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第68話 混乱する侍女




「…………ふぅ」


 魔法具の製作に取り掛かり、ひと段落した私は一息。


「…………ふむ、思ったよりも作業工程に滞りができているわね」


 部屋に取り付けられた時計を眺めながら、私はティーカップの縁に口を付けた。



 作業を開始してから、すでに三時間が経過している。

 その間、私は一切休むことなく手を動かし続けていた。


 それでも魔法具の完成には至っていない。



「やっぱり、間に合わせで用意した機材では限度があるか……」


 魔王城に設置していた研究所には、現在、この地下室を埋め尽くす機材達の何十倍もの量があった。


 一応、今回用意したものは全て忠実に再現したが、やはり広さの問題で断念した機材は多くある。品質が落ちることのないよう、よく考えて運び込んだが、その代わりに作業効率は大きく下がってしまうのが痛い。



「この調子で、双子の誕生日までに間に合うかしら?」


 ずっと地下室に籠っているわけにはいかない。


 夜になれば一度屋敷に戻る必要があるし、私には剣術の稽古や魔法の研究、双子との遊び相手と、やることが沢山ある。その間にできた暇な時間で作り上げるには、少し厳しいものがあった。



「せめてもう一人、助手が居れば良かったのだけれど……流石にそれは無理よねぇ」


 私ほどの技術は望まないが、それでも最低限の基礎知識を得た者を助手としなければ意味がない。

 ……そして、現代でそのような人材を探すのは、ほぼ不可能と言っても良いだろう。



「あの、お嬢様? それは何をしているのですか?」


 それまでずっと口を挟まなかったエルシアだったが、私の緊張が緩んだのを察したのか、機材達とテーブルに転がる部品を指差し、質問を投げかけてきた。



「うーん、本当は出来てからのお楽しみだったのだけれど……まぁいいか」


 完成にはまだまだ遠い。

 それまでずっと疑問を持たせるのも悪いと思い、私は正直に教えることを決めた。



「魔法具を作っているのよ」


「魔法具、ですか?」


「……ああ、ごめんなさい。今はアーティファクトって言った方が、まだ親しみがあるかしら?」


「へぇー、アーティファクトを……って、アーティファクトぉ!?」



 ガタッと、エルシアは慌ただしく立ち上がった。

 ……うん、これくらいの反応は予想していたので驚かない。



「アーティファクトって、あのアーティファクトですか!?」


「えっと、魔力を流すだけで誰でも魔法と同じ効果を引き出すことができる道具。というアーティファクトなら、その認識で間違っていないわ」


 エルシアは口を大きく開き、何も言わなくなった。

 ……いや、何も言えなくなったと表現した方が正しいか。


「あの、お、お嬢様? アーティファクトというのはですね、遥か昔に作られた古代兵器で、それを作り出す技術は現代に残っていないと言われていて……だからこそ世間では高価に扱われていてですね?」


「残っているわよ」


「へ?」


「だって今作っているじゃないの、そのアーティファクトを。ちゃんと技術は残っているわ」


「いやそうですけど、えぇ? 本当にこの人、アーティファクト作ってる……?」



 若干、素が出始めているエルシア。

 ここまで驚かれるのだから、実際に作り上げた時にはどのような反応をしてくれるのだろうかと、私の期待は膨らむ。



「え、だって、アーティファクトって世界中の研究者が集っても再現不可能だったって……それを作っているの? うちのお嬢様が? なんで? えぇ? はぁ?」


 混乱しすぎて語彙力を失っている。

 そこまでは想定していなかったため、私はサイレスに助けを求めた。



「諦めろ、こいつはそういう奴だ」


「…………あなたは、お嬢様の目的を知っておきながら、私に黙っていたのですか?」


「そういう命令だったからな。許せ。俺も最初聞いた時は驚いたが、この主人はそういう奴なのだと思ったら気が楽になったぞ」


「私はお嬢様の専属メイドで、お嬢様は公爵家の人間なのですよ? そんなお方が、アーティファクトの製造法を熟知しているとか……気が楽になるわけないじゃないですか」


「ああ、そうだな。こいつには『自重』という言葉を学んでほしいと、俺も思っている」



 失礼な配下だ。

 私だって『自重』くらいの文字は知っている。


 だが、自重して満足のいく魔法具を作れるわけがないだろう。



 ──研究者たる者、手加減無用。

 私はいつだって、その精神で作品に取り掛かるのだ。



「お嬢様。このことは彼以外に話しました?」


「いいえ。エルシアで二人目よ」


「…………では、絶対に私達以外の誰にも口外しないと、お約束ください」


「それは無理な話ね」


 エルシアのお願いには応えてやりたいけれど、残念ながらそれは難しい。


 だって──



「これは双子への誕生日プレゼントにする予定だから」


「………………………………は、」


「は、どうしたの?」


「はぃぃいいいいいいいいいい!?!??!???」



 うおっ、びっくりした。

 初めてエルシアの大絶叫を聞いた気がする。


 シェラローズの記憶を辿っても、彼女がここまで声を荒げたことはなかった。

 だから本当に初めてで驚いてしまった。



「アーティファクトを、あの双子の、誕生日プレゼントにする!? はぁっ!?」


「一応言っておくけど、これはアーティファクトじゃなくて、魔法具よ」


「んなもん今はどうだっていいです!」



 私としては良くないのだが……。



「わかるぞ。お前の気持ち、俺にもよくわかる」


 サイレスが親身になって頷いている。

 だが、彼の同情は残念ながら届いていないようだ。



「あ、わかった!」


 私は、パンッと両手を叩く。


「エルシアも魔法具が欲しいんでしょう? 双子の分が終わったら作ってあげるから、それまで大人しくしていなさいな」



 それまで慌ただしかったエルシアの動きが、ピタリと止んだ。


 やはり、彼女も欲しかったの────





「そういうことじゃなーーーーーーーーい!!!」


 今日一番の声が、地下室に反響した。




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