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綾香の素顔(綾香1泊目)

 綾香がシャワーを浴びている間に俺は着替えを用意して、寝る準備を整えるなど、部屋中を動き回っていた。綾香は友達であるが、れっきとした芸能人。そんな人を家に泊めると考えてしまうと、ソワソワしてしまい、じっとしてはいられなかった。


 テレビの裏など、普段全く掃除をしないようなところまで手を付け始めた頃、綾香が洗面所の方から現れた。


 濡れた髪は、サラっと綺麗な艶やかさに真っ直ぐで、貸したバスタオルで髪を拭いていた。すっぴんであろう彼女は、普段と比べてより美しさというよりは可愛さが増しており、少し年相応のあどけなさが残っている印象を受けた。

 それにしても、俺が貸した上下グレーのジャージを着ているだけなのに、輝いているように見えてしまうから不思議だ。


「ごめん、ドライヤー貸してほしいんだけど」


 綾香が髪を拭きながらぼそっと俺に遠慮がちに言ってくる。


「あぁ、洗面所の下の引き出しに入ってるから使っていいよ」

「わかった、ありがとう」


 綾香は踵を返して再び洗面所へ戻って行く。

 しばらくすると、洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。



 俺のジャージを、芸能人の井上綾香が着ていると考えると、改めて何かふつふつと込み上げてくるような不思議な感覚に襲われる。


 そんな変なことを悶々と考えているうちに、ドライヤーの音が鳴り止み。綾香が部屋へと戻って来た。


「ありがとう」


 綾香はお礼を言いながら、自分が持っていたバックの方へ向かっていく、途中で俺の横を通った時に、お風呂上りのいい匂いが俺の鼻を刺激した。


 化粧水など美容ケアをしっかりと終えて。ようやく一息ついた。


「本当にごめんね。色々と……」


 改めて、ローテーブルの前に座った綾香が、申し訳なさそうに謝ってくる。


「いやいや、こっちこそ、財布届けてもらってこんなことになっちゃって申し訳ない」


 お互いに机に向かい合う形で座りながら、ペコペコと頭を下げていた。

 

 ふと目が合った。申し訳なさそうな表情を見ていると何故か自然と笑いがこみあげてきてしまった。


「ふっ……」

「あははっ……」


 二人とも謎の笑いをしてしまい。お互いに肩の力が抜けたようだった。


「明日は仕事?」


 俺が話題を変えるように話を切りだす。


「うん、明日は午後からドラマの撮影が入ってる」


 綾香は手櫛をしながら、明日の予定について答えた。


「何時ごろ出る?」

「うーん。一回家に帰りたいし。八時くらいかな」

「おっけ、じゃあ七時くらいに目覚ましセットしておけばいいかな?」

「うん、そうしてもらえると助かるかな」


 俺は目覚ましの方へ移動して、タイマーをセットした。


「あ、綾香はこっちの布団使っていいから」


 俺が敷いておいた来客用の布団を指さしながら言った。


「うん、ありがと」


 綾香は答えながら膝をすりながら、来客用の布団の前まで移動する。


「じゃあ、寝よっか」

「うん、そうだね」


 時刻は既に、夜の一時を過ぎていた。お互いに布団の中に足を入れて寝っ転がる。


「電気消すよ」

「うん」


 俺は部屋の明かりのスイッチを押して真っ暗にした。


「おやすみ」

「おやすみ」


 お互いに布団へ潜って毛布を掛けた、寝やすい体勢をモゾモゾと探して整える。



 ◇



 布団に入って何分経っただろうか、部屋の掛け時計の秒針の音だけが、カチカチと聞こえていた。


 俺はなかなか寝付くことが出来ずに、何度も寝がえりを打っていた。

 綾香の方に寝がえりを打つと、綾香は俺とは反対側を向いて、スヤスヤと寝息をたてながら眠っているようだった。


 どうやら、緊張をしているのは俺だけのようだ。

 別に何かあるわけでもないし、ただ同じ部屋で隣の布団で寝るだけなのに、あの井上綾香が隣にいると考えてしまうと、どうしても寝付くことが出来ずに頭が冴えてしまった。


 俺はもう一度寝返りを打ち、綾香とは反対の方を向いて、ドクドクを波打っている心臓を落ち着かせる。


 すると、綾香も寝返りを打ったようで、布団のこすれる音が聞こえてきた。

 音が鳴り止み、少し経った時だった。


「ねえ、大地くん。起きてる」


 ふいに綾香が声を掛けてきた。


「……起きてるよ。どうしたの?」


 どうやら、綾香も寝付くことが出来ていなかったらしい。話しかけてきた綾香に対して返事を返した。


「あのね……お願いがあるんだけど」

「お願い?」


 綾香はボソボソとした声で、言葉を紡ぐ。


「その、私普段ね。抱き枕使って寝てるんだけど……」

「うん」

「今日は急だったら持ってきてなくて……」


 俺はその言葉を聞いて、嫌な予感がした。綾香はそんなことを気にせずに、話を続ける。


「それでね……そのぉ、大地くんを抱き枕にして寝かせてくれないかなって……」


 俺の嫌な予感は的中してしまった。えっ、何? 抱き枕? それって同じ布団で綾香が俺を抱きしめて寝るということであって……


 完全に頭が活性化して、眠気が吹っ飛んでしまった。


「その! 嫌なら別にいいんだけど……」


 申し訳なさそうに綾香が言ってきたのに対して、俺は返答に迷った。


「いや、そのぉ……」


 俺は必死に頭をフル回転させ、どう答えようか考えながら、適当に出てきた言葉を紡ぐ。


「明日も綾香は仕事だし、寝れなくて仕事に支障出ちゃったらあれだし……綾香がそれで体調崩しちゃっても、なんか俺が勝手に責任感じちゃうし。その、だから……俺でよければ別にいいけど……」


 気が付けば抱き枕になることを、俺は肯定していた。


「ほんとに? いいの?」


 綾香が恐る恐る確認の意を問いてきた。


「う、うん……いいよ」


 今思えば、何か抱き枕の代わりになりそうなものを代用してもらえばよかったと後悔したが、一度OKを出してしまったからには仕方がない、男に二言はねぇ!


 そう心の中で気合を入れて、抱き枕になることを覚悟する。


「その……そっちの布団に行った方がいい?」

「お、おう。そうしてもらえると……」

「わかった」


 綾香はそう答えると、自分の布団を剥がして、こちらへスルスルと向かってきた。


「入るね……」

「う、うん……」


 毛布を捲られて、肌寒い空気と共に綾香が入って来た。


「お……お邪魔します」


 恐る恐る、綾香が俺の隣に侵入してくる。

 入ってきた時に、シャンプーの匂いが香ってしまい、咄嗟に俺は、綾香とは逆側に身体を向け、見ないようにする。



「その……どうすればいい?」


 綾香が困惑したように聞いてくる。


「俺はこっち向いてるから。好きなように使ってくれていいよ……」


 俺がボソっとそう答えると、


「わかった」


 と綾香が返事を返した。


 綾香は深呼吸を一回して、息を整える。


「じゃあ、失礼します」

「おう」


 綾香はゆっくりと俺の脇腹の辺りに両手を回して、お腹の辺りを抑え、抱き付いてきた。

 遠慮してるのか、ちょこんと触れる程度で少しくすぐったい。


「その、綾香が寝れるようにするためだから、遠慮しないでいいからね」

「わかった、ありがと。じゃあ、遠慮なく……」


 そう言うと、綾香は先ほどよりも力を入れて、今度は思いっきり身体をくっつけて抱き付いてきた。


「足も失礼します……」


 さらには、俺の脚を絡めるように、綾香は両足を俺の脚に巻き付くる。


 人気女優の柔らかい身体が、全身に密着している。こんなの、俺が耐えられるかどうか不安になって来た。


「はぁー……いい匂い……」


 さらにさらに、後ろからそんな綾香の甘い声が聞こえてた。

 背中に綾香の身体が密着して、柔らかい感触が背中全身に伝わってくる。優衣さんほどではないが、胸の弾力も直に伝わってきて……。


 すげぇ……これが人気女優の柔らかさ……っと一人心の中で感動していると、次の瞬間、肩甲骨の辺りに綾香は顔を埋めてきて、スリスリとし始めた。


 俺はそんな綾香を背中で感じながら、黙って見守ることしか出来ない。

 すると、綾香が顔を一度俺の身体から離した。


「はぁ……どうしよう大地くん……」


 そして、悶えるように身体をくねらせて困っている。


「ど、どうしたの?」

「大地君の抱き枕最高すぎて癖になっちゃうよ……いい匂いするし。もう……どうしてくれるの……!?」

「いやっ、そんなこと言われても……」


 俺が困惑していると、綾香は再び背中に顔を埋めて、思いっきり息を吸っていた。


「はぁ~……幸せ。ありがとう、大地くん」

「お、おう……」


 綾香は、今までで一番幸せそうな感嘆な声を出して、お礼を言ってきた。


「おやすみ」

「お、おやすみ」


 そして、俺にギュっと思いっきり抱き付いて、綾香はそのまま眠りへとついていった。



 ◇



 日曜日の朝、雀の鳴き声が聞こえてきた。もちろん俺は、一睡もすることが出来なかった。

 瞼は重いが、やはり緊張が解けずに頭が冴えてしまって、気付いたら朝になっていた。

 それもそうだ、同じ部屋で寝るだけで緊張してたのに抱き枕になってほしいと言われ、『大地君の抱き枕最高』と言われて抱き付かれてるんだ、眠れるわけがない。


 時刻を確認すると、朝の6時になろうとしていた。すると、俺に抱き付いてスヤスヤと眠っていた綾香がモゾモゾと後ろで動いた。


「んん……」


 可愛い吐息を吐きながら、モゾモゾと身体を動かしている。どうやら、目を覚ましたみたいだ。綾香は一度抱き付いていた手を離して、自分の顔をこすっている。だが、一息つくと、再び俺に抱き付いてきた。


「おうふ……」


 いきなりまた抱き付かれて、変な声が出てしまった。


「ん? ふぅー。おはよ、大地くん」


 ギュっと抱き付きながら顔を背中にこすりつけてきて、挨拶をしてきた。


「おはよ、寝れた?」

「うん、もうぐっすり……はぁ、大地くんの抱き枕すごいよぉ~もう離れられない……」


 甘い声でこんなことを言ってくる。そんなことをくっつきながら言われてしまうと、余計に色々と意識しまうからやめてほしい。


「大地くんは寝れた?」

「お、おう……まあ」

「……本当に?」


 訝しむ様子で綾香が聞いてくる。


「う、うん……」

「じゃあ、こっち向いて」

「えっ? なんで?」

「いいから……!」


 その瞬間、綾香が両手で強引に俺の身体を反転させる。

 なずがままに綾香の方に身体を向けると、目の前に突然美少女の顔が現れて、ドキっとしてしまう。

 お互いの吐息が伝わってきそうな距離に、心臓がきゅっと縮まったが、綾香はそんなのお構いなしに、眉をひそめた。


「やっぱり……すごいクマじゃん。寝れなかったよね」


 俺の顔を見るなり、綾香は真っ黒になった目の下のクマを確認して、眉間にしわを寄せて唇を尖らせていた。


「もう……」


 綾香はため息をつくと、俺の目を真っ直ぐと見て、ニコっと笑って両手を広げた。


「おいで」


 綾香は俺を迎え入れようとしているのか、両手を広げて優しい頬笑みを浮かべていた。


「え?」

「私だけ眠るのはダメ。ちゃんと、大地くんにも気持ちよく寝てもらわないと、今度は私が気にしちゃうから……」

「でも……」

「いいから来る!」


 俺は強引に頭を両手でつかまれて、強制的に綾香の胸元の辺りに顔を埋めさせられる。

 綾香の胸にクッションのように頬がくっついた。綾香の身体はとても柔らかくて、母性のような温かさを感じられる。すると、先ほどまでの緊張は何処へ行ったのやらというように、俺はどこか落ち着くような感覚に陥ってしまった。


 綾香は俺の頭を撫でながら、包み込んでくれていた。一睡もできていなかったのが嘘のように、俺は一気に眠気が襲ってきてしまう。


 抵抗する気も何も起きず、ますがままにされて、綾香の胸元に顔を埋めたまま、俺は意識がもうとうとしてきて、温かくて柔らかい感触に浸りながら、睡眠の闇へと吸い込まれていった。

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