第9話 結果は──
「──っ!」
スヤスヤと眠り続けていた私は、ハッと目を覚まして飛び起きた。
──今は何時だ?
外は暗くなっている。
半日以上経っているのは間違いない。
──両親はどうなった?
私の計画は失敗したのか? それとも成功したのか?
エルシアは……居ない。部屋の外で待機しているのか、それともどこか行っているのか。
「ったく、今日は動いてばかりだ……!」
私は悪態をつきながら、動きやすい服装に着替えて廊下に出る。
「あ、お目覚めですか?」
そこにエルシアが居た。
ずっと私の部屋の前で待機してくれていたらしい。
「二人は?」
「旦那様のお部屋に……ですが、今は行かない方がよろしいかと」
「……それは、どういう意味?」
「えっと、そのぉ……」
エルシアは明後日の方向を見つめながら、その後の言葉を言いづらそうにしている。
その様子に嫌な予感がした時、気付けば私は廊下を走っていた。
「お嬢様!?」
「行ってくる!」
まさか、そんなはずはない。
6歳の娘がここまで頑張ったのだ。
「報われないなど、そんな残酷なことがあってたまるか……!」
エルシアは私に「行かない方がいい」と言った。
それはつまり、私が見たらまずいことになっている。ということだろう。
この場合で私が嫌だと感じることは……二人の破局。
それを想像しただけで胸の奥が痛く軋む。
シェラローズが『嫌だ。嫌だ』とざわつく。
「お父様、お母様!」
息が詰まる思いで走り続け、ノックすることも忘れて父親の部屋をバァンッ! と開いた。
そして私が目にしたのは────
「愛してるよ、カナリア」
「私もです。あなた」
「ははっ、可愛いやつだ。本当に、戻れてよかった」
「ええ……あなたと結ばれて七年。今が一番幸せです」
「……ああ、私もだ」
──なんだこれは。
かつてないくらいの焦燥感で父親の部屋に入ったら、かつてないくらいの甘々空間が広がっていた。
二人はソファに並び、手を絡め、互いに甘い言葉を交わしている。
思わずもう十分ですと言いたくなるほどの光景を前にして、私は思考が停止していた。
「あ、シエラちゃん!」
そこで母親が私の存在に気が付いた。
かなり荒々しく入ってきたと思うのだが、それでも今になってようやく気付くとは……どれだけこの二人は互いに夢中になっていたのだ。
「お父様? お母様?」
「シエラ! お前には感謝しかない。オルコットから聞いたぞ。私達のために色々と動いてくれていたらしいな」
「本当に、シエラちゃんのおかげよ。そのおかげで私達は、こうして再び愛し合えるのだから」
「……カナリア……」
「あなた……」
「…………あーー、はい……ごゆっくり」
再びイチャラブ空間が場を支配したのを感じ取った私は、ゆっくりと部屋を退出した。
「…………あ……」
廊下には、微妙な顔をしたエルシアが立っていた。
彼女の瞳は「だから言ったでしょう?」と物語っている。
「……部屋に戻ります」
「……はい、お嬢様」
何とも言えない空気の中、私は部屋に戻って椅子にどっかりと腰掛けた。
「はぁーーーーーーぁ……」
普通ははしたないと怒られても仕方ない、公爵令嬢にあるまじき言動。
だが、大人びた口調と行動をと思っている私でも、エルシアの前ではついついそれが緩んでしまう。それは単純に彼女のことを信頼している証なのだろうが、これに慣れてしまっては何処かで不意にボロを出しそうだ。
私はコホンッと咳をして、姿勢を正す。
「まさか、ここまで進展するなんて……予想外よ」
「でも、前はあんな感じでしたよ」
まじか。
──まじか。
私達は内心ハモった。
「今はお嬢様がいる幸せで四割増しになっていますが、二人のお姿からは懐かしいものを感じます」
「…………そう。……まぁ、それなら良かったわ」
エルシアがそう思っているのであれば、私がやったことは間違いではないのだろう。
しかし、これで最初の試練はクリア……だな。
「はぁ……疲れた……」
「お疲れですか? 休憩するのなら退出しますが」
「……いいえ、眠気はないの」
この疲れは、張り詰めていた緊張の糸が緩んだことによる疲れだ。
意外な結果に終わったとは言え、ようやく家族三人でお話しすることが出来る。
そのことに安堵する気持ちと、それを成し遂げた自分への労いの気持ち。それが合わさって、私は疲れを感じているのだろう。
……まぁ、体力面でも疲労しているかと聞かれたら、少しはしていると言えるのだろう。
大きな怪我をしてから、私は基本的に外へ出ていない。それに加えて、魔王である私と交わったのもあるのだろう。6歳の脆弱な体は想像以上に消耗していて、まだ体力は完全に戻っていない。
皆に心配されないよう強がっているが、こうして起きていることすら厳しい。
「……でも動くのも面倒なのよねぇ……そうだっ、ねぇエルシア? 夕食まで私とお話ししてくれないかしら?」
「えっ……?」
急な申し出にエルシアは目を丸くさせた。
「正直暇なのよ。だから、エルシアと一緒にお話し出来れば嬉しいなぁって……ダメ?」
「ダメじゃないです! むしろ私なんかで良いんですか!?」
「勿論。エルシア以外は嫌だわ」
「くふぅ……! わかりました! すぐに紅茶とお菓子を用意するので、お嬢様はそのままお待ちください!」
「え、流石にそれは悪い…………行っちゃった」
本当に忙しないメイドだ。
だが、こうして子供に構ってくれる良いメイドだ。
彼女の言動一つ一つからは、私を大切にしてくれているという感情が溢れ出ている。
公爵家の娘というのもあるのだろうが、ここまで大切に思ってくれているのは単にシェラローズの人望の良さからきているのだろう。
「良い両親と、良い従者を持ったな、シェラローズよ」
──うんっ!
胸の奥がざわついた。
いつもの不快なざわつきとは異なり、心の底から喜んでいるような……そんな胸の鼓動だった。
これで一旦キリの良いところまで来ました。
……え、恋愛はどこ行ったって?……ま、まぁ今は準備段階なので、もうしばらくお待ちください。
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