主人公は、bではないが、なれるだろうか。
フローレンスと何度か図書館で会った後、俺に付いている護衛が、突然、膝をついて話し始めた。
「バーゼル王子。どうか、あの方には今後近づかぬよう、お願い申しあげます。あの方は、ディミトリ王太子殿下のものでございます。」
フローレンス、君はディミトリ王太子殿下の物らしい。
「失礼ながら、あの方が、バーゼル王子のものになることは、ありえません。どうかすぐに、身を引いていただきたい。他のご令嬢を、お考えください。」
ダメだと言われると、欲しくなる。俺は愚かな人間だ。
「私達は、純粋に歴史について話し合っているだけだ。疑いがあるなら、私達の会話を聞いていればいい。」
会話を聞く許可を出した俺に、護衛は驚いて、頭を下げ、分かりましたと答えた。
俺はこうして、フローレンスとの会話に細心の注意を払うようになった。護衛が二人の会話に聞き耳を立てている。男女の関係を疑われるような内容にならないよう、彼女の発言に注意し、うまくかわすことを心がけた。もし護衛に少しでも怪しいと思われれば、俺はもう、フローレンスと会うことはできないだろう。
フローレンスと別れ、学校からも出たところで、護衛が膝をついて謝罪してきた。
「バーゼル王子。本日お二人の会話を聞かせていただき、私、感服致しました。王妃殿下には、私から、バーゼル王子は純粋に歴史について学んでおり、他意はないことを報告させて頂きます。」
俺は息を吐いた。
良かった。とりあえず今日は、怪しまれることなく乗り切れた。この護衛からの報告で、お母様も安心するだろう。
この護衛もお母様も、恐らく、無能な俺が、兄の婚約者候補に言い寄ることなどできないだろうと思っている筈だ。ただ、フローレンスと俺が何の理由もなく二人で会っていれば、疑わなくてはならない。それに対して、正当な理由があれば、暫くの間は二人が会うことは許されるだろう。歴史の勉強のためと言い、実際に歴史についてしか話していなければ、皆納得するだろう。
その間に、俺は何か作戦を考えなければ。
フローレンスを手に入れるなら、殿下との婚約をどうするか。お母様をどう説得するか。
俺は、考えなくては。強引な方法ではなく、皆が納得し動いてくれるような、良い案を。
俺に、できるだろうか。
殿下や殿下やお母様を、俺が動かすなんて。そんなことは、今までに一度もしたことがない。
考えたことすら、ない。
「バーゼル。ダンスは、まあまあ、かしら。もっと華やかに踊れるようになるといいのだけれど、センスの問題かしら。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。いいのよ。どうか、そんな小さな事は気にしないで。貴方は、貴方よ。ダンスが下手でも、例え何も出来なくても、かわいい私の天使であることにかわりはないわ。そうでしょう、バーゼル。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。貴方は、取り立てて顔が良いわけでも、性格が魅力的なわけでもない。皆に、貴方の平凡さが伝わらないよう、いつも、穏やかに、柔らかく、微笑んでいなさい。誰も貴方に興味を持たないように、誰も貴方に話しかけないように。分かるでしょう。お母様は、心配なの。貴方が誰かに虐められたり、喧嘩したり、そんなことはお母様、耐えられないわ。だから目立たず、静かに、ひっそりと、生きていくのよ。」
「はい。お母様。」
お母様が言うことを、俺はすればいい。そうすれば、お母様は、優しく微笑んでくれる。




