主人公は、bではないな。
ジルが王子様らしくなくなっていきますが、どうか見守ってあげてください。
ない。
ない。
ない。
俺は、革紐で結われた紙の束を閉じた。この一冊で、最後だ。
この王宮の図書室には、本が山のようにある。勉強に使われる参考書や、騎士団の資料、趣味で作った歌集や誰が置いたのか隠したのか猥褻な雑誌まで、兎に角、多種多様な資料が、全く整理されないまま放置されている。
その図書室の奥に、王族のみが入れる部屋があり、そこはもはや倉庫と化している。本来は、王族のみが読める重要書物を置く場所であった筈が、今では本棚と本棚の間の通路にまで所狭しと大きな木箱が大量に山積みにされている。
幾つかの箱には、記名がある。中身は、例えばこの箱なら、五代前の王子が幼い頃に読んでいた絵本が詰め込まれている。
一見、この部屋に押し込む理由が見あたらないが、絵本の題名を見ると、ここに入れられた理由が見えてくる。『王様は太陽だ』『卑しい色の男』『男の子と女の子の違い』等々、王家を頂点に貴族社会を賞賛し、身分制度を称え、男女の役割について説教する、選民思想的な絵本ばかりだ。もしこれを、外に置き、それらを王子達に毎晩読み聞かせていたと皆が知ったら、大騒ぎになるだろう。
今は大分状況が緩和され、平民も学校に通い、女性も仕事を持てる時代になってきたからだ。
要するに、時代や環境によって、外に出せない物や、王族の私的な記録、例えば知能指数等が捨てるわけにもいかないまま、ここで、箱の中に詰め込まれている。
俺は、ここで、宝物を見つけてしまった。
三年前、俺は高等学校を卒業し、無職になった。
俺は、この国の第三王子で、現王を父に、現王妃を母に、現王太子を実の兄に持ちながら、王族の中で特段出来が悪く、公務を任されていない。だから、王宮でする事がない。かと言って、王宮外で王子である俺を雇う者もいないため、無職を満喫していた。早い話が、穀潰しだ。
俺は有り余る時間を消費するために、図書室に入り浸るようになった。そこで色々な資料を読み、学び、泣いて、笑った。本を読んでいる時だけが、俺が俺でいられる時間だった。
図書室の本を読み尽くしていった俺が、王族の部屋の木箱に辿り着いたのは必然だった。あまり他人のプライベートを覗き見るのは気が進まなかったが、本の中の物語に飽きはじめていた俺は、王族達の現実の中に、何か面白いものがあるかもしれない。そう思った。思ってしまった。
ちょっとした好奇心から、俺はどんどん箱を開けていった。最初は蓋だけがしてある物を、次は釘で打ってある物を。色々な物が出てきて、楽しくなってきた。誰かの秘密を暴く行為が、こんなにも楽しいとは。俺は笑いながら作業をしていたと思う。
そんな時、俺は奥の方で他の木箱から隠された、布で包まれた箱を見つけた。布は、新しくはなかったが、古くもなかった。俺は、躊躇した。この中には恐らく、今まだ生きている誰かの物が入っている。しかも、使われている布は生成の無地ではなく、柄が押された高級な物だった。これは、相応の地位にある王族の物だ。
俺の中で、躊躇よりも好奇心が、後ろめたさよりも日頃の王族達の俺への扱いに対する嫌悪感が、勝った。それに、ここに置くということは他の王族になら見られても良い、そこまでプライベートな物はないだろうと考えた。
一度開けると決めたら、その箱はすぐに開いた。そして中から出てきた物に、俺は息を飲んだ。予期せぬ人物の私物に出会い、それから毎日、俺はこの中にある物を物色し、資料を読み漁った。
そして俺はある日、一枚の手紙を見つけた。
その封筒は、束になっていた手紙の中に混じっていて、他の手紙と違う点が一つあった。それは、他の手紙が箱の持ち主に宛てて書かれた物であったのに、この一通だけは、持ち主が自ら書き、何らかの理由で出されることがないまま、捨てられることもなく、敢えて、残してある、という点だった。
そして、何か、違和感があった。
この手紙のことが、俺の脳裏にこびりついて、俺は所構わずこの手紙について考えるようになった。
そんなある日、偶々読んでいた他の資料で、俺はその違和感の理由に気づいた。
俺は、夢中になった。
もし、俺の推理が正しければ、俺はこの王宮を出て行くことができるかもしれない。
それから毎日、俺は自分の推理を証明するための資料を探した。図書室にある目ぼしい書物や資料を漁り、王族専用の部屋の物も全て確認した。
そしてさっき、最後の一冊に目を通し、それを、閉じた。
諦めた方がいいのは分かっている。こんなに時間に余裕がなければ、早々に諦めて、忘れていた事かもしれない。
だが運悪く、俺には時間があり、熱意があった。
王宮の図書室がダメなら、他に資料が沢山ありそうな場所はどこか。王立大学の図書館はどうだろう。いや、俺が探している資料は学術向けではなく、大衆向けの書物だから、もしかしたら、王立中高等学校の、第七図書館になら、あるかもしれない。
こうして俺は、どこにでも入れる王族の特権をいかし、第七図書館で資料を探すようになった。




