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主人公は、私ではありませんが、もう終わらせようと思います。


 (わたくし)は屋敷に帰りつくと、着替えることもなくベッドに倒れ込みました。


 

 何も考えたくない。


 早く寝よう、そう思っても目が冴えてなかなか眠れず、私は諦めて起き上がりました。




 まずは、整理から始めましょう。



 幼なじみのアシュリーは、ヤンデレで、私の皮を愛しています。


 だから彼とのエンディングは、監禁とか発狂などしか想像ができません。きっとハッピーエンドでも、嫉妬深いアシュリーに監禁され二度と外に出ることはありませんでした。めでたし、めでたし、とか。ノーマルエンドでも、嫉妬に燃えたアシュリーにフローレンスは首を切り落とされ、けれど冷凍庫がないのですぐに腐ってしまった首は捨てられ、彼は新しい妻を探し始めるのでした。めでたし、めでたし、とか。バッドエンドは想像すらできない、おぞましいものに違いありません。



 アシュリーと付き合いはじめた私は、放課後彼とクレープ屋に寄り、ウフフアハハとかはありえません。このルートは、危険です。止めましょう。




 王太子殿下が欲しいのは、私の家の力と能力でしょう。


 今は愛人が居たとしても、それを乗り越え、二人は愛し合い私は立派な王妃になる、というエンディングは想像に難くないですね。良いですね。



 けれど、私に求められているのは、私ではなく、私の家とチート能力です。正直、このルートも気が進みません。




 コリーは、とても良い青年で、今後出世もしていくことでしょう。


 過去の彼女のことは水に流し、彼の出世を手伝いながら暖かな家庭を築く、とても、素敵ですね。


 けれど、私はコリーに不信感を抱いてしまい、もう素直に彼の言うことを信じることはできそうにありません。もしコリーを愛していたら、二人で乗り越えていけばいいのですが、そうではありません。私は彼を愛していないので、他の人を捜せばいいと、冷めた私が言っています。



 悪いのはコリーではなく、私ですね。私が覚悟もないまま、コリーの人生に踏み込んでしまったのかもしれません。このルートも、もう進めません。




 では、ジルは。


 ジルは、私のことを求めていません。それでも、もう少し、少しだけ、時間を共有すれば、相思相愛になれるのではと、考えることもあります。けれど、ジルにあのように拒否された今、それでも追いかけるのは、精神的に、難しそうです。



 ふむ。この物語、けっこうハードですね。



 いや、ヘルモードですか。


 私にはもう気力がありませんけれど、まだ続けなければいけないのでしょうか。


 その度に、私の皮を愛する人達に出会い、本当の自分が愛されないことに凹まなくてはいけないのでしょうか。



 チートで無双。


 それは本当に、楽しいですか。


 私の家と家族を敬い、私の美しさを称え、私の賢さを褒める男達を片っ端から籠絡ろうらくするのは、楽しいのでしょうか。



 私は、私の皮ではなく、血と肉を愛して欲しい。


 そう、思うのです。



 何もかもを持っている自分が恨めしい。全てを剥いで、生きていきたい。家も見た目もチート能力も、主人公属性も、全てを捨てて、生きていきたい。



 普通のおばちゃんに、なりたい。


 


 私は、ジルに贈った歴史早見表の私の分を持ち、お父様の帰りを待ちました。心臓がドクドクと音をた立てています。お父様は、私を認めてくれるでしょうか。



 この歴史早見表こそ、私の血と肉です。



 これをまとめた能力は、日本で学んだチート能力ですが、どうかこれくらいのチートはお許しください。




 私は、夜遅く帰宅したお父様に、食事の際に話を聞いて欲しいと頼みました。お父様は疲れた顔をしていましたが、可愛い娘の願いを快諾してくれました。


 長い木造のテーブルの両端で、お父様は夜食を、私は紅茶を飲みながら、座っています。



「実は、コリーに振られてしまったの。」


 私が事の顛末を話すと、お父様はあからさまに、私をかわいそうな者を見るような目で見つめてきました。


 その視線、止めてください。私の心に、突き刺さっています。


 そしていつの間にか、お父様の隣にお母様も来ていて、私の話にどんよりとした表情をしていました。



「それで、家を捨てたいの。」


 私が単刀直入に口にした言葉に、お父様とお母様は顔を見合わせてから黙りました。



 私は侍女に歴史早見表を渡しました。侍女がそれを持ち、お父様に渡します。お父様は食事を中断し、ナプキンで口を拭きました。そのナプキンを侍女がすぐに片付けていきました。



 歴史早見表を開くと、お父様が私に視線を送ってきました。私はその視線に頷き、答えました。


「私が作ったわ。これで、食べていけるかな。」


 お父様は、歴史早見表をじっくり読みはじめ、終えると、立ち上がり、わざわざ私の所まで歩いて来ました。


 そして私の額に口づけると、私を優しく抱きしめました。


「フローレンス、お前の才能を祝福する。家を出なさい。自由に、生きてみればいい。」


 驚いて声をあげたのは、お母様でした。


「何を言っているの、あなた。貴族の娘が家を出るというのは、死ぬのと同義ですのよ。」


 お母様の焦り具合に、私は家を出ることの重大さに少し思い至りました。けれど、そのお母様の意見を否定したのは、私に甘いお父様でした。


「フローレンスには、誰にも代え難い、素晴らしい情熱と才能がある。」


 その言葉に、私は、泣きました。私を、認めてくれるのですね、お父様。


「ジェススの家、いや、貴族の家に閉じ込めては、潰されてしまうかもしれない。それならいっそ解放して、自力で自由にやらせてあげたほうがいい。」


 お父様がお母様に向かってそう訴えました。それは提案のようでありながら、お父様の中ではすでに決定事項となったことが、私には分かりました。



「フローレンス、貴族の家にいれば、貴族の勤めに加え領地の管理など色々とやらなくてはいけないことがある。女性なら結婚育児もそうだ。そのような事に煩わされないためには貴族をやめ、ただの歴史研究家になりなさい。」


 勢いづいたお父様は、どんどん考えをまとめ、最善の案を導いていきます。


 私は圧倒されながら、けれど喜びで飛び跳ねそうでした。今まで、まるで呪縛のように結婚に囚われていたのに、他にも道は、こんなにも近くに転がっていたのです。


「家を出て、学校の寮へ。侍女を一人付けよう。学費生活費は、卒業まで私が支払おう。いや、待てよ。ジェスス家の資料をまとめ、年代別や時系列の資料にしてくれないか。その報酬として、高校の学費生活費を支払おう。」


 私はお父様にぎゅっと抱きつきました。そしてこみ上げてくる涙を、お父様の肩で拭いてやりました。この人の娘で、良かった。


「その資料制作を終えたら、学長にそれを見せ、学校で雇ってもらえないか直談判してみなさい。学校の図書館は雑多に資料があるから、お前の力は助けになるだろう。家系図を作る仕事も需要があるな、貴族の家に住み込んで。」



 夢のような話しに花を咲かせた夫と娘を見て、お母様が、ピシャリと大きな声を出しました。


「貴方達。全く貴方達は、すぐそういった夢物語を家族や日常よりも尊いものと考えがちですが、結婚も育児も変わらぬ日常も、劣らず大切なことです。」



 夢の話にザクっと釘を刺すと、お母様も私に近づき、私と目を合わせました。


「フローレンス、聞きなさい。」


 お母様はおっとりした方ですが、怒ると怖いので私は大抵の場合は言うことを聞くようにしています。


「女性にとって生きることは、家に入ること。良い家に入れば、良い人生を。大抵、そう決まっています。だから親は、娘のために良い結婚話を血眼になって探すのです。娘を閉じこめるためではありません。幸せになってもらいたいからです。」


 そう言って、お母様は鼻を私の鼻にすりつけてきました。


「でも貴女に、家に入る以外で幸せになる方法があるなら、家を出ることは応援します。ただし、たまには帰ってきて、顔を見せなさい。」



 私は、うんうんと、何度も何度も頷きました。




 こうして意外とあっさりと、私は家を捨てる許可を得たのでありました。



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