主人公は、aではなさそうだ。
誤字報告、ありがとうございました。
「また、か。」
フローレンス付きの侍従の報告に、オレは顔をしかめた。
うんざりだ。
今週はもう、三度目だ。フローレンスとバーゼル王子は第七図書館で会い、話し、別れたらしい。
「はい。また、です。」
侍従はオレの方を見ずに答えた。
オレは湧いてくる怒りに立ち上がり、苛立った顔のオレが映った鏡をぶん殴った。鏡の中のオレの姿が歪み、鏡の欠片が飛び散り、視界が真っ赤に染まった。錆びた鉄の臭いに、自然と、唇の両端が上がった。
侍従がオレの腕を掴み拳に布をあててきた。
「アシュリー様。どうか、落ち着いて下さい。二人の会話にはおかしなところは、ありません。二人は純粋に歴史について語り合っているだけで、男女の関係には全く発展しておりません。」
当たり前だ。
男女の関係になどさせるか。
クソがっ。なりそうになったら殺す。
王子が何を考えてるのかはオレには分からないし、どうでもいい。
以前、オレに、フローレンスは王太子の婚約者候補なのに恋人ができてはまずいと言っておいて、自分が手を出すことはないはずだ。王太子の婚約者と弟王子の恋の噂。暇な豚どもの格好のエサだ。だから王子はフローレンスには絶対に手を出さない。
だから、二人で歴史について話すくらいは許そうと思ったんだがな。クソがっ。
オレはテーブルを蹴飛ばした。
毎週、毎週、来るあの気色悪い王子に、オレの我慢は限界だ。そろそろ、潰す。アイツはグッチャグチャに潰して捨てる。
「次、アイツが来たら、すぐ連絡しろ。」
侍従が分かりましたと頷き、部屋を出て行った。
オレは机に戻り、安っぽいティーカップを持ちあげた。まずい。オレはカップを壁に投げつけた。
フローレンスと一番時間を過ごしてきたのは、オレだ。
フローレンスを一番見てきたのも、オレ。
フローレンスが一番見てきたのも、オレ。
オレ達はずっとお互いを見てきた。
それなのに、最近のアイツが分からない。オレから離れて、王子と生きるつもりなのか。
そうなったら、殺す。殺すしかない。
他の選択肢はない。
オレには、覚悟もある。
オレはそう思ってから考えた。オレが殺すのは、誰だ。オレは、フローレンスを殺すのか。王子を殺すのか。それとも、二人とも殺すのか。
「アシュリー様。」
生徒会室に侍従が来た。オレが視線を送ると、侍従は手招きをしてきた。王子が来たらしい。
オレは両腕を回しながら部屋を出た。
王子が第七図書館に着く前にオレは王子を捕まえた。
王子はまた平民の格好をしてる。王族のくせに、よくこんな格好ができるな。
オレを見て王子が微笑んだ。
オレは出そうになった舌打ちをおさえた。オレを待ってたような態度にオレは苛立った。
コイツは、苦手だ。
目的は、何だ。何を、どう、切り出すか。
オレが考えてると、王子がオレに聞いてきた。
「ジェスス公爵に何度か会ったのだけど、特に何も言われなかったことが不思議でね。アシュリー、君は、公爵に私のことを、話してないのかい。」
この話か。オレは迷ったが、頷いた。
隠したほうがいい。だが、どうせすぐにボロが出そうだからオレは諦めた。王子は不思議そうな顔でオレを見つめてきた。
「何故。公爵に頼まれているのだろう。悪い虫が付かないようにと。」
クソ公爵には頼まれたが、オレはそれを素直に聞くような無能ではない。
オレがやることは、オレが決める。それをコイツに言う必要もない。
オレは考えてからフローレンスのクソオヤジへの不満を言うことにした。
「公爵には、歴史好きの平民と仲良くしてるとだけ伝えました。もしそれが王子だと知ったら、あの親父はまた何か画策して、混乱が起きるから。です。」
オレの答えに、ぷっと王子が笑い茶色い瞳を細めた。
「ああ、そういうことか。確かに、あの親父になんでもかんでも画策されるのは、不愉快極まりないからね。君の気持ちは、よく分かる。」
意外と話の分かるヤツだ。だがオレの怒りはおさまらない。フローレンスにたかる虫は潰す。
「王子こそ、何がしたいんですか。」
苛立ったオレに、王子は驚いたようだ。だがすぐに微笑みを浮かべて、口を開いた。
「何がって。歴史について、話し合ってる。」
オレはわざと、嫌そうな顔をしてため息をついた。
「歴史の話なら。身近に、もっと、優秀な、専門家が、いますよね。」
フローレンスはオレのものだ。オレのものに手を出すなら覚悟しろ。オレは王子の様子を探った。
王子がふふっと気色悪い笑みを見せた。甘い、笑みを。
「それが、いない。彼女の方が優秀で、脱帽している。」
なんだこの気色の悪い笑顔は。
コイツはもう、とっくに、フローレンスに落ちてる。
殺す。
コイツは危険だ。
オレはすぐに拳を握りしめると集中した。全力で潰す。
オレの殺気に、王子が目を丸めて笑い出した。オレを笑うなんてぶっ潰す。
「アシュリー、君は自由すぎるな。憧れるよ。」
王子はオレのストレートを避けると、地面を蹴った。急に、砂埃が舞った。
オレは埃のあまりの勢いに目を閉じた。クッソ、何も見えない。
王子がオレの横を、通り過ぎていった。
まさか、避けられるとは思わなかった。
アイツは潰す。
いつか、絶対に、潰す。




