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主人公は、bではないこともないか。


 俺は、王立中高等学校の第七図書館に行きたいと、王宮の護衛部門に申請した。



 出された条件は二つ。一つ目は、護衛をつけること。二つ目は、一回の外出を二時間以内にすること、だった。


 俺は同意した。王族が外へ出るのに、護衛がつくのは当然だ。万が一暗殺などされては一大事だ。時間制限も妥当だろう。二時間は短いが、文句を言っても変更はされないので、言うだけ無駄だ。



 こうして俺は、平民の格好をし、空いているであろう午前中に図書館を訪れ、すぐに後悔した。当然生徒達はまだ授業中で、図書館の中には誰の姿もなく、司書達の注目を集めてしまった。


 俺は出直した。結果、午後から夕方にかけて、生徒達に紛れて、俺は資料を探すようになった。




 この第七図書館は、もとは大きな教会だった。広い空間に厳かな雰囲気が漂い、美しい漆喰の壁と天井の高さは圧巻だ。図書館にする際に、大量の本棚と多種多様な書籍が運び込まれ、本の聖地の様になった。数百年もの間、何千人もの人と、何万もの書籍を守ってきたこの建物は、灰褐色で薄汚れていたが、その汚れすらも誇りであるような独特の雰囲気を持っていた。


 ここは、俺が学生時代、唯一安らげる場所だった。



 久しぶりに座った木の大テーブルが懐かしくて、俺はつい、木の表面を撫でた。心が踊る。3年前に、戻ったみたいだ。



 俺は歴史書を眺めては、眉間に皺を寄せながら内容を読解していた。そして疲れた目を休ませようと、書物から視線を上げた。



 すると、少し離れた場所で、楽しそうに本を読んでいる少女の姿が目に入った。


 透き通るような白い肌にバラ色の頬。金色の髪の毛が一糸乱れず編み込まれた美しい模様の髪型に、小さな花が散りばめられた可愛らしいドレスを着た、美しい少女だった。伏し目がちな瞳は鮮やかな青で、それは本の中の字を追うために左右に動き、時には丸められ細められ、兎に角表情が豊かでつい、俺は目を奪われた。



 そういえば、俺もあんな顔で、泣いて笑いながら本を読んでいたな、と懐かしい気持ちが湧いてきて、俺はつい彼女のことをボーと眺めてしまった。


 すると突然、グウゥとお腹が鳴る音が部屋中に響いて、俺が眺めていた少女が頬を真っ赤に染めて、瞳を、俺の方へ向けた。



 ドクン。俺の心臓が、音を立てた。


 その青は、どの青色よりも綺麗で、生き生きとしていた。



 俺の視線に気づいた少女が、少し首を傾げると、ハッと何かを思いついたような顔をしてから、後ろを振り返った。


 プッ。俺は、吹き出した。


 恐らく彼女は、俺の視線が、自分の後ろに座っている誰かに向けられていると勘違いをして、振り向いたのだろう。そして、そびえ立つ壁に、驚いたのだ。


 俺は堪えきれず、笑いはじめた。


 彼女が俯いて、真っ赤になった頬を隠そうとした。そして、手をモジモジさせながら、小さくなっている。俺はその姿に申し訳なくなり、手元の紙に謝罪の言葉を書き、彼女に渡し、図書館を出た。


 俺は悩んだ末、貴女様の百面相が面白くて、つい見とれてしまいました。申し訳ありません。どうか、お許しください。と書いてみたが、彼女は、許してくれただろうか。



 何となく、後ろ髪がひかれる。



 俺は、立ち止まった。


 俺は護衛に彼女の座っている位置や服装を伝え、彼女が誰か確認してもらうことにした。何故か、戻ってきた護衛が渋い表情をしていた。



 この護衛は、俺が外出する際にかなりの確率で配属される、ほぼ俺専用の人物だ。恐らく、俺の母親である王妃の息がかかっている。


「あの方だけはおやめ下さい。あの方は、ジェスス家のご令嬢、フローレンス様でございます。」


 人間とは、愚かなものだ。ダメだと言われると、欲しくなる。



 欲しくなる。だが、俺は欲しがらない。俺は、何も、欲しくない。


 俺は自分に言い聞かせた。何も、欲しくない。まして兄ディミトリの物を欲しがるなど、許されない。



 そんなことをしたら、お母様は、もう俺のことを見てはくれないだろう。


 


 お母様は、俺の母親である前に、王太子ディミトリの母親だ。兄の養育が王妃の勤め、失敗するわけにはいかない。いかないし、ディミトリを心底愛している。それだけで、お母様は毎日忙しい。



 だから俺の部屋には、月に一度だけやってくる。


 お母様は、朗らかな方だ。俺をいつも抱きしめて、頬ずりをして、キスをして、鼻をこすりつけて、愛情を伝えてくる。俺はいつも、されるがままに愛されてから、お母様の穏やかな微笑みに見入る。その笑顔を、俺は曇らせたくない。



「バーゼル。私のかわいい天使。お母様は、貴方が大好きよ。貴方、とても賢いのね。それに剣の筋もいいって。すごいわ。貴方のことを誇りに思うわ。」


「はい。お母様。」



 お母様が言うことを、俺はすればいい。そうすれば、お母様は、優しく微笑んでくれる。



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