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第26話 闇ギルド

「──このっ、役立たずがぁ!」


 スレイブ王国に存在する裏の街『スラム街』にある、若干寂れた一軒家。その地下に広がる数々の部屋の一つで、肥え太った男が苛立たしげに椅子を蹴り飛ばしていた。


「どいつもこいつも……俺の足を引っ張りやがる!」


 男の正体は闇商業を担う『闇ギルド』の支配者。名をべッケンという。


 彼は、彼の部下である三人が、お得意様からの依頼を失敗したという報告を受け、酷い癇癪を起こしていた。


「どうして簡単な依頼も出来ないのだ! くそっ!」


 彼の部下が受けていた依頼の内容は──白狼族の子供二人の拉致。


 白狼族は獣人の中でもかなり高い身体能力を誇るが、普段は温厚でちょっと親しく接すれば簡単に騙せる部族だ。

 時間は掛かるとしても、失敗するとは微塵も思っていなかった。


「だが、この結果はなんだ!」


 ベッケンは最近薄くなってきた頭部を乱暴にかき回す。


「まずい。まずいまずい!」


 普段ならば依頼の失敗程度でベッケンもここまで荒れない。


 だが、今回の依頼だけは絶対に失敗してはいけなかった。

 だからこそベッケンは、自分が持つ部下の中でも腕の立つ三人を選び、白狼族の村に向かわせたのだ。


「失敗したとあの方にバレれば……俺の命は……!」


 裏社会の一角を担っているベッケンは馬鹿ではない。

 誰に逆らっていいか。誰に逆らってはダメかの判断が、他よりも優れていた。事前に危険な香りを嗅ぎ分ける嗅覚とでも言うのだろうか。その感覚だけがベッケンの取り柄だった。


 そして今回依頼してきた『お得意様』は──決して逆らってはいけない部類だ。

 もし逆らったり、『彼』の意にそぐわない結果になった場合、ベッケンですらどうなるかわからない。


 ただわかるのは、これがバレたら絶対にやばいということのみ。


「逃したガキどもを探して捕まえろ! 抵抗したら痛めつけても構わない。一刻でも早くとっ捕まえるんだ!」


 ベッケンは即座に頭を働かせ、部下に命令を下す。

 相手は子供で双子との報告が入っていた。白狼族は真っ白な毛並みが目立つし、双子なのだから共に行動している。子供の体力なのだからそう遠くまで入っていないはず。


 そう考えたベッケンは、すぐに捕まるだろうと楽観視していた。



 ──だが、一時間経っても捕まえたという報告は上がってこない。



「どういうことだ!」


 ベッケンの焦りは、更に大きくなっていく。

 机に突っ伏し、頭を抱えて思考を加速させていく。


「また部下を白狼族の村に向かわせるか? ……いや他に白狼族の村があるなんて情報は無い」


 白狼族が希少だというのは周知の事実。

 今回襲った村もようやくの思いで見つけだしたのだ。すぐに他の白狼族の部族が住む村を見つけ、連れて帰ってくる。


 まず不可能だ。それなら部下の全てを駆り出して攫った子供を探した方が、まだ可能性は十分にある。


「ガキのくせに、どこに隠れている! 流石にこの城下町からは出ていないはず……身を隠しやすい場所はスラム街だが、それだったらもう見つかっているはずだ……!」


 身を隠すという点で考えれば『スラム街』がこの国では一番いい。

 だが、スラム街はベッケンが拠点としている場所。すでに隅々まで調査がされ、白狼族らしき人影を見たという報告は一切上がっていなかった。


「──っ! そうか。三人をやった奴が匿っているのか! くそっ……どうしてそれに気付かなかった!」


 何も持たない者が、ましてや10歳にも届かない年齢の子供が自力で隠れられる場所はスラム街以外にない。なのに双子は見つからない。


 そこで導き出された答えは──誰かに匿われているというものだった。


「役立たずだが、それでもあの三人はかなりの手練れだった。それを相手にして無事な奴……そう考えれば、絞りやすい」


 街の衛兵ではない。彼らは面倒事……特に裏社会の住人とはなるべく関わらないようにしている。ベッケンは過去に一度、勇敢にも首を突っ込んできた衛兵を抹殺したことがある。裏社会の者を敵にしたらどうなるかをわからせるため、わざと無惨に、見せつけるように罰を与えたのだ。


 それ以来、衛兵は無闇に手出しをしてこなくなった。

 だから今回は違うと、ベッケンは候補から外す。


 次は衛兵以上の存在、騎士の可能性を考える。

 彼らは王家直属の部隊。ベッケンの部下三人が束になっても太刀打ち出来ない実力者の集まりだ。

 そして部下との連絡が途絶えた場所には、微かな魔力の残滓が残っていたと、ベッケンは聞いている。


 騎士でも魔法を使えるのは──師団長かその副団長のどちらかだ。


 王国騎士団は三つの部隊に分かれており、そこの師団長計三人は王国最強の一角として名を馳せている。

 つまり正真正銘の──化け物。その師団長が最も信頼している副団長も、同じく化け物級の実力を持ち合わせている。



 ──勝ち目が無い。



 もし、白狼族を匿っている人物がベッケンの予想した騎士団の者……しかも師団長に近しい者だったなら、これまでの話は別となる。騎士を相手にして白狼族の双子を攫い返すくらいならば、大陸を駆け回って他の白狼族を探した方が圧倒的に早い。


「まさしく八方塞がりだ……」


 ベッケンは頭を抱える。

 今回の依頼は子供を攫うだけの簡単な依頼だった。……なのにベッケンは今こうして追い詰められている。


「まずはあの人にバレる前にどうにか────」



「バレる前に、どうするのかな?」



「──!」


 突如、部屋の中に響いた男性の声に、ベッケンは驚いてバッ! と振り向く。

 入り口の扉の前には褐色肌の青年が立っており、見るからに狼狽しているベッケンに首を傾げていた。慈愛に満ちたような瞳は真っ直ぐにベッケンを見つめ、優しげな微笑みを浮かべいるが、ベッケンの瞳にはそれが狂気の笑みに映り、彼は思わず「ヒィッ!」と悲鳴を上げた。


「……っ、こ、これはこれはラヴェット殿! よく来てくれた!」


 今更持ち直したところで手遅れなのは承知の上だったが、それでもベッケンは恐怖の心をどうにか押し殺し、人の良い表情を浮かべて来客を招いた。


「さ、まずはお茶でもどうだ?」

「いや、今日は僕がお願いしたものの進捗だけを聞こうと思ってね。すぐに帰るつもりさ」


 ──タイミングが悪い。

 今はその依頼のことで頭がいっぱいだと言うのに、その中でも一番厄介なのが来てしまったことに、ベッケンは内心舌打ちした。


「僕が依頼してからちょうど一週間だ。そろそろ捕まえて来てくれていると思ったんだけど…………どうやらまだらしいね」

「あ、ああ。どうやら手こずっているらしく、もう少し時間が掛かりそうなんだ」


 ラヴェットは「ふぅん?」と目を細めた。


「まさか失敗した……なんてことはないよね?」

「勿論だとも! 俺の部下がしっかりと──」


「その割には、その部下の人達は捕まっているらしいけど?」


「っ、そ、れは……」


 すでに情報は漏れている。

 これ以上はぐらかすのは、返って危険だ。


「……はぁ、君がこのスラムを取り仕切っている闇ギルドの責任者と聞いたから依頼したのに、やっぱり人間って使えないなぁ」


 これなら面倒臭がらずに自分で行った方が良かったと、ラヴェットは溜め息混じりに呟く。


「今は俺の部下達が取り逃がした子供を追っている。見つかるのも時間の問題だ。だからもう少し待ってくれ」

「…………ん、仕方ないな。役立たずを選んでしまった僕にも問題がある。今回は任せてあげるよ」


 ──でもまた失敗したらわかっているよね?

 ラヴェットはニコッと微笑み、再び短い悲鳴を上げたベッケンはコクコクと勢いよく頷いた。


「それじゃ精々頑張ってよ。……まぁ、どうせ無理だろうけどさ」


 嘲笑うようにそう言い残し、ラヴェットはひらひらと手を振りながら部屋を退出した。


「──っ〜〜〜〜、くそっ!」


 ベッケンは男が去り際に見せた態度に激昂し、部下に更なる命令を下すのだった。

遅れて申し訳ありません!

マ◯リンの育成を頑張っていました!全てはマー◯ンが悪いんです!マーリ◯が!

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