第1話・早上がり、キメました。
葛城兎麻です。
ホビアニ好きではじめてみました。週一更新を予定していますが、はじめのうちは投稿ペースを少し早くできたらと思います。よろしくお願いいたします。
早上がり最高!!!ありがとう社長!!!
…などという感謝感激の叫びは心の中とSNSだけに留めておいて、スマートフォンを片手にバスを降りる。
彼の名前は滝 由雨。
黒髪黒眼の二十五歳男性。
大学卒業後某企業に就職した新人サラリーマンで家族構成は祖父、祖母、父、母、姉、弟、妹と某国民的アニメもビックリであろう家族構成をしている。
趣味はSNSと読書。但しラノベ読者というのは職場では隠し通している。
そんな由雨が何故ご機嫌なのか。
今日が小学二年生の弟の誕生日だから。
……という理由で以前より社長に相談しこの日を早帰りにして貰ったのだ。お陰で現在十五時。このまま弟の誕生日プレゼントを買って帰宅すれば誕生日パーティーの夜までには間に合うだろう。
誕生日プレゼントといえば普通は何をプレゼントするか悩むところではあるが由雨は既に家族と打ち合わせて決めている。
男児子供向け玩具〝アステル〟だ。
某有名な玩具企業により発表されたこの玩具はコマーシャルやポスターなどの広告で主に小学生〜中学生男児を中心に注目を集めた。SNSやネット上の掲示板でも取り上げられついにはニュースの特番にもなり注目度は更に上昇。その勢いは留まる事を知らず海外からも「玩具の革命」というキャッチコピーで記事にしている。
更に言うならオリジナルストーリーでアニメ化決定!などと発表した玩具企業の公式サイトにあったが実はこのアステルという玩具、この時点ではまだ発売していない。というよりも、発売していないというのに随分と注目されているなとツッコミしたかったがもうそんな事はどうだっていいのだ。
何故なら……。
「(弟の誕生日とアステルの発売日が一緒とか神かっ!!)」
由雨は右手で小さくガッツポーズした。
つまり今日弟の誕生日と同時にアステルの発表日でもあるのだ。とはいえここまで人気と注目度の高いアステルを普通に店頭購入は厳しい。普通に通勤ラッシュに揉まれながら朝から出勤していた由雨だったが、顔には焦りの様子は全くなく寧ろ余裕の二文字が相応しいさわやかな顔立ちをしている。そこにもしっかりとした余裕があった。
そう、アステルの発売日が正式決定した三ヶ月前に店頭予約したのだから……!
噂の店頭予約しておいたおもちゃ屋に到着し自動ドアを抜ける。入って右手側にレジが見えるが、買い物を終えて帰ろうとする親子の手にある店側のビニール袋からすこしばかり箱の外側がはみ出ていて、そこから見覚えのあるあの玩具企業のロゴマークが確認できた事からこの親子は無事アステルと言う名の戦利品を購入できたのだと伺える。
更に自動ドアから左手側すぐには沢山の種類のアステルが置かれているが、今陳列している分は非常に少ない。若めの女性店員が都度在庫を補充しているようだが、親子や家族連れを中心に直ぐにレジ行きになっているようだ。
由雨はその様子を見て意を決して女性店員に声をかけた。
「すみません。アステルの在庫は後どれくらいですか」
「申し訳ございません。詳しい在庫の数はお答えできませんが今日はここにある分だけです」
「あ、いえ。ありがとうございます」
丁寧で愛想のいい女性店員も黒髪黒眼だ。日本人としては当たり前の髪と眼の色だが、ぱっちりとした二重ときめ細かそうな肌にとても癒されるような綺麗な声。かわいい、などと思ったがここでナンパなどしたらまず営業妨害であるのに加えまずそういったナンパキャラではないのを自覚しているので黙って陳列しているアステルの方に目を向ける事にした。
「(いやっ彼女はほしいけど!あんなかわいい彼女ほしいけど!社畜とラノベで忙しくて今もリアル彼女居ませんよ!)」
そんな欲望と嘆きを心の内に秘めながらとりあえずひょいっと適当に手にとって箱の裏側を確認する。
まずこのアステルという玩具、電動ロボットのような類だが電池ではなく充電式らしい。それは確かに便利でエコなのかも知れない。
続いてパーツの入れ替えも可能。ただし、同じ型のパーツでないとうまくはまらないらしい。改造パーツは今後も発売します!とここだけやたら文字が大きい。
そして遊び方はこのおもちゃ屋ともう時期に発売予定の専用バトルフィールドを使って戦わせる…と書いてある。ネットの記事通りだ。他にも色々機能があるらしいが、価格は一個で消費税込みほぼ一万二千円と、万単位。
由雨がこのアステル売り場から離れない理由は自分用のアステルを買うか買わないか、だ。
弟は小学二年生。遊び相手になるなら自分用に一個くらいあってもいいかなと思った。弟の誕生日プレゼントについてのお金は割り勘しようとの提案で事前に少しばかり貰っているので弟の分はそこまで自分のマイナスにはならない。
とはいえもう在庫も少なくこれいいなと思うアステルが無いため流石の由雨も小さく唸っていると例の女性店員が由雨の隣にやってきて、左手に持った箱を由雨に手渡そうと前に出した。
「これは如何でしょうか」
「竜型アステル〝IX-00〟?」
「はい。これも今日最後の在庫なので陳列しようかと思って…」
ボディは白。二枚の翼を持ち瞳は赤く塗られている竜。少なくとも他に陳列しているものよりも運命的なものを感じた由雨は前に出されたその竜型アステルの入った箱を両手に持った。
「ありがとうございます。じゃあ、これを買います」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
軽く手を振り売り場を後にした由雨の背中を見た女性店員は在庫残りわずかの看板を売り場に固定した後に小さく、小さく呟く。
「適任者、発見」