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主人公は、aではないだろう。


「フローレンス様が、ホズワルド家のコリー様と、交際をはじめたようです。」


 この侍従の報告がうざくて仕方ない。



 オレは聞きたくない。考えるのも嫌だ。もう、うんざりだ。


 フローレンスは本当にバカだ。バカすぎる。


 もうアイツは、殺してやった方がいい。



 食堂で、コリーの話をしながら頬を赤くしたフローレンスを見てオレは苛立った。なんだあのバカ面。ブサイクな顔。オレがフローレンスの視界に入ると、フローレンスが話を切り上げオレの部屋へ連れて行けと言ってきた。



 今までのオレならこんなクソみたいな話には爆発してた。


 それなのに今は、オレの心は凍り付いたように動かなくなった。



 理由は分からない。分からないし、どうでもいい。


 考えても分からないことは考えるだけ無駄だ。



 オレを見上げるフローレンスにオレは尋ねた。


「お前は一体、何がしたいんだ。」


 オレは、この答えが聞きたいわけじゃない。こんな下らない話し合いはしたくない。



 コリーと付き合いたいなら、付き合えばいい。王子が好きなら好きでいい。フローレンスを否定するつもりはない。


 オレはフローレンスの全てを愛してる。コリーや王子のことは、些細でどうでもいいことだ。



「何って。私は結婚をしなければいけないの。」


 下らない。下らない答えだな。


 フローレンス、お前はいつからこんなバカになったんだ。


 大切な人と結婚すればいいのに、結婚するために大切な人を見つけようとしてるフローレンスを、オレはバカで下らないと思った。



 そう思った自分に、驚いた。


 オレがフローレンスを否定したのは、はじめてだ。


 オレの中のフローレンスが、またゆっくりと、崩れはじめた。



 オレは右手でフローレンスの両頬を押さえた。フローレンスの間抜けな面。笑える。


「やぁぇぇて。」


 フローレンスの声がうざい。オレは黙らせるために手にさらに力を込めた。


「なんで、急に知らない奴と婚約するんだ。バカなのか。」



 フローレンスは唇を噛むとうつむいた。


「ほぉ。ほおっへほいへ。」


 何を言ってるんだ、コイツは。



 いや、これでいい。フローレンス、もう何も言わず、永遠に黙ってくれ。そう思ったのに、フローレンスはオレに必死で何かを伝えてきた。



「クッソ。お前は、なんなんだよ。」


 理解できないフローレンスが、不愉快だ。オレの知らない人間みたいで、反吐がでる。


 オレは湧いてくる怒りに、フローレンスの体に手を伸ばそうとして、やめた。



 今、オレはフローレンスに、何をしようとした。


 急にドクドクと早まり生きていることを主張しだしたオレの心臓が、聞いてきた。フローレンスにもあるこの音を、オレは、オレの手で、止めることができるのか。


 考えるのは、苦手だ。苦手だが、考えなきゃいけない。



 オレは、フローレンスを殺そうとしたのか。



 それとも、抱きしめようとしたのか。



 殺したい。抱きしめたい。オレは自分の両手を握りしめた。フローレンス、お前がオレから離れようとするから。



「全く理解できない。」


 オレは、もう理解できなくなったフローレンスの腕を掴んだ。



 フローレンスは抵抗しなかった。オレは腕の中に、その小さな宝物を閉じ込めた。


「絶対に、許さない。オレから、離れるな。」


 フローレンス、このまま、このままいつまでも、オレの宝物でいてくれ。



 そんなオレの願いを、フローレンスはふんっと鼻で笑って拒否した。


「私は、貴方から離れる。そうすることに、アシュリーの許可なんか、必要ないの。」


 このフローレンスは、いらない。


「黙れ。お前は、オレの物だろう。」


 黙れ、黙れ、黙れ。


 黙れ。


 化け物みたいな顔をしたブサイクなフローレンスを黙らせるために、オレは、フローレンスの真っ赤な唇を噛みちぎろうとして口を開けた。オレが鼻に皺を寄せ、大きく開けた口から牙をむき出しにしようとした時、フローレンスがオレを避けて頭突きをしてきた。



「ずっと、言いたかったことがある。私は、貴方の物ではないの。私は、ジャケットのボタンじゃない。」



 フローレンスは、何を怒ってるんだ。


 お前はオレの物だ、そう言ったら、嬉しそうに笑ったのはお前じゃないか。オレの物で嬉しい、そう泣きながら笑ったのは、お前じゃないか。



 フローレンスが、オレを蹴ってきた。


「私は、人間なの。貴方の言う通りになどしないし、嫌なら抵抗もする。」


 だから、黙れ。その口を、閉じろ。



 オレはフローレンスを床に突き飛ばし、うずくまったその体を踏み潰そうとした。


「黙れ。お前は、ずっとオレの側にいろ。」


 そうしないなら、もう、殺すしかない。こんなにも歪んでブサイクなフローレンスは、殺すしかない。



 フローレンスがオレの足を避けると、立ち上がり叫んだ。


「お前が黙れ。このキチガイめぇ。」



 違う。


 オレは、おかしくない。



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