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あー。私ってやっぱり主人公なんだなって、心底思いました。  作者: 一子
第一章 主人公は、私です。
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主人公は、私で合っていますか。


 ジルが図書館に姿を見せれば、(わたくし)達は連れ立って外のベンチで討論を繰り広げるようになりました。



 この物語の設定は中世ヨーロッパなので、教育レベルはそう高くはありません。歴史書を分析している研究者など、そうはいないでしょう。高等学校に通う子供達が議論をするにしては、難しい内容です。



 とはいえ、私は頭脳明晰キャラですので、特に問題はありません。けれどジルは、チート無しで私と議論をしているのですから、非常に優秀だと思われます。



 ジルはとても賢く、とにかく人当たりが良い男性です。これだけ整った姿と頭の良さを持ちながら、嫌みや苦みがなく柔らかく、味方ばかりができそうです。貴族によくある、愛想が良い、如才がないわざとらしい感じでもなく、本心から穏やかで、柔らかく落ち着いていて、居心地が良い男性でした。


 私は寝ても覚めてもジルのことを考え、毎日新しい歴史書を読んでは一緒に分析することを楽しみにしています。



 けれど、ジルとの逢瀬は、私の心にとって、とても浮き沈みの激しい厳しいものとなっています。


 ジルは、私のことを何も聞きません。


 だから私も、聞けないままでいます。


 聞きたいことは、山のようにあります。名字は。家は。婚約者は。将来の仕事は。好きな物は。好きな人は。好きな食べ物は。好きな色は。好きな動物は。好きな服は。好きな靴は。好きな言葉は。好きな、本は。私は、ジルの個人情報を、何一つ知りません。



 そこで私は考えました。



 きっと、この状況が悪いのです。


 私はついつい歴史の話になると熱が入りすぎて周りが見えなくなるので、歴史書がない場所で会えば、違う話題も出るのではないかと考えたのです。


 私は、恥ずかしながら、自分から誘ってみることにしました。頑張れ、私。



「ジルと話していると、すぐに時間が過ぎちゃうなぁ。お昼の休憩中とかは、時間、あるのかなぁ。」


 私はなるべく自然な流れで、暗に一緒にお昼を食べようと誘ってみました。



 ジルは、はっきりと、驚いた顔をしました。何に驚いたのかは、私には分かりませんでした。


わたしも同じ思いなのですが、昼食時は体が空きません。申し訳ありません。」


 ジルは、とてもとても残念で、申し訳なさそうに眉を下げて、私に謝りました。



「そうですか。では、また、ここで。」


 私は無理に笑顔を作ると、痛む胸のあたりを押さえながらベンチから立ち上がりました。



 断られても、いいのです。それは仕方がないことです。


 心が痛いのは、そこではありません。



 ジルは何の話をする時も、自分のことがバレないように話すのです。体が空かない。そう言われると、拒絶されたようで、その先の一言を私が続けることができません。もし、友人達と食べるから、委員会の仕事があるから、貴族ばかりの食堂に行くのは嫌だから、そのように言ってくれたら、いつも昼食はどこで、とか、好きな食べ物は何、とか、私はジルについて聞けるのに。


 その隙を、ジルは作ってくれません。



 私はしょんぼりと肩を落とし、図書館を離れました。


 恋って、難しい。




 初恋は、うまくいかない。


 悲しい名言が頭に浮かんで、私はため息をつくしかないのです。



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