には来ない、平民だという結論が導かれます。
私は家政婦が大好きですが、彼女と同等の推理力も持っている、とは言えません。誰かに調べてもらえればいいのですが、逆に私が詮索されそうで、嫌です。
それにしても、例え無欲だとしても、ここの学生なら私と知り合いになろうとするはずです。私には、それだけの価値があります。私の実家は貴族の頂点に位置していますし、私自身も、文武両道で著名です。それに、私は、かなり、可愛いです。この物語の主人公ですしね。
あえて、声をかけなかった理由が、あるのでしょうか。貴族が嫌い、我が家に恨みがある。公爵家のフローレンスだと気づかなかった、私に全く関心がないか、むしろ関わりたくないと考えている。最後の理由ではないと、いいのですが。
年齢は、あの落ち着いた雰囲気からして、私より上だと思われます。そうなると、私は二年生、彼は三年生、今年はもう二ヶ月終わっているので、彼と過ごせる期間は十ヶ月だけです。
とにかく、周りから情報を得られない以上、自力でやるしかありません。さあ、行きましょう。図書館へ。頑張れ、私。
私は盛大にため息をつきました。
来ないなんて。今日は、帰ります。