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第40話 わがまま

「うんっ、このケーキ美味しいな!」

「ええ、とてもまろやかで、生地はふわふわ。ここまで美味しいケーキは久しぶりに食べました」


 私が持ち帰ったケーキは、両親にも絶賛して貰えた。

 我が家は公爵家というのもあって、毎日宅に並ぶ食事はどれもが最高級の絶品だ。サイレスの「舌が肥えている」という言葉の通り、二人には嬉しくない土産かと思ったが、ちゃんと受け入れて貰えたようで安心した。


 私の横では、ティアとティナも両親と同じくケーキを頬張っている。

 あの店で何個も食べたというのに、まだ食べるのかと呆れてしまうが、美味しいものならばいくらでも食べてしまうのが子供というものだ。


 現に今は夕食後の休息時間。

 双子はいつも通り夕食を真っ先に完食してしまい、それでも足りないとお代わりを頼んでいた。


「一体、どこの店で見つけたんだ?」

「商店区から少し外れたところにあるカフェです」

「……ふむ、そんなところにカフェがあるとは……一度行ってみたいものだな。なぁカナリア」

「そうですね。こんなに美味しいケーキを出す店ならば、きっと他の物も美味しいのでしょう。ぜひ行ってみたいものですわ」


 両親が行くとなると、色々と大変なことになりそうだな……と思いながら、私は侍女が淹れてくれた紅茶を一飲み。

 息を整え、対面に座る両親をじっと見据える。




「お父様、お母様。明後日の早朝──計画を実行致します」




 話を切り出すと同時に、両親の笑顔が消える。

 それと同時に彼らの瞳に浮かんだのは、私の身を案ずる心配の色だった。


「……随分と早いな」

「長引けば相手は手段を選ばずに行動するようになるでしょう。本当は明日にでも決行したいのですが、お父様の方も様々な準備が必要かと思い、明後日を予定しました」

「本当に危険なことはしないのよね? シエラちゃんが心配だわ……」

「心配していただけて嬉しいです。ですが、問題ありません。私の役目は戦うことではないので」


 明後日に関して、私が進んで何かをするつもりはない。邪魔にならないよう身を潜め、全てを見届けるのが役目だ。


「わかった。何かあった時は私が全ての責任を負ってやる。シエラの好きにやるといい。……だから、無茶だけはしないでくれ」

「ええ、それがお父様との約束ですから」

「何かあったらすぐに頼るのよ? 他に手伝えることはあるかしら?」

「いえ。もう十分です。ありがとうございます、お母様」


 それでも両親は安心出来ないのか、表情は暗いままだ。


 私が6歳にしては異常な力を持っていることは、二人も理解しているのだろう。

 だからって危険な地に向かおうとする我が子を心配しないとは限らない。


 ──本当に良い親を持った。


 私のやりたいことを全力で応援し、全力で支えてくれる両親に心から感謝の意を示し、私は二人に深々と頭を下げるのだった。




          ◆◇◆




 その日の夜、自室で双子に本の読み聞かせをしながら、脳内で様々な思考を巡らせていた。


 ──決行は明後日。


 今回の件に関わっている者達の準備を考慮した結果、ほんの少しの猶予を与えた。


 父親もこうなることは覚悟していた。彼ならば最高の仕事を見せてくれるだろう。

 手配してくれた兵士達とは当日に顔合わせする予定だ。──彼らが戦力として役立ってくれるのだろうか? という心配はしていない。兵士を信用していないということは、私のために全力を尽くしてくれた父親を信用していないことと同じだ。


 サイレス達の方は心配する必要がない。彼らは殺しや潜入、諜報の専門家だ。この程度のことで緊張するとは思わないし、ましてや土壇場で失敗するような馬鹿はいない。そう信じている。


 肝心の私は、言わずもがな緊張していない。

 むしろ、ようやくこの時が来たかと、明後日のことを待ちわびている。これで双子に付き纏う馬鹿が居なくなる。私の大切な者達を、この手から奪おうとする無礼者を、私自らが断罪出来る。



 ──明後日は、きっと最高の日になる。

 私は内心、ほくそ笑んだ。



「シェラローズさま……どこか行っちゃうの?」


 不意にティアが口にした言葉に、私は思考の中から現実に戻った。


「どうして、そう思うの?」

「……さっき、むずかしいおはなししてた。ヴィドさまとカナリアさま、どっちもシェラローズさまをしんぱいしていたから、そうなのかなって……」


 ケーキに夢中かと思いきや、意外と周りのことにも気を使っていたらしい。


「ちょっと明後日お出掛けをしてくるだけよ」

「だったら、ティアもいく」

「それじゃあ、ティナも!」


「──ダメよ」


「「えっ……?」」


 私が初めて拒絶したことで、双子は目を丸くさせて固まった。


「二人は屋敷でお留守番してて。エルシアと一緒に遊んでいなさい」


 最初は二人にも協力してもらおうかと思っていた。だが、今日で思い知らされた。カフェに入った時の暗い雰囲気を目にした二人の怯えた表情を見て、私は考えを改めた。


 二人はここに来て、沢山笑うようになった。

 常に愛らしい笑顔を向けてくれるようになった。

 あんなに酷かった傷も、目立たないまでに回復した。


 もうあの時のことを忘れてくれたと──そう思っていた。


 しかし、二人は忘れていなかった。


 実際はその逆で、この生活に慣れてしまったために、あの時の光景がより強く脳裏にこびり付き、トラウマとなって双子を苦しめていたのだ。


「なん、で……シェラローズさまといっしょに……!」

「危険だからダメ。お願いだから大人しく待っていなさい」


 二人に何かがあったら、私はきっと我慢出来なくなる。

 内心で燻っていた負の感情が暴走してしまい、組織を壊滅させるだけでは済まなくなってしまう。勿論、そうならないように全力で保護するのは当然なのだが、それでも絶対に安心とは言えないのだ。


 私はまだ戦う術を持ち合わせているから、問題ない。

 だが双子は、戦う術を持たない。何かあった時に抵抗出来ない。


 最初は協力させようとして、次には絶対に関わらせないようにと遠ざける。

 誠に勝手なことだと言われるだろう。だが、それでも私は二人の親代わりなのだ。危険なところに連れて行きたくないと、そう思うのは本当に私の勝手なことなのだろうか?


「私は二人の本当の母親になることは出来ないけれど、親代わりになることは出来る。

 ──お願い。私に二人を守らせて」


 懇願するように言葉を発し、小さな双子の体を抱き寄せる。

 ……温かなぬくもり。これを一生手放さないために、私の願いを聞き入れてほしい。





          ◆◇◆




 寝る時間が迫り、川の字になってベッドに横たわる。


 ティアは最後まで納得していないようだったが、部屋の明かりを消すとすぐに静かな寝息を立て始めた。


「……、……おかぁ、さん……」

「まま、やだよ……ままぁ……」


 しばらくすると、夜泣きに似た嗚咽が左右から聞こえた。

 屋敷に来た時は毎日のように泣き出し、悪夢を見ていた二人。最近になって見なくなっていたのだが、今日のことがあったせいで再び悪夢を見てしまったのだろう。


 ──思えば私は、昔から不器用だった。


「配下にも、そう言われたな……」


 民や配下を守るために全力を尽くし、それを成し遂げるため一点に集中してしまい、挙句には盛大にやらかす。


 守っていたのはこちらなのに、いつの間にか守られるべき者達に支えられているというのは、いつもの光景だった。


 今回もやってしまったと反省した時、そこにはいつも私の配下が手を差し伸べてくれていた。

 その度に彼らは笑顔で、こう言うのだ。


『魔王さまを見ていると、こっちが心配になります』

『いつも一人で頑張って……もっと頼ってくれても良いんですよ?』

『次は自分達も頑張ります』

『だから次こそは一緒に成し遂げましょう!』


 私が最後まで魔王でいられたのは、配下が付いて来てくれたおかげだ。


 なのに最後は……彼らを守ることさえ出来ないまま、この身は潰えた。


「次は、間違えない」


 この子達だけでもいい。

 次こそは最後まで守り抜いてみせる。


 その為に、もう少し我慢してくれ。

 もう少しだけで良い。私のわがままを通させてくれ。



「絶対に……」


 ──お前達を守ってあげるから。

 私は双子の手を握り締め、ポツリと、小さく決意するのだった。

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