主人公は、bではないほうがいい。
俺はまず、王太子の婚約者候補の資料を漁り、フローレンス嬢の基本情報を手に入れた。
ジェスス公爵家について、家族関係、アシュリーとの関係、好きな物、好きな食べ物、好きな色、好きな動物、好きな服、好きな靴、好きな言葉、好きな本、憧れのものは白馬の王子様。嫌いな物、嫌いな食べ物、嫌いな色、嫌いな動物、嫌いな服、嫌いな靴、嫌いな言葉、嫌いな本。
俺は、記載されている個人情報を全て頭に叩き込んだ。そして次に、王宮の図書室にある恋愛に関する資料を読み漁った。
いやいや、こんな言葉、女性に、しかもあのフローレンス嬢に、俺が、言えるわけないだろ。何で、こんなにすぐに恋に落ちるんだ。有り得ない。展開が早すぎる。なんだと、その女性の反応はなんなんだ、全く理解ができない。
俺はぐったりしながら、本を閉じた。
ダメだ。俺には恋愛の才能がない。仕方がない。兎に角、この個人情報と理解不能な恋愛知識を元に、フローレンス嬢に、俺に好意を持ってもらおう。
俺が図書館を訪れると、フローレンス嬢が嬉しそうに笑って俺の方へやってきた。こうして、俺達は連れ立って外のベンチで討論を繰り広げるようになった。
「この王は馬鹿だと思います。見て、王都で行われた工事の記録によると、10年の間に5回も、王都の大通りに莫大なお金をかけて道の補修をしています。この王の前後の王たちはそんなことはないから、きっと何か黒い理由があるはず。王都の大通りなら、散財が国民の目にもつきやすく、これ以外にも無駄な出費があったのなら、それらが積み重なって反乱になったに違いない。」
フローレンスは、普段は遠慮がちなのに、歴史について話す時だけは別人のように芯が通って淀みがない。
俺は、なる程と感心しながら、彼女の手法を頭に叩き込んだ。まさか、王の出費について議論するために、国の工事記録を持ち出すとは。俺にはそもそもその発想がない。手紙の解読に使えるかもしれない。
俺は真剣に彼女の話を聞いた。
「ジルは、どう思いますか。」
そしていつも、彼女は俺の意見も聞いてくれた。俺は単純に、それが嬉しかった。
今まで、命令されることはあっても、考えを聞かれることなどなかった俺は、嬉しくて笑った。自分の考えを話し出すと、彼女はうんうんと頷きながら話を聞き、よく考え、応えてくれた。俺は沢山話し、話すことの楽しさを知ってしまった。
フローレンスは、歴史の話の延長で、自分について話すこともあった。俺は社交術の授業と、恋愛指南書の内容を思い出しながら対応したが、正直、拍子抜けした。
フローレンスはとても素直で、社交術の授業を参考にしなくても何を考えているのかが想像できたし、恋の駆け引きなどしなくても誉めれば頬を赤らめ、意地悪を言えば頬を膨らませてくれた。
俺は、彼女の可愛らしさに、罪悪感を覚えはじめた。俺のような者が、彼女を手に入れて、いいのだろうか。フローレンスの考え方を学び、自分で応用できれば、フローレンス自身は必要ない。その方がいい。
俺はそう、考えはじめた。
だが同時に、俺の推理力が彼女の足下にも及ばない事実も明らかだった。
フローレンスに手紙を解読して欲しい。俺は、迷った。




