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主人公は、aではない。

アシュリー編は品が悪いので、ご注意ください。


よろしくお願いします。


「フローレンス様が、男性と二人で、雑談をされています。」



 オレは耳を疑った。



 フローレンスは男を相手にしない。男と二人にならない。


 そのフローレンスが、男と二人で雑談してる、だと。


 どこの。


 どいつだっ。



 オレは生徒会室を出た。廊下にいた生徒達全員がオレの方を向いたが誰も何も言わない。何も言えないザコどもだ。どうでもいい。



「相手は、誰だ。」


 フローレンス付きのオレの侍従が、首を左右に振った。


「まだ、そこまでは分かりません。通常通り図書館へ向かったフローレンス様と、恐らく図書室の中で接触したのでしょう、二人で出てきました。その後、ベンチに腰掛け、現在、歓談中です。」


 コイツが知らないなら部外者か。部外者が校内に入るのは難しいはずだ。しかも図書館の中でどうやって出会った。まさかあの廃れきった薄汚い図書館の中に出会いがあるとは思わなかった。



 オレはゴミ箱を蹴飛ばした。


 クッソ。


 アイツは。



 最近、フローレンスが変わった。男かと思ったがそうでもない。見た目が地味になった。やっとオレと結婚する気になったのかと思ってたらこれだ。アイツは何を考えてるんだ。



 イラつく。


 いつもオレの隣に居るフローレンス。昔はオレのものだった。なのに、今は。


 クッソ。



 オレは両手を握りしめた。


 他のヤツに取られるなんて、ない。許さない。アイツがオレから離れることは、絶対に、許さない。



 前にいる侍従が止まり第七図書館横のベンチを指さした。


 オレは二人を見つけた。


 オレは後ろの建物に隠れて苛立ちながら息を殺した。何を話してるかは分からない。だが笑い声が聞こえてきた。フローレンスが知らない男と笑ってる。今日、はじめて会った男と。



 オレは両手を、握りしめた。


 昔のオレなら今すぐ男をボッコボコにしてたな。フローレンスはその度にオレに泣いて謝ってやめてくれと頭を下げた。そんなフローレンスを押さえつけて、オレから離れるな、他のヤツと話すなと繰り返してたら、フローレンスは他のヤツと話さなくなった。


 そうやってフローレンスは、オレだけのものになった。



 それにしても、あの薄汚い格好はなんだ。まさか平民なのか。


 オレは苛立ち歩きだした。


 

 殺す。


 オレが両腕に力を入れ手を握ると、後ろから侍従に腕を掴まれた。


「お待ちください。アシュリー様。あれは、いえ、あの方は、もしかしたら。」


 侍従が男を見つつ、続けた。


「王子、ではありませんか。」



 はぁぁ"。


「おうじ。」


 

 オレは足を止めた。



 おうじ。王子。王子だと。



 侍従がオレを見上げて頷いた。



 クッソ。また、王子か。



 体中の力が抜けていき、オレは息を吐いた。



 オレは公爵家の嫡男だ。貴族どもの頂点にいる。しかもオレは氷魔法が使える。生まれながらの超エリートだ。オレはこの国で最も重要な人物だ。誰が相手でも、黙らせる。


 だが、王家は。


 このオレが。バカなアイツラに頭を下げるしかない。クッソ。オレはアイツラ全員ぶっ殺したい。アイツラを握り潰して今までのオレへの無礼を土下座して謝らせる。いつかヤる。



 だが今は、何か手を考えないと。オレは舌打ちした。


 王族。最初は王太子で、次は第三王子か。 



「何で、バーゼルがここにいるんだ。」


 オレの独り言に、侍従が頭を下げた。


「そういえば、あの方を、何度かこちらで拝見しています。変装しているとはいえ、王子だと気づかず、申し訳ありませんでした。」


 オレは侍従を蹴飛ばし倒れ込んだソイツの首を踏みつけた。オレが喉を押し潰そうとすると苦しそうなうめき声が聞こえた。


「ちゃんと、仕事しろよ。クソがっ。」


 申し訳ありません、侍従が謝る声が聞こえた。オレは大げさにため息をついて足をどけた。オレは侍従をもう一度蹴飛ばした。


 

 フローレンス達を見ると、王子が立ち上がりフローレンスに頭を下げたところだった。


「頭を、下げた。」


 オレが声をあげると、侍従も頷いた。王族は頭を下げない。下げれば、フローレンスが止めるはずだ。


「王子は、変装し身分を隠していますね。フローレンス様も、王子だということに気がついていないのでしょう。まだフローレンス様は、王宮に入られたことがないので、王族との顔合わせをしておりませんから。」



 誰に、何を言えばいい。


 オレは、どうするべきだ。


 クッソ。オレはこういうことが苦手だ。王子を潰すか、フローレンスを問いつめるか。



 オレの横で侍従も考えながらオレの方を向くと言った。


「フローレンス様の動向は私が調べることができますが、王子のほうは、難しいかと思われます。」


 オレは舌打ちした。


 オレは他人に指図されるのが死ぬほど嫌いだ。王子の様子を探れと言ってきた侍従を睨んでからオレは歩き出した。



 何を言うか、オレが迷いながらフローレンスを見ると、ニヤニヤ笑ってた。あの顔、オレは久しぶりに見たな。フローレンスの、気の抜けたバカ面。



 オレとフローレンスは、生まれた頃から一緒に生きてきた。


 オレはアイツのことをずっと見てきた。ポッと出の王族に取られるなんて、ない。フローレンスはオレのものだ。誰にも渡さない。オレから奪うなら、殺す。


 

「バーゼル王子。お久しぶりです。」


 オレは最高の礼で王子を呼び止めた。王子は振り返り、オレを見て笑った。


「バレたか。久しぶり、アシュリー。」


 王子はオレの礼への返しはしてこなかった。本来は王族へのお辞儀を貴族がし、それに王族がお辞儀を返す。


「今は変装中なので、挨拶はまた。」


 オレは王子を探るために、わざとバカみたいに驚いて聞いてみた。


「変装、ですか。」


 王子が頷いた。


「息抜きをしに来て、バレたら大変だから。」



 確かに、王子は平民の服が似合う。平民面だからか無能な平民に見える。


「そうでしたか。わたくしも見ないふりをしたほうが良かったですね。」


 オレが返すと、王子は手を振り気にするなと伝えてきた。それから一瞬間をあけてから、王子がオレの目を覗きこんできた。


「君は、なぜここに。もしかしたら、フローレンス殿のお守り役か何か、かな。」



 なんだと。


 この状況と少ない情報だけで、どうやって、その事実に辿り着いたんだ。


 クッソ。


 オレは出そうになった舌打ちを噛み殺した。王子を探りにきて、オレが探られるのは、まずい。



 オレは心を無にして、ニコニコ笑ってやった。


「お守り役とは。どういうことでしょうか。」



 王子は微笑んでる。クソみたいな笑顔だ。


「君が、あまりにも早く私を見つけて、接触しなくてもいいのにわざわざ接触してきたから、何かあるのかな、と思ったまでさ。」


 そういうことか。


 バカ面だがバカではなさそうだ。



 オレは何て言うべきだ。フローレンスって誰。挨拶したかっただけです。王子、大好き、とかか。オレは考えたが、いい答えが浮かばない。


 クッソ、面倒だ。


 事実を、テキトーに、話せばいいか。


「フローレンスに悪い虫が付かぬよう、見守っています。彼女の父親に、頼まれております。」


 これは事実だ。


 フローレンスのクソオヤジはフローレンスと王太子の結婚を望んでる。だから学校で他の男を近づけるなとオレに言ってきた。あのオヤジはクソだ。オレの気持ちを知ってて、そういう頼みごとをしてくる。



 王太子との婚約話はオレが潰すから、いい。



 とりあえず今は、フローレンスを守るために、オレが侍従を付けてる。



「悪い虫。わたしも虫かな。」


 王子が楽しそうに笑ってから、オレの耳元で囁いた。


「兄との縁談の話だね。確かに、婚約者候補が他に恋人を作るのはまずい。特に彼女は、私の知る限りでは、最有力候補だ。」


 なんだと。



 王子がオレに囁いたのは王家の内部情報だ。どの候補が最有力かはまだ公表されてない。何のためにコイツは、親しくもないオレに、その情報を落としたのか。


 オレには分からない。この笑顔が、悪魔の微笑みに見えてきた。



 バーゼル王子は人畜無害。誰だそんな下らない噂を流したのは。オレにはそうは思えない。


 オレは、何て言うべきだ。


 とりあえず否定しておくか。


「フローレンスは、王太子殿下との結婚を望んではおりません。」


 オレが強めに言うと王子はヒラヒラと手を振った。


「本人の意思など、ないようなものだ。」


 

 確かにそうだ。


 王太子が望みフローレンスの父親もそうなら、娘は拒否できない。



 だが、フローレンスなら。


 フローレンスなら逃げるか。オレはそれを助ける。周りが誰と何の約束をしようがどうでもいい。オレとフローレンスは離れない。ただそれだけだ。



「彼女は、望んでいないのか。」


 王子が呟くと、笑った。



 フローレンスが王太子と結婚したいのか、したくないのか、オレは知らない。知らないし、どうでもいい。フローレンスがどう思おうと、オレ以外と結婚することはない。


 オレとフローレンスはずっとお互いだけを見てきた。


 オレ達は、愛し合ってる。



 最近フローレンスがオレと話さないのは、オレと仲良くするとオレの親衛隊がキれるからだ。オレはアイツラを止められる。だが何も言うつもりはない。フローレンスがオレのせいで泣いてる顔が、かわいいからだ。



 卒業後、オレ達は結婚するはずだった。


 二人とも公爵家出身で、オレは魔法の使い手、フローレンスは天才。最高の夫婦だ。


 

 それが、あの、ムノウ、クソ、王太子が、無理やりフローレンスを望んできた。フローレンスのクソオヤジは、バカでヤリチンの王太子との結婚を断った。それなのに相手がバカだから、フローレンスが権力を握れると思い直したらしい。


 あのクソオヤジは、本当にクソだ。


 しかもあのヤリチン王太子には女とガキがいる。地位の低い愛人のガキを、正妻になったフローレンスの養子にしてジェススの後ろ盾を与えて跡継ぎにしようとしてるらしい。



 大人はクソばっかりだ。こんなヤツラの下らないどうでもいいことにオレ達が引っ張り回されるのはごめんだ。


 オレとフローレンスは、勝手に生きていく。


 その他大勢は、黙ってろ。

 




 オレはフローレンスが待つ教室に向かった。


 煉瓦と木でできた校内は嫌いじゃない。オレは白いものが好きだがこの校舎は悪くない。オレが蹴飛ばしてもぶん殴っても、壊れそうにないからな。



 フローレンスは机に座り本を読んでた。オレに気がつくと立ち上がり、当然のように、オレの隣に並ぶ。


 オレの隣に立てる人間は、コイツくらいだ。



「顔が、緩い。」


 オレが緩んだフローレンスの頬をつねると、フローレンスがオレの手を払った。オレは舌打ちした。あの薄ら笑いの王子のことを考えてるのか。オレはフローレンスの頭を押さえると目を合わせた。


「アイツと、何話してたんだ。」


 アイツが誰を指すか、フローレンスはもちろん分かってる。オレの侍従に見られてることは、フローレンスも知ってる。


「あの人は、歴史が好きだっていうから、その話で盛り上がったの。私の交友関係に、口、出さないで。」


 フローレンスはオレから目を逸らすと生意気な言葉を吐いて、オレの方を見て、もう一度口を開いた。


「殴りに、行くの。」



 オレが毎日殴ってたことは、フローレンスが一番よく知ってる。その度に泣いてたな。オレが行くって言ったら、今日も泣いて止めるのか。



 泣いてる顔もかわいいけど、今は、笑った顔が見たい気分だ。



「行かない。」


 オレの答えに、フローレンスが嬉しそうに、笑った。



「大人になったね。」



 コイツは何も分かってない。オレが、どれだけコイツを見てきたか。分かってない。




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