主人公は、私ではありませんが、これはこれでいいのかもしれません。
その日のうちにお父様から交際の許しを得、王太子との婚約話も立ち消えた今、私とコリーの間には、何の障害もありません。
お父様が私達の婚約を認めたため、アシュリーも今のところ、何も、仕掛けてきません。
私はホームルーム終了と同時に、コリーがいる隣の教室へ向かおうと、帰宅の準備を始めました。周りのクラスメイトたちと談笑しつつ、ゆっくりと、準備を進めます。
ジルに会うために第七図書館に通っていた頃は、一秒さえも惜しく感じられて、ホームルーム後は飛ぶように教室を出ていたことを思い出し、私は懐かしくて、心の中で、微笑みました。
あの頃とは違う日々が、これからの日常になるのだと、私は自分を納得させ、立ち上がりました。
もう空を、見上げることもないでしょう。私は、まっすぐ前を向いて、生きていきます。
コリーはすぐに見つかりました。
阿鼻叫喚が巻き起こる教室で、私はコリーの前に立つと、何を言えばいいか分からなくなり、とにかく立ったままでいました。
一方のコリーも、私に何を話しかけたらいいのか分からなかったようで、私達は暫くの間、お互いを見つめ合って、立ちつくしていました。
あまりの焦れったさに、痺れを切らしたのは見ていた生徒達で、どこか二人っきりになれる所に行けと教室を追い出されました。おかげで私達は、歩き始め、話し始め、校庭の隅にあるベンチにたどり着きました。
コリーは話し下手で、面白い話ができる方ではありませんでした。けれど、私の質問にとても丁寧に、一生懸命答えてくれました。私は、自分のことをよく見せる必要もなく、私達は合っていると感じました。
「フローレンス様は、雲の上にいるような方だったので、こうやって話せるようになるなんて、驚いています。」
コリーが、大きな体と円らな瞳で笑いました。私はその笑顔を見て、かわいいと思いました。
私達は毎日放課後を共に過ごし、近くの露店で買物をしたり、散歩をしたり、沢山の時間を一緒に過ごし、ゆっくりとお互いを知っていきました。
私は屋敷に着くと、ほっと息を吐きました。
「姉さま。」
突然かけられた声の方へ振り向くと、そこには、一つ年下の弟、フーリィがいました。
王太子の側近をしているフーリィが家にいることは珍しく、私は両手を広げて彼を迎えました。
ギュッと私に抱きついてきたフーリィは、今や私より背が高く、柔らかかった体もゴツゴツと固くなっていました。私はその成長ぶりに複雑な気持ちになりながら、体を離しました。
フーリィが、いたずらっ子のような顔で、尋ねてきました。
「姉さま。好きな人と婚約できたんだって。おめでとう。」
私はその言葉に、ありがとうと笑顔で応えました。まだ正式には決まっていませんが、もう私達の関係は広く知れ渡っているので、同じ様なものでしょう。
フーリィも、微笑みました。そして、声を潜めて、私の耳元で何やら囁きはじめたのです。
「良かった。実は、ずっと言うかどうか迷ってたことがあって。」
弟の様子に、私も耳をそばだて、続きを待ちました。何か大切な、他の人に聞かれてはいけない話があるのでしょう。
「王太子殿下のことなんだけど。もうすでに心に決めた方がいらっしゃるんだ。」
私は驚いて、え、と呟いてしまいました。
「姉様が、殿下と結婚したら苦労するだろうと心配だったんだ。でも父さんも王家の人達も、二人の結婚を望んでたから、言えなかった。ごめんね。」
本当に申し訳なさそうに、フーリィは何度も謝ってくれました。私は弟を宥めて、元々殿下と結婚する気は無かったと話しました。
私は首を傾げました。王太子殿下に、愛する人がいるなんて。そうだとすると、殿下との結婚は、例え王妃になれたとしても、とても幸せになれそうなものではありません。
しかもフーリィの口振りでは、お父様もその事実を知っていたようです。
先日、あれほど私を感動させた父は、やはり、狸のようです。娘の私さえも騙し、うまく利用する、そういうことでしょうか。
私は、ため息をつきました。
求められていたものは、何だったのでしょう。
ジェスス家の娘である私、美しい私、才能溢れる私。偶々産まれた家が良く、偶々産まれもった容姿が美しく、偶々チートだった。
求められていたものは、私が、偶々、持っているものばかり。
私が、この物語の主人公だから、持っているものです。
どれも、本当の私では、ありません。
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そろそろ終わりそうです。
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