主人公は、私です。
私の名前はフローレンス。
ジェスス公爵家の次女でございます。
私は、賢い。
私は、美しい。
私は、強い。
私は、優しい。
父は魔術師団団長。母は国王陛下の妹。兄は騎士団副団長。姉は公爵夫人。弟は王太子殿下の側近。妹は社交界の華。
私は幼少の頃から冷静沈着で、物事をよく見、考えることができ、社交も完璧で、武術やダンスもすぐにできるようになりました。
私は、特別。
天才、と呼ばれることもあります。
そりゃそうだ。私は、転生者ですので。
確かこのようなことを、テンプレ、と呼んでいたはずです。私はトラックに跳ねられ日本で死に、こちらの世界でまた産まれました。知識も記憶も感情も、全てを持ったままです。当然、天才ではありません。二度目の人生、うまくできるのは当たり前。
真っ赤な薔薇のような人生を、謳歌してきました。魔法も、武術も、社交も、とても面白い。人間のドロドロ、最高です。何でもできると、人生は楽しいことばかり。私は身を持ってそのことを学びました。
けれど、もう、飽きました。
一七歳にして、私は人生というものに、飽きてしまったのです。
家でゴロゴロしながらゲームがしたい。なんなら自分でゲーム機作ります。魔法でどうにかできるはずと、夜な夜な色々試しています。
けれど、大 問 題 があるのです。ここは、私が読んでいた恋愛小説の中の世界です。
私は、この物語の 主 人 公 なのです。
そしてこの小説、ただの恋愛小説だと侮ることなかれ。この小説は、作家がネットで発表し、人物やルートを自由に足してもいいよー★と煽った、問題作なのです。基本的な設定、環境、イベント、主人公などは変更できないものの、自由に新しい人物やルートを一般人が創ることができる新感覚ネット小説として、大人気になりました。しかも、他人の作った人物やルートにさえ手を加えることができたのです。
この物語は、何百万人もの恋愛対象と、何億通りものルートと、ハッピーエンド、バッドエンド、ノーマルエンドがお互いに絡み合って溶け合って爆発している、 超 大 作 なのです。
当然、私が読んだのは一部のみで、現在、小説の設定通りに時は進んでいるようですが、どの辺りまで進んだのかはよく分かりません。
分かっていることは、ただ一つ。この小説のゴールは、誰かと結婚をすること。
ということは、多分、いつか、きっと、私は、誰かと結婚をしなければいけないのです。
結婚。けっこん。ケッコンです。一体誰とするべきか、私は、とても悩みました。
王侯貴族と結婚などしたら、一生周りの顔色をうかがいながら、オホホウフフと生きるのみです。いやだ。お断りします。
では、平民との結婚は成立するでしょうか。高位貴族の私の立場では普通はありえませんが、それは、これは、ネット小説の世界。もちろん、平民ルートも数多存在します。万歳。
そうであるならば、絶対に、平民がいいです。
楽そうです。大貴族の私を平民の家に迎えるのは大変な名誉なので、きっと、私の希望通り、ダラダラさせてくれるはずです。ゲーム機を作る時間くらいは、絶対に、あるはずです。楽しそうです。
こうして、私は実家からの圧力を無視し、見合いの場である舞踏会には顔を出さず、必ずや平民の誰かと結婚しようと、日々、画策しているのです。