スキャンダル!?(綾香1泊目)
夕食やシャワーを済ませ、寝巻きでスマホゲームをしながら俺は時間を潰して待っていた。
時刻は夜の十時を回っていた。スマホの通知を確認しても、綾香からの返事はまだ来ない。おそらく仕事が長引いているようだ。
綾香に地図アプリのスクリーンショットを撮って、それを綾香に送っておいたので、俺の家の場所が分からずに迷子になっているならすぐに連絡が来るだろうしなぁ……。
俺はスマホから目を離して、机に突っ伏した。ぼおっとしていると、徐々に眠気が襲ってくる。目がしょぼしょぼとなり、目をこすりながら眠気と必死に戦いながら、綾香の到着を待った。
ピンポーンとインターホンが鳴った。
俺は机からビクっと飛び起きて、ふと時計を見た。時刻は深夜の十二時を周り、既に日曜になっていた。知らぬ間に机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。
慌てて机から起き上がり、玄関の方へと向かった。小窓を確認すると、仕事終わりと思われる綾香の姿があった。俺はドアを開けて顔を出す。
「こんばんは。ごめんね、夜遅くに……」
綾香が、小声で申し訳なさそうに財布を手渡しながら言ってきた。
「いやいや、こっちこそごめんね。わざわざ届けに来てもらっちゃって」
俺は綾香から財布と受け取った。二人の間にしばしの沈黙流れる。
「あのぉ……」
先に沈黙を破ったのは綾香だった。
「ん?」
「そのね……」
綾香は肩を丸めて俯いて下を向いていたが、意を決したかのように身体を動かした。
「ごめんっ!!」
その瞬間、俺の身体めがけて体当たりをしてくるかのように、綾香が玄関へ飛び込んできた。俺はとっさに半歩身体を後ろにそらし、勢いよく玄関へ入って来た綾香の身体を受け止めた。
綾香は俺の身体に飛び込む際、手際よく片手でドアノブを掴み、玄関のドアを閉めた。
俺は状況が理解できずに、ただただ綾香を抱き寄せていた。心なしか、綾香のフローラル系の香水のふわっとしたいい香りが漂ってくる。
「えっと……」
状況が呑み込めずに困惑していると、綾香が俺の身体から少し離れて、玄関の前、つまりは俺の正面に立った。
「その……今ね。実は、週刊誌の記者に追われてるみたいで……」
「週刊誌!? それってパパラッチ的な人?」
「うん、そう」
「え、マジ?」
ってことは、この状況ヤバくね?
『人気女優井上綾香に熱愛発覚!』
写真付きで、そのような間違ったスクープでも出されたら、彼女に多大な迷惑を掛けてしまう。そんなことが俺の脳裏によぎる。
俺が引きつった表情をしていたのを察したのか、綾香が慌てて誤解と解くように答える。
「あ、そのぉ、今は平気だと思うんだけど。最近、私のことをついて回ってる記者の人がいるらしくて……」
事の状況を綾香が説明していく。
「それで、マネージャーが大地君の家の近くで、ばれないように下ろしてくれたんだけど。マネージャーが、『私が囮になるから、今日はその人の家に泊めてもらいなさい。』って言われて……」
俺は唖然とした表情でポカンと綾香の話を聞いていた。
「私は断ったんだけど……うちのマネージャー聞く耳持たないところがあって……」
「それじゃあ、そのままマネージャーは車でどこか行っちゃったってこと?」
俺はようやく状況を理解して話の続きを綾香から汲み取った。
「そんな感じだね……あはは……」
綾香が苦笑いを浮かべながら、困ったような表情をしていた。
「確かに、この時間じゃ終電もないし……」
「あっ、大地くんが迷惑だっていうなら、私は近くのホテルに泊まるから全然いいんだよ」
「でも、まだ近くに記者がいる可能性もあるし……」
「まあ、それはそうかも……ね。」
俺は状況を整理した。もしかしたら、家の前に張り込んでいて、もしかしたら先ほどのシーンすらも取られてしまっているかもしれない。結果として、俺がとってあげられる行動は綾香をかくまってあげることぐらいしか出来ない。
「まあ、別にそういう事情なら仕方ないというかなんというか……」
俺は有耶無耶に、お茶を濁しながらもそう言った。
「えっと……つまりは?」
「まあ、一晩くらいなら別にいいよ」
俺は頭を掻きながら、綾香にそう言った。
「ホントに?」
綾香が確認の意を込めてもう一度聞いてきたので、俺はコクリと頷いた。
◇
綾香を部屋に上げて、色々と考える。
「どうしよっか……とりあえず。シャワー浴びる?」
「え!? いっ、いいよそんな……」
「いや、でも一応芸能人なんだし、身だしなみはちゃんとしておいた方がいいでしょ? 次の日誰かに見られるかもしれないし……」
俺は綾香の格好を見る。
黄色のコートに黒のブラウスを着こなしていた。
「寝間着は最悪俺のやつを貸すとして……あ、下着はないけどそれは勘弁して」
俺は綾香の有無を言わさぬまま、せっせと準備を整えていく。
その姿を棒立ちで綾香は眺めているだけだったが、しばらくして申し訳なさそうに。
「ごめん、ありがとう」
と頬を少し染めながらボソっといったのが聞こえた。




