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主人公は、bではないが、なってみたい。


 何をするにしても、俺には絶対的に足りないものがある。俺の手足となり、俺のために情報を集めてくれる、信頼できる部下がいない。

  



 俺は騎士団本部へと向かった。



 そこで副団長に面会を申し入れた。


 王宮とは違い、装飾が全くない無骨な造りの部屋に俺は通され、紅茶を出された。窓の外を眺めると、激しくぶつかりあいながら、懸命に訓練に取り組む騎士達の姿が見えた。



 本来なら、何年も共に過ごしてはじめて、人とは信頼関係が築けるのだろう。だが生憎俺は、全くそういう繋がりを持っていない。お母様の間者を借りても、俺に尽くしてはくれないだろう。それなら、いっそ俺への忠誠より、フローレンスへの敬慕を利用することにした。



 その時、扉がノックされ、部屋の主が現れた。


 フェルゼッド・ジェススは、俺の前まで来てお辞儀をすると、俺に上座のソファを勧め、自分は扉に近い椅子に腰掛けた。



 フローレンスに似ている。背が高く、均整のとれた筋肉質な体型は似ていないが、柔らかい金髪と真っ青な瞳が同じだ。確かもうすぐ三十だったはずだ。


 俺は、あまり面識のない従兄弟に、頭を下げた。


「お願いがあります。情報収集ができる人材を一人、暫くの間、借して頂きたい。」

 

 王族は、頭を下げない。それは百も承知で、俺は頭を下げた。



 フェルゼッドは紅茶を口に運びながら、俺を観察していた。言葉はなくとも、威圧感がある。この男に見られているのだと思うと、喉が渇いて体が固くなった。



「それは、バーゼル王子としての命令ですか。それとも、従兄弟のよしみで、頼んでいるのですか。」


 フェルゼッドの質問に、俺は首を左右に振った。


 王子の命令でも、従兄弟のよしみでも、信頼できる間者の調達は無理だ。恐らくそれでは、この男は間者という貴重な存在を俺に貸してはくれないだろうし、借りられたとしても、いつ俺が裏切られるか分からない。


 そんな部下に、自分の命を預けるわけにはいかない。



「いいえ。私は、将来フローレンス殿と結婚します。王子としてではなく、従兄弟でもなく、フローレンス殿の愛する相手である私に、貸していただけませんか。」


 フローレンスの愛する男。


 これなら、妹達を溺愛していると有名なこの男から、絶対に俺を裏切らないよう命令された間者を、借りられるはずだ。


 俺は、祈った。



 フェルゼッドはあからさまに驚いてから、笑い出した。


「面白い発想だな。まさか、フローレンスを出してくるとは思わなかった。」


 そう全身で笑いながら、瞳は全く笑っていなかった。俺を射抜くのではと思うほどに強い視線を、フェルゼッドが俺に向けてきた。


「妄想は、程々に。これ以上、フローレンスの名誉を汚すようなら、王子でも容赦できんな。」


 俺を軽蔑し、見下したように、フェルゼッドが吐き捨てた。



 俺は鞄の中から、フローレンスから渡された歴史早見表を取り出し、彼に渡した。最初は胡散臭そうにその資料を眺めていたフェルゼッドが、眉間に皺を寄せた。間違いようのない妹の筆跡と、少し歴史を勉強したことがある者になら分かる、その資料の特異さ。こんなにも実用性の高い資料は、見たことがないはずだ。数多の情報を取捨選択しまとめる力。こんな資料が作れるのは、天才と名高い、フローレンス以外にいないだろう。



「なるほど。確かに、これはフローレンスの物だな。それで、これはどうやって手に入れたんですか。」


 フェルゼッドの瞳は、明らかに、「お前、これをどこで盗んだんだ」と語っていた。



「裏を、見ていただけますか。」


 俺の言葉に、フェルゼッドが資料を裏返すと、そこにはフローレンスの筆跡で、ジルへ、と記されていた。良かった。俺が偽名を使っていたら、この資料は証拠として使えなかった。


「なるほど。だが、話が全く見えん。どこで二人は接触した、何が、どうなったんだ。」


 俺はその問いに、問いで返した。


「フローレンス殿とは、第七図書館で会っています。その様な情報は、聞いていませんか。」


 フェルゼッドが目を丸め、俺を見つめてきた。


「まさか。平民だと聞いたぞ、図書館の男は。アシュリーか、あのガキ、ジェススに嘘の情報を流すとは、随分成長したもんだな。」



 フェルゼッドが深いため息をつき、俺に目を向けた。


「なるほど。それで王子は、なんで俺のところに来たんですか。」



 俺の頼みの綱は、この男だけだ。間者を貸してくれそうな人間など、そういない。だが、この男なら、もしかしたら。



 俺は唾を飲み込み、話しはじめた。


「ジェスス公爵は、王太子とフローレンス殿の婚約に賛成していると聞いています。ですが、兄である貴方なら、馬鹿で、愛人と子が既にいる王太子のもとに、可愛い妹を嫁がせるのは可哀想だと思っているのではないかと、考えました。」


 紅茶をもう一口、口にして、長い間をとってから、フェルゼッドが頷いた。


「なるほど。俺なら、二人を応援してくれそうだってことか。悪くない考えだ。俺は確かに、フローレンスをあの王太子にやるのは、反対だ。」


 俺は本音を見せたフェルゼッドに驚きつつ、俺の推測通り、王太子とフローレンスの結婚に反対している、という言葉に、安堵した。



 だが、すぐにフェルゼッドは俺を軽く睨みつけて、嫌そうに言い放った。


「だが、じゃあ、第三王子ならいいな、とも思わないな。失礼ですが、王子にそんな価値があるとは、思えんな。」


 フェルゼッドは、俺をバッサリと切り捨てた。王族に向かってここまで言うとは、わざとなのか。俺を、フローレンスに相応しいか、試しているのか。



 俺は、返す言葉に困った。


 確かに、俺には何もない。俺ですら、何故フローレンスが俺を好きになってくれたのか、分からない。情けないな、俺は。自分の力ではなく、フローレンスに頼らないと何も得られないなんて。


 それでも、俺は、今はそれに賭けるしかない。


「確かに、私には今、誇れることは何もありません。ですが、フローレンス殿が、俺を愛してくれた、その事実を、信じていただけませんか。第三王子としてではなく、フローレンスが愛した者に、賭けて、いただけませんか。」


 俺がもう一度頭を下げると、フェルゼッドはため息をついた。


「能なしの王子だと聞いてたが、まあ、気概だけは、あるな。」


 フェルゼッドが眉間に皺を寄せながら、腕を組んで考え込んだ。やがて、小さく首を傾げて、俺に尋ねた。


「この先、どうするつもりですか。」


 今後のことを聞いてくれるなら、脈はある。


 俺は小声で、囁いた。


「王太子に、新たな婚約者を用意するつもりです。」


 何の権力も持たない俺が、一国の王太子に婚約者をあてがおうとしている。俺の策は、筋は通っているが、無謀だ。



 案の定、フェルゼッドが、笑った。よくもお前ごときが、そんな大それた計画を考え、考えただけでなく実際に行動にうつそうとするな。


 馬鹿か。そう、瞳が語っていた。フェルゼッドの真っ青な瞳が、大きく丸められ、そう、語っていた。


 語っていたけれど、笑ってもいた。


 こういう男は大抵、無謀なことをしようとする馬鹿が好きで、応援したくなる。と、恋愛指南書に書いてあったが、どうだろう。



「なるほど。俺の侍従を貸そう。」



 俺は歓喜した。



 ジェスス家の間者を貸してくれるとは思いもしなかった。きっと優秀に違いない。俺は、また頭を下げた。


「ありがとうございます。ただ、見返りになるような物を、私は何一つ持っていません。その代わりに、その者が見て聞いた情報をそのままお渡しします。王宮の中まで、自由に入れるよう手配できます。」


 俺の提案に、フェルゼッドが息を飲んだ。


「金品などいらないが、王宮の情報は、正直魅力的だ。金品よりよほど価値がある。が、そうすると、王子、貴方の情報も、こちらに筒抜けになるが。」


 なるほど、この方は、フローレンスの兄上だな。怖いが、良い方だ。俺に対してまで、気を遣ってくれるとは。



「構いません。フローレンスの為なら、何でも売ります。」



 俺が笑顔で答えると、フェルゼッドはまた笑い出した。二人のこれからを楽しみにしている、そう言って、ジェスス家お抱えの間者を俺に付けてくれた。




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