主人公は、私ではありませんが、まあそういうこともあるでしょう。
「この青年と、婚約するんだな。本気なんだな、フローレンス。」
お父様の眉間には、少し皺が寄っています。私はそれを見なかったことにして頷き、続きの言葉を待ちました。
「ホズワルド侯爵家の次男か。家は悪くはない。次男、か。」
考え込んだお父様に向かって、私は微笑みました。
「お父様、心配いらないわ。私が一緒なら、どうにでもなるわ。」
私は今、自分がこの物語の主人公なのか否か、分かりません。それでも、チート能力は腐るほどあるので、路頭に迷うことはないでしょう。
そもそも、私に甘いお父様がどうにかしてくれそうです。
お父様は、魔術師団団長ですが、魔法は一切使えません。それなのに団長になれたのは、その政治力と、金の成る木になるであろうと期待されている魔法事業を、どうにか軌道に乗せるための手腕を持っていそうだと高く評価され、抜擢されたためです。要するに、狸なのです。
「本当に、いいんだな。」
お父様が立ち上がり、執務机から私に向かって歩いてくると、私の椅子の前で膝を床につけ、目線を私と合わせてきました。そして真剣な眼差しで、私の両手を両手で握り込み、尋ねてきました。
「フローレンス、私の欲目かもしれないが、お前は非常に優秀だ。女性は、結婚で一生が決まる。だからお前のことを、お前の能力を活かせる場所に嫁がせたいと、ずっと考えてきた。王宮はお前にとって、とても楽しい場所になると私は考えている。だがお前はそうではなく、自分で選んだ男性と、自分達で選んだ人生を、生きていくんだな。後悔は、しないか。」
私は驚きました。家のために、王家へ嫁ぐことが求められているのだと思っていましたが、私の早とちりだったのでしょうか。
私は嬉しくなり、微笑みました。
「大丈夫ですわ、お父様。私、何があっても、自分でどうにかできますもの。」
お父様は苦笑しました。
「そうだな。私はお前を見くびっていたのかもしれない。私の考えで、お前の人生を決めようとしていた。だが、お前は強い。」
お父様も、微笑みました。
「自分の思うように、生きなさい。フローレンス、お前は自由に、空を飛びなさい。」
お父様の言葉に、私はついほろりと涙を流してしまいました。この時代には有りえない、素晴らしい父親です。
二人でしみじみしていると、お父様が、そういえば、と机に戻りながら話し始めました。
「まだ秘密だが、王太子と異国の王女との婚約が決まった。お前はもう、自由に婚約をしてもいい。」
やはり、私はまだ主人公なのでしょうか。運命の相手が定まったので、自然と、道が開き始めたのでしょうか。
そうそう、そう言いながらお父様が机の引き出しから、封書を一通取り出して私に見せました。
「第三王子から、結婚の申し込みが届いた。」
私とお父様は、顔を見合わせて笑いました。王家は、余程私を高く評価しているようです。王太子がダメなら、婚約者のいない第三王子との縁談を持ち出すなんて。
「有り難いお話ですが、お断りします。」
私はきっぱりと断り、お父様は、ぽいとゴミ箱に封筒を投げ入れました。
「アシュリーとは、話したのか。」
その問いに、私はため息をつきました。
「話したけど、あの人何も分かってないみたいなの。バカだから。」
私につられて、お父様もため息をつきました。
「あいつは何と言っていた。」
私は、アシュリーの話をまとめようとして、まとめられず、あった出来事をお父様にとりあえず話しました。
「私のことを、自分の所有物だと思ってる。私に気持ちがあるなんて、考えたこともないのよ、アシュリーは。私はせめて、私を人間として扱ってくれる人と結婚がしたいの。」
お父様は私の話を聞きながら、ため息をつきました。
「なぜ、あいつはあんなにバカなんだ。公爵夫妻はまともなのに。いつも、言葉が足りない。」
ため息まじりにそう呟いたお父様の問いの答えを、私は、知っています。
アシュリーは、誰かが作り上げた最高傑作の基●●で、家族や環境など関係ありません。純粋培養の、ヤンデレです。
私を愛して病んで、滅んでいくのでしょう。
幼少の頃、それはそれでいいのかもしれないと、アシュリーに洗脳されかけました。けれど、私はその沼から這いだしてきました。だって、あいつは、ヤンデレな上にオレ様で、ナルシストで人としてバカで終わってて、そんな盛り盛り設定だから、基本的に理解不能です。もし一緒にいれば、私には発狂するという道しか残されていません。
しかもあいつは、私の幸せを願うことは、一度もありませんでした。
願うのは、自分の欲を満たすことばかりです。ヤレヤレ。
こうして、私とコリーは公認の仲になりました。




