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身勝手な幼馴染


 買い物を済ませ、駅の改札口がある階段を上り、春香を迎えに行く。


 既に春香(はるか)は、改札口前の柱前に、背もたれて待っていた。

 相変わらずの金髪の髪に、白いシャツに赤のカーディガンを羽織り、黒のジーンズ姿でポーチのような鞄を首から下げつつ、紺のヒールをカツカツと鳴らしながらスマホをしきりに確認している。

 しかし、今日はピアスをしておらず、化粧もばっちりメイクではなく最低限の薄化粧という感じだ。

 

 今の感じの方が、高校時のようなあどけなさが残っていて、俺的には可愛いと思うんだけどなぁ……


 そんなことを思いながら、俺は春香の元へ近づいていく。春香も俺に気がつき、こちらへと向かってきた。


「よっ」

「遅い」

「いや、約束した時間よりは早く着いたんだし、いいじゃねーか」


 春香はいかにも不機嫌そうな表情で俺を睨みつけていた。春香は機嫌が悪い時、人前ではあまり会話をしたがらない。

 愚痴を聞いてやるためにも、さっさと家に向かうことにした。


「ま、いいや。こっちだ」


 俺は春香を手招きして、アパートへ歩き出す。


「何か買ってく?」

「いや、いい」


 春香は不機嫌な口調のまま、一言そう口にして黙ってしまう。こりゃ、相当ストレス溜まってるやつですやん……家で大声出されたら近所迷惑だから勘弁してほしいなぁ。


 そんな心配をしながら、俺たちは黙々とアパートへの道を歩いていった。



 ◇



「着いたぞ」


 俺が目の前のアパートを指差すと、春香は顔を上げる。


「ボロ、それと遠い」

「第一声がいきなりダメ出しかよ……」


 俺は苦笑いをしつつ、アパートの階段を上がっていく。

 外廊下を歩き、一番奥の部屋へと進んでいく途中、俺は隣の部屋のドアを見て、ふと思い出す。

 そういえば、優衣(ゆい)さんは、ちゃんと家に帰ってこれたのだろうか?


 優衣さんの部屋を通り過ぎる際、玄関横の小窓を覗き見るが、部屋の明かりがついている様子はない。

 もしかしたら、入学式後に、同期の人たちと一緒に親睦会(しんぼくかい)か何かに参加しているのかもしれない。


 一番奥の玄関前に到着し、俺は春香を一度手で制止する。


「ちょっと待って」


 俺は鞄から家の鍵を取りだして、鍵穴に差し込む。カチャっと施錠が解除される音が鳴り、鍵を外してドアを開けた。


「どうぞ」

「……お邪魔します」


 春香は恐る恐る玄関へと入り、辺りを少し見渡すと、感想もなくヒールを脱ぎ捨てて、ずかずかと部屋の中へ入っていく。


 ダイニングを素通りして、部屋ところで立ち止まり、周りを見渡す。すると、何かを見つけたらしく、奥の方へと消えていった。その直後、ボフっという音と共に「はぁ~」と幸せそうなため息が漏れて聞こえた。


 何事かと思い、俺も部屋へ向かうと、隅の方に畳んであった布団に、春香がダイブして心地よさそうに顔を埋めてスリスリしていた。


「はぁぁ~お布団……」


 気持ちよさそうに頬ずりをして幸せそうな声を上げている春香。

 俺は見てはいけないようなものを見てしまったような気がして、思わず顔が引きつる。

 すると、春香はムクっと起き上がり、布団を持ちあげて、テレビの前のローテーブルを勝手に端の方へと動かし、部屋真ん中辺りに堂々と勝手に布団を敷き出した。


「何やってんのお前?」


 俺がそう問うと、布団を敷き終えた春香は振り返る。


「え? だって、私の家のベット固くて全然寝れないんだもん。首も()るし」


 春香は首を手で揉みほぐしながらそう答える。そして、首から下げていたポーチほどの荷物を下ろすと、敷いた布団へ思い切りダイブした。


「はぁ~これよこれ! やっぱりお布団が一番!」


 俺は唖然(あぜん)とした表情をしながら、幸せそうな表情を浮かべている春香を、ただ茫然(ぼうぜん)と眺めていた。春香は再びムクっと起き上がると、部屋の隅に同じく置いてあった毛布を手に持ち、再び布団へ戻って行き、寝っ転がって毛布を自分の身体へかける。


「私、ちょっと寝るね」

「はぁ!?」

「二時間くらいしたら起きるから~」


 春香は手を上にひらひらと振った後、そのままもぐりこんで眠る体制に入ってしまった。

 あいつはこういう時、何を言っても自分がやると言ったことは、やるまで機嫌が直らないため、俺は大きなため息を一息ついて、春香の望み通り寝かせてやることにした。



 ◇



 春香が眠ってしまい、やることが特になかったので、俺はスマホで最寄り駅のアルバイトの求人が他にもないか調べてみることにした。

 検索すると、大手チェーンの居酒屋や焼肉屋などの飲食店。スーパーやドラッグストアなどの販売店など、商店街で見つけられなかった求人がたくさん載っていた。


 さらに求人情報を検索していると、不意に手に持っていたスマートフォンが振動し、トークアプリの通知が届く。宛先は「詩織(しおり)☆」となっており、メッセージには『グループ入って~!』と書かれていた。

 俺はメッセージアプリを起動して、参加承認待ちされている、詩織が作ったグループへの参加ボタンを押した。グループに入ると、既に厚木(あつぎ)井上(いのうえ)さんが入っていた。どうやら四人専用のグループを高本(たかもと)が作成したらしい。


 俺がグループに参加すると、すぐに高本からメッセージが届いた。


『とりあえず、四人(そろ)ったね! これから色々よろしく!』と書かれたメッセージと共にスタンプが送られてきた。


 俺も『よろしく』と送ったついでに、適当にスタンプも送っておく。


『そういえば、明後日の入学式どうする?』


 厚木が送って来たのを皮切りに、厚木、高本、俺の3人は、入学式の日に大学の最寄り駅で待ち合わせをして、入学式に一緒に行く約束などを取り決めた。

 メッセージを送っても、既読が2しか付いていないので、井上さんはおそらく仕事で忙しいのだろう。まあ、後でグループトークを見て何かしらのアクションは向こうから起こすだろうと思い、スマホから目を離した。


 すると、丁度布団からムクっと春香が起き上がり、目を覚ましたところだった。


「おはようさん」

「んん~」


 春香は、重たそうにしている瞼を擦りながら、俺へ生返事を返してきた。


「それで? 何があったんだよ、急に俺の家に来て」


 俺が気になっていた本題に入ると。春香は大きく欠伸をしながら俺の方を向いた。


「え? 何のこと?」


 こいつ、寝ぼけてんのか? 一瞬春香の反応にイラッとしたが、何とか我慢して話を続ける。


「何のことって、さっきまで機嫌悪かったじゃねーかよ。またなんかあったのかってこと」


 春香は寝る前の出来事を思い出すかのように人差し指を口元に置き「あ~」とつぶやく。


「いや、別に何も」

「はぁ!?」


 俺は突拍子もない春香の答えに、思わずズッコケる。


「機嫌悪かったのは寝不足だったからで、大地の家に来たのは布団で寝させてもらうために来たの」


 また大きな欠伸をしながら答える春香に、俺は呆れかえった。こいつはなんて自由で身勝手なやつなんだ。


「せっかく心配してやったのに、心配し損じゃねーか」


 がっくりと肩を落として落胆していると、さすがに春香も申し訳なく思ったのか、両手を体の前でアワアワしながら言い訳する。


「いやぁ、だって。こっちで頼れるの大地しかいないし。眠すぎて色々と思考も停止してて、考えるのも面倒臭くなってたから……ごめんってば!」


 顔を少々赤くしながら春香は謝罪してきた。


 俺は色々と言いたいことがあった気がしたが、呆れを通り越し、なんかもうどうでもよくなってきてしまった。ホント、身勝手な幼馴染がいるのって面倒くさいぜ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 【「いや? 別に特には何も」】「別に」か「特に」どちらか一つだけで良いと思います。 [一言] 同じ助詞の多用はあまりしない方が良いです(~の~のや、~が~が等)。
2020/03/01 01:27 退会済み
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