主人公は、私ではありませんね。
私は考えに考えて、ジルのために二つ、贈り物を用意しました。
一つ目は、第七図書館に朝夕通いつめて書き上げた、私の最高傑作。
歴史早見表です。
この世界には、沢山の書物があるのですが、まとめ方がとっても下手クソなのです。一つの出来事についてダラダラと書かれているだけで、時代背景や社会情勢、その出来事の前後に起きた他の出来事などが、全く解説されていないのです。
だから、分かりづらい。
そこで、日本で受験経験者の私フローレンスが、年代順に主な歴史的出来事をまとめてみました。ついでに、詳細が知りたければ、何という書籍の何ページを参考にしなさい、という注釈も入れておきました。
ジルは、とても聡明な方です。彼が私の話を聞きながら、いつも目を輝かせてくれたのは、私の妄想に、ではありません。私がなぜそのような妄想をするに至ったのか、その経緯をきちんと文献から探し、その事実に基づいて妄想を駆り立てていたからでした。
「この王は、馬鹿だと思います。だから反乱が起きても仕方がない。」
もし私が、このように話していたら、ジルはすぐに私の妄想に飽きて、私との会話は盛り上がらなかったことでしょう。
「この王は、馬鹿だと思います。見て、王都で行われた工事の記録によると、十年の間に五回も、王都の大通りに莫大なお金をかけて道の補修をしています。この王の前後の王たちは、そのようなことはないので、きっと、何か黒い理由があるはずです。王都の大通りなら、散財が国民の目にもつきやすく、これ以外にも無駄な出費があったのなら、全てが積み重なって、反乱になったのでしょう。」
「ジルは、どう思いますか。」
私の問いに、ジルは楽しそうに笑っていました。その細くなった瞳に、私は何度も恋をしました。
さて、もう何年も前から作ろうと思いながらなかなか手が回らなかった歴史早見表はできました。ジルは、必ず、喜んでくれるでしょう。
もちろん、私の分も作りましたので、ジルには内緒ですが、お揃いです。例え、もう会えなくても、これを見ればジルのことを思い出せるように。それだけで、私は、満足です。
さて、もう一つの贈り物は、手作りのクッキーにしました。
中世ヨーロッパには、高位貴族が手作りの食べ物をあげる習慣はなかったと思います。けれど、ここは小説の中なので、あります。女子という生物は、手作りの物を男子に贈りたいのでしょう、そのような告白イベントが、あったのです。
私は日本にいた頃、あまりこのイベントには共感できませんでした。けれど、今なら分かります。
とにかく、好きな人のために、何かがしたい。
時間と手間をかければかけるほど、自分の想いの深さが表せるようで、嬉しいのです。
ということで、私は厨房の隅で料理人達の邪魔をしながら、なんとか香ばしいクッキーを焼き上げました。
いざ、出陣じゃぁ。




