主人公は、私ではありません。
ジルにとって私は、歴史オタク仲間なのでしょう。私の頭が、その事実を認めるまでに、かなりの時間がかかりました。
私は、バカでした。
この物語の主人公が私で、ジルが恋愛対象だとしたら、絶対にハッピーエンドがあるはずと、勘違いをしていました。よく考えたら、あの性格のしょうもないヤツらが創ったクソなストーリーなら、ハッピーエンドがないキャラクターがいても、不思議ではありません。
私はそもそも、主人公であることに甘んじて、誰かを好きになりさえすれば、その人と結ばれると思っていました。運命の人と出会えば二人は燃え上がり、手に手を取り合って王都から逃げだして、寂れた街で貧乏もせず、沢山の子供達に囲まれて楽しく生きていけると、信じていました。
けれどジルは、私に対して丁寧な言葉遣いと物腰で、私の誘いをうまくかわしながら、程良い距離感を常に保っているのです。
それは、恋ではない、友人同士の距離です。
大テーブル四つ分から、ベンチで隣同士に座るまで縮まっていた二人の距離は、近いようで私にとっては果てしなく遠い、そのような距離なのです。男性が苦手な私が、もっと近づきたいと願うのと同時に、近すぎない安心感がある、そのような距離、なのです。
ジルと私は、歴史オタク仲間。
それで、いい。
ジルは、私のことが嫌いではないと思います。
歴史好きな私が好きなのか、歴史がなくても好きなのか、それは分かりませんが、好意を感じることはあります。けれどそれが、今自分が持っているものを捨ててまで欲しいかと問われると、きっと、答えは、否、なのでしょう。
そうだとしても、私は、私の気持ちを伝えたいと思います。例え振られたとしても、こんなにもキラキラとした毎日をくれたジルに、ありがとうと、伝えたいのです。
ジルが好きなものは、苦めのチョコレートと歴史の話。感謝の証に何かを渡したい、私はジルの好きなものに思いを馳せて、決めました。
卒業式まで一ヶ月半。
この恋をどうするのか、結婚は誰とするのか、私はもう、決めなくてはいけません。




