主人公は、aではないか。
うざい。
学校中がフローレンスとコリーの噂でバカ騒ぎ中だ。この格差カップルはほのぼのすると生徒達から大人気らしい。くだらない。全員バカか。
オレはコリーについて考えた。思うことは何もない。
コリーはフローレンスのことを、普通の女の子、と言ったらしい。バカか。バカだな。自分はバカだと言ってるのと同じだ。
フローレンスと一緒にいて、フローレンスが普通に見えるなら、コリーの頭はイかれてる。コリーは捨てられる。フローレンスの相手ができる男じゃない。コリーはザコだ。殺す必要もない。どうでもいい。
オレが殺すべき相手は、バーゼルだ。あのクソ王子。
アイツは消えたがいつか殺す。顔も体つきも分からなくなるくらい潰して跡が残らないようきれいに消す。アイツは危険だ。
アイツだけは危険だ。
オレが考えていた相手、フローレンスが部屋に入ってきた。オレは眼鏡を外し侍従に部屋から出るよう顎で命じた。
オレは唇の端を上げた。
「アイツに飽きて、戻ってきたか。」
オレはフローレンスを見下してニヤニヤ笑ってやった。
だがフローレンスが頭を振った。
「正式に、婚約することにした。」
オレは吹き出した。堪えきれずゲラゲラ笑った。バカバカしい。本当にバカだなコイツは。
「あんな木偶の坊と。結婚。バカか、お前は。」
オレは笑い続けた。くだらない冗談だ。くだらなすぎて涙が出てくる。
「バカは、アシュリーのほう。もう、決めたから。邪魔しないで。」
フローレンスが珍しく静かに、オレの方を見もせずに言った。そしてオレに背を向け、扉へと向かった。
オレはよく削られ先の尖った羽ペンをフローレンスの頭めがけて投げた。
もう、こうするしかない。
オレにはもう、他の選択肢はない。
ダーツの矢のように飛んでいったペンが壁に突き刺さった。避けられたか。
怒りに震えながらフローレンスが羽ペンを壁から引っこ抜きこちらに歩いてきた。
オレは吐き捨てた。
「もう、死ねば。お前。」
フローレンスが叫びながら近寄ってきた。
「人間には、最低限、言ってはいけない言葉があるの。」
フローレンスは羽ペンの先をオレの眉間に突き刺す直前で止め、オレを睨んだ。
「死ね、と言うなら、お前が死ね。」
必死な面。笑える。オレはまたゲラゲラと笑った。
「殺せるのか、オレを。フローレンス。」
オレを殺せるわけがない。誰が何と言おうと、フローレンスはオレを殺せない。
「オレは、フローレンスにとって、特別だ。」
フローレンスがため息をついた。
「私が貴方を特別に思ってると、どうやったら思うことができるの。」
どうやったら。
オレを特別扱いしてきたのは、フローレンス、お前だろ。ずっとオレから離れず、オレの面倒を見て、オレに話しかけ、オレにだけ、笑いかけてきた。
それは、普通じゃない。
特別だ。
「フローレンスにとって、オレは特別だ。そういうのを、好き、と言うんだ。バカ。」
フローレンスがオレの言葉に考え込んだ。
「仮に、私がアシュリーを好きだとして。アシュリーは私を、好きではない。そうでしょう。」
フローレンスは何を言ってるんだ。
オレは苛立った。
フローレンスが何を言っているのか、オレには分からない。
「アシュリーは、私が美しく賢いから、自分の物にしたいのでしょう。」
質問の意味が分からない。オレは何も言わず次の言葉を顎で促した。
「もし、私が美しくなく、賢くもなかったら、どうするの。」
オレは笑った。くだらない質問だ。
「いらない。」
美しくなく、賢くもないフローレンス。そんなものは、お前ではない。
お前ではない、そんなものは、いらない。
「アシュリーの私への気持ちは、物欲なの。キラキラしてるときだけ一緒にいて、汚れたら捨てるなんて、人間にしていいことじゃないの。」
そう思うなら、捨てられないために美しく、賢くいろ。お前なら簡単だろ。
オレは笑った。笑うしかなかった。もう、このフローレンスはダメだ。オレのことが、何も、分かってない。
「そんなこと、どうでもいい。お前は黙って、オレの言うことを聞けばいい。」
もう黙れ。黙ってくれ。オレが、お前を、殺してしまう前に。
「アシュリーは、キラキラした婚約者が欲しいだけ。私じゃなくても、いいの。」
フローレンスの言葉に、オレは吠えた。
「そんなことを、お前が、勝手に、決めるな。」
オレは獣のように、夢中になってフローレンスの首を掴み、力を込めた。フローレンスが痛みと苦しさに涙を零しながらオレを見上げてきた。
「アシュリーは、私の気持ち、考えたことあるの。」
ない。オレはフローレンスの気持ちを考えたことはない。当然オレのことを愛してる、そう思ってる。
「私は、アシュリーが苦手で嫌で会いたくないし、視界にも入りたくない。」
オレのことが、苦手、だと。嫌で、視界にも入りたくない、だと。そんなこと、あるわけがない。
お前はいつもオレの隣に立って、いつもそう思ってたのか。オレに笑いかけながら、嫌だと思ってたのか。オレを好きだと言いながら、嫌いだったのか。
フローレンス。オレにはお前が分からない。お前の言葉は、何が真実で、何が嘘なんだ。
「でも、アシュリーに幸せになって欲しい。そう、いつも想ってるの。」
フローレンスがオレに手を伸ばすとオレの両頬に手を添え、視線を合わせてきた。涙がとめどなく溢れる真っ青な瞳。オレのお気に入りの目だ。
「アシュリーのことが、好きだから。」
オレはフローレンスの言葉を聞いて、震えた。
好きだから、幸せになって欲しい。
そういう言葉を吐くならそれ相応の覚悟が必要だ。だがフローレンスは何も考えてない。オレのことを、何も考えてない。
その証拠に、オレがフローレンスの両頬を掴み唇を重ねようとすると、フローレンスは話し始めた。触れそうな唇が開き、フローレンスがオレに聞いてきた。
「アシュリーは、私に幸せになって欲しいと思ったこと、あるの。」
バカか、お前は。
オレはずっと、幼い頃から、ずっとフローレンスが好きだ。フローレンスに幸せになって欲しい。オレはそう思いながら生きてきた。
それなのにお前は、オレに、聞くのか。私の幸せを願ったことがあるか、だと。
ある。毎日毎日毎日毎日。オレはお前のことを考えてはお前の幸せを願ってきた。
お前は、気づかなかったのか。
オレがお前を愛し、お前のために生きてきたことを。
お前は、認めてくれないのか。
オレが、お前を愛していることすら。
オレはどうすればいい。
愛してると伝えても、好きだと言っても、結婚したいと願っても、否定されるなら、オレは、どうすればいいんだ。
フローレンス、オレはただお前と一緒にいたい。
ただ、それだけなんだ。




