主人公は、bではない。
アシュリー編は、いかがだったでしょうか。
面白かったですか?
そう思ってもらえたら、嬉しいです。
次は、バーゼル王子の番です。
初っぱなから、うつうつしてますので、ご注意を。
「バーゼル。私のかわいい天使。お母様は、貴方が大好きよ。貴方、とても賢いのね。それに剣の筋もいいって。すごいわ。貴方のことを誇りに思うわ。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。勉強と剣の訓練は、お母様、貴方には向いていないと思うの。そもそも勉強は、貴方には必要のないことだものね。お母様、うっかりしてたわ。それに、剣など野蛮ですもの。とても危険だし、もし貴方が怪我でもしたらと思うと、心配で、心配で、夜も眠れないの。お母様の気持ち、分かってくれるわよね。優しい、私のバーゼル。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。凄いわ。まさか、魔法が使えるなんて、貴方は天才ね。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。お母様は、心配なの。貴方がもし、何か厄介な陰謀にでも巻き込まれたら、どうしましょう。その魔法のせいで皆から嫉妬されて、誰かに傷つけられたりしたら、どうしましょう。ああ、何かあったら、きっとお母様は、生きていけないわ。」
「はい。お母様。」
「だから魔法のことは、誰にも言ってはダメよ。貴方が騙されたり、拐かされたり、しないように。全て、貴方の為なのよ。貴方も、怖いでしょう。でも心配しなくていいのよ。お母様が、絶対に貴方を守るから、貴方は安心して。貴方の味方は、お母様だけよ。だから、絶対に、誰にも言ってはダメよ。ふふふ。貴方とお母様だけの、秘密ね。楽しいわね。ふふふ。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。ダンスは、まあまあ、かしら。もっと華やかに踊れるようになるといいのだけれど、センスの問題かしら。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。いいのよ。どうか、そんな小さな事は気にしないで。貴方は、貴方よ。ダンスが下手でも、例え何も出来なくても、かわいい私の天使であることにかわりはないわ。そうでしょう、バーゼル。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。貴方は、取り立てて顔が良いわけでも、性格が魅力的なわけでもない。皆に、貴方の平凡さが伝わらないよう、いつも、穏やかに、柔らかく、微笑んでいなさい。誰も貴方に興味を持たないように、誰も貴方に話しかけないように。分かるでしょう。お母様は、心配なの。貴方が誰かに虐められたり、喧嘩したり、そんなことはお母様、耐えられないわ。だから目立たず、静かに、ひっそりと、生きていくのよ。」
「はい。お母様。」
「バーゼル。貴方はお母様の二人目の息子で、特出したところがない、平凡な子だわ。だから、お兄様の為に、生きるのですよ。貴方は、兄ディミトリのものよ。」
「はい。お母様。」
「ジル。おい、ジル。儂の呼びかけに応えぬとは、どういうことだ。ん。何。何だと。ああ、間違えたか。バーゼル。バーゼルだったな。オホン。どうだ、その、あー、学校は、学校は、楽しいか。」
「はい。お父様。」
「そうか、そうか。それは良い。お前も、儂の息子だ。儂には似てないが、まあ励めよ。」
「はい。お父様。」
「バーゼル。なんだそれ。ああ、お母様から貰った色鉛筆か。ぷっ。五色。たったの五色。ショボ。見ろよ、俺のを。百色だ。俺みたいな選ばれた人間と、お前みたいな能なしじゃ、この差は仕方ないか。ははははは。」
「はい。お兄様。」
「欲しいか。俺の色鉛筆。」
「は、はい。お兄様。」
「ほら。あ、手が滑った。あーあ。下に落ちちゃった。あのでっかい木の中。」
「はい。お兄様。」
「バーゼルのせいで、色鉛筆、一本無くなっちゃったな。お母様に後で叱ってもらうからな。ははははは。」
「はい。お兄様。」
「バーゼル王子。どうか、あの方には今後近づかぬよう、お願い申しあげます。あの方は、ディミトリ王太子殿下のものでございます。」
どんよりと曇った空と、薄汚れた建物群の真ん中で俺は産まれた。真ん中にある王宮は、他のどの建物よりも美しく色鮮やかで、不気味だった。
何もかもがある場所で、何も与えられなかった俺は、ただ微笑んで、毎日をやり過ごすしかなかった。王族でありながら、何の期待もされず、何の公務も与えられず飼われている俺には、ここにいる意味など、もちろんない。生きている意味すら、存在しない。
俺は空を見上げた。遠くを飛ぶ鳥に、目を奪われる。もし、俺に翼があったら。俺は飛んでいくだろうか。真っ青に晴れた、抜けるような空を目指して、飛んでいくだろうか。
俺はきっと、飛んでいかない。
俺がここから居なくなったら、俺はただ静かに皆の記憶から薄れていくことだろう。そしていつか、皆の記憶から消えてなくなった頃、俺は疲れ果ててその翼をたたむだろう。俺は真っ逆様に落ちて、やがて動かなくなるだろう。
もし、俺に翼があったら。俺は誰にも気づかれぬようそれを背から剥がし、燃やして灰を土に埋めるだろう。そうして俺は言うだろう。翼がないから飛べません。どうかここに、おいてください。お願いします、と。微笑みながら、言うだろう。




