表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔放少女あやかしアヤカ  作者: 本間鶏頭
第二章 死闘、魔崩少女ミチル
33/65

第十七話:決戦開幕 混戦の狂想曲(1)

「さぁ……」


 優雅に、百姫は路留の下へと歩み寄る。

 一歩を踏み出す度、大気が陽炎に揺らめいた。それは愛すべき同志を討たれた怒りか、それとも玩具を前にした恍惚か。表情から窺い知る事は出来ないが、その瞳には溢れんばかりの狂気が浮かんでいる。


 一方、路留もまた、警戒を解く事無くその姿を注視し続けていた。

 相手は大妖怪、間違いなく何か狙っているはず。だがこちらも、自分の間合いに相手が踏み入った瞬間に討ち取る用意は出来ている。一撃が届くその距離まで、三歩、二歩、一歩──。


「あら、どうなさいました? もう貴方の間合いなのではなくて……?」


 その言葉を言い終わるか終わらないか。

 百姫の首が刎ね飛ばされたのは、丁度そのタイミングだった。

 二人の距離が無くなった瞬間、正確無比な一撃が百姫の首に炸裂。再生も回避も間に合わせぬ十分な速度と切れ味で、その頚椎を両断したのだ。


 そう、そのはずだったのだが。


「……いつからだ?」


 地面に転がるのは、綺麗な切断面の丸太(・・)。そして、どさりと倒れた少女の胴体は、無数の枯れ葉となって消えていく。

 木の葉で構築された身代わりは、狐狸の類が得意とする変化だ。それも揺らぎを一切感じさせない程の精度……それはまるで、最強クラスの妖狐──長壁姫(おさかべひめ)を彷彿とさせるものだった。


「──覚えておきなさい」


 刹那、路留の背後から大火力の炎が襲い掛かった。

 咄嗟に刃で炎を振り払うが、次の瞬間、その身体を強烈な一撃が打ち据える。大木のように太く、鞭のようにしなやかな、大蛇の尾による一撃だった。

 火を噴く蛇身の女怪……清姫(きよひめ)か。


「魔王、魔王、私は魔王。私の配下は百鬼夜行、可愛い可愛い百姫夜行」


 感情豊かに語る半蛇半女の怪物が、視線の先で歪んでいく。鱗に覆われた蛇腹から幾本もの脚が生え、深紅の着物は濃紺のセーラー服へと変わっていき、瞬く間に清姫は絡新婦へと姿を変えた。

 糸の放射が来る。すぐさまそれを読み、しかし路留は動く事が出来なかった。


「クケケケケ!」

「キャハハハ!」


 背後から甲高い笑い声が聞こえた時にはもう遅い。反撃しようとした路留の手足には、地中から伸びた太綱がしっかりと巻き付いていたのである。一瞬の動きの阻害に対応が鈍り、その全身はクモ糸でがんじ絡めに拘束されていく。


「くっ……」


 力を込めるが、簡単には千切れそうにない。

 先程まで相手をしていた絡新婦のただの糸とは、妖力の密度が段違いなのだ。


「キャハハ! そして私の──わたくしの……名……は──」


 無数の木の葉が路留の眼前で一ヶ所に寄せ集まり、着物に身を包んだ狐耳の美女の姿を象り始める。

 変化を完了した長壁姫が指を鳴らすと、亀姫(かめひめ)へと変化していた分身は木の葉と消え、絡新婦の姿もまた、無数の木の葉へと分解していく。それと同時に、長壁姫──に姿を変えていた百姫──は、爪先から徐々に元の姿へと戻り始めた。


「──わたくしの名は、神野百姫。しかして貴女が相手をしているのは、神野百姫にして神野百姫一人に非ず。わたくしこそが──百姫夜行そのものですわ」


 すっかり原型を取り戻した百姫がニヤリと笑う。

 ここに至り、路留は目の前の少女が持つ能力を理解した。


 これこそが、魔王神野百姫の力。

 内に秘める超弩級の妖力量をそのままに、幾千幾万に姿を変じさせる。肉体、人格、そして能力に至るまでの()を完璧に別人へと創り替えた上で、その莫大な妖力を振るうのだ。

 妖怪の力を借りてその能力を何倍にも引き出す、もう一柱の魔王とは根本から異なる能力。しかしながらそれに十分匹敵する、下手をすればそれすら上回りそうな、魔王に相応しい力であった。


「そしてもうひとつ、心得なさい」


 少女の輪郭が再びゆらりと歪む。

 めきめきという、骨が軋む音。少女の身長が伸び、髪が短くなり、学校の制服はジャージへと変わっていく。

 見覚えのある、その姿。これは──。


「わたくしは──私は、相手と正々堂々遊びたいだけ。今は彩夏と遊んでるから、お前は邪魔なんだよ」


 棘のある端的な言葉に、路留は思わず眉をひそめる。

 目の前に立つ百姫は、自分自身と──雷田路留と瓜二つな姿へと変貌を遂げていた。

 声も、容姿も、服装も。身に纏う殺意に至るまでが、憎々しい程の完璧なコピーである。


「ぐ……お前……」

「紅葉と絡新婦の礼だ。お前は、私が直接殺してやる」


 指抜きグローブをはめた両掌に紫の稲妻が走る。

 この超至近距離で、眼前に動けない獲物がいたら、どうするか。そんな事、路留が最も良く知っている。

 瞬殺を試みるなら狙うべきは首。だが、相手には両手の電撃や肘に仕込んだ刃がある。反撃の可能性を考えると、まず封じるべきは両腕だ。掴み返されないように、手の甲側……小指側から、がっちりと獲物の両手首を掴む。あとはこのまま雷を流し込んでやればいい。それで焼き尽くしてしまえば──。


「死ね──電咬石咬(・・・・)


 次の瞬間、路留の姿をした百姫の指先から、全てを一瞬で焦がす超高威力の電撃が放たれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ