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魔放少女あやかしアヤカ  作者: 本間鶏頭
第二章 死闘、魔崩少女ミチル
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第十四話:放つ者と崩す者 魔王対妖怪狩り(1)

 ──それ(・・)は、突然現れた。


 可愛らしい深紅の和風ドレスに、年相応なツインテール。一見、自分よりいくらか年下に見える程度の女の子だ。


 しかし、それらは外見だけ。


 路留は即座に、その中身が自分ですら相対した事のないようなバケモノだと看破した。看破し、対処を考える。腕に稲妻を纏い、法力で結界を創り、ありったけの力を込めて骨肉を盾と化す。


「でぇええぇぇぇええいやあぁぁぁあっ!!」

「がッ、あ……!?」


 それでもなお、路留の身体はいとも容易く吹き飛ばされた。


 これには路留も、驚愕を隠せない。

 いくら馬鹿でかいハンマーで殴られたとは言え、こちらは何重もの防御を張っていたのだ。

 それなのに、その鉄壁をぶち抜いて来るなど、一体誰が想像できるだろう。


 だが、驚いてばかりもいられない。

 あんなバケモノがいると分かった以上、磯撫でなど二の次だ。勝てるか勝てないか、それすら考える必要もない。


 二百メートル近い距離を吹き飛ばされながらも、路留の思考は冷静かつ明確だった。

 ──あれは、速やかに、殺す!



「キヒヒ! 参ったかー!」


 一方で彩夏もまた、強烈な一撃を繰り出しながらも最大限の警戒を張り続けていた。


 何しろ、あれは完全に焼失させるつもりの攻撃だったのだ。

 大百足(おおむかで)の頭殻を潰した時より、さらに濃密な妖力を込めて振り抜いた一発。人間の身体など、間違いなく一瞬で蒸発するはずだったのである。それを受けたにも関わらず、五体満足のまま吹き飛ばされるだけで済むなど信じ難い。


 暢気に勝ち誇った声を出しながら、しかし警戒は決して解かず、彩夏は海の方へちらりと視線を向ける。波間に漂う磯撫での残骸が、視界の隅に捉えられた。


 手遅れか? いや、まだ霊魂の気配は残っている。今ならまだ助かるはずだ。御札を振るい、その霊魂を素早く保護(・・)する。

 次いで、妖怪狩りの足を止めた隠し神(かくしがみ)もまた、御札の中へと退避させる。不意討ちだからこそ成功したようなもので、正面から仕掛ければ隠し神と言えど歯が立たないだろう。


 妖怪二体の避難を完了させると、彩夏はさらなる追撃を試みる。

 小出しになどしてはいられない。戦いを愉しみたい気持ちもあるが、そんな余裕を持って相手取れる存在ではないのだ、妖怪狩りという奴は。


焔嵐(ホームラン)ッ!」


 豪快に、判魔(ハンマー)を横薙ぎに振るう。

 途端に巻き起こる爆風と業火の嵐。炎は一直線の柱と化し、真っ直ぐに獲物を焼き尽くさんと突き進む。まるで、火山の噴火が如き奔流だ。


「チッ……!」


 それに対し路留もまた、少々強引に対処する。

 アスファルトの地面を掴み(・・)、吹き飛ぶその身体を無理矢理停止させたのだ。彼女の剛力があればこそ可能な芸当である。

 そのまま両腕を前に突き出すと、全身から稲妻がほとばしり掌へと集束していく。直後、火炎放射を迎撃すべく全開の放電が炸裂した。


 雷と炎が激突し、爆風が周囲一帯を飲み込んでいく。


「──らあッ!」


 そしてその爆風を引き裂き、路留は離された距離を一瞬で詰め魔王へと肉薄した。


「死ね!」

「キヒヒヒヒヒ!」


 放たれる重々しい拳の一撃。それを彩夏は、真正面から判魔(ハンマー)で打ち返す。轟音と共に大地が揺れ、衝撃波が辺りに巻き起こった。


 そこからは、間髪入れずに目にも止まらぬ攻防が開始される。


「────ッ!」


 素手のまま連打を繰り出す路留。

 拳、足、肘、膝。その全てが凶器と化し、彩夏の命を刈り取らんと襲い掛かる。

 その口から、言葉は出ない。いや、声どころか、息一つ吐く暇すら見せずに路留は攻撃を放ち続ける。呼吸をするのも惜しいとばかり、その勢いは淡々と増していた。


「わ、っとと! キヒヒヒヒヒ!」


 それらの猛攻を、彩夏は紙一重でいなしていく。

 弾き、避わし、受け止める。初撃は上手く不意討ちを与える事が出来たが、そもそも不落不落(ぶらぶら)化装(けしょう)は、素早い接近戦を繰り出す相手に対しては防戦になりがちである。鎌鼬(かまいたち)に切り換えたい所だが、今のままではその隙もない。


「キヒヒ! ねぇねぇ、この程度? ご先祖様の方が、よっぽど強かったんじゃない!?」

「……チッ……このガキ、いい加減に……!」

「おねーさんだって子供じゃーん! キヒヒヒヒヒ!」

「……散れ!」


 無邪気な彩夏の声を受け、路留の勢いがさらに増す。

 一見、頭に血が上り、我武者羅に暴れ回っているかのようだ。


 だがその脳内は、至って落ち着いたまま。

 怒りの表情と声色は演技。攻撃も片っ端からあしらわれているが、それも想定通りである。全ては一撃で勝負を決める、その隙を作るために。


 右、左、斜め下。顎、右足、左肩。腹、脳天──ここだ。


 炎をものともせず、振り落とされた武器を受け止める。

 捉えた。さらに両手で鷲掴みにすると、そのまま指先から必殺の雷撃を流し込む。


電咬殺咬(でんこうせっか)!!」


 紫の稲妻が、判魔の柄を伝って彩夏へと走る。

 磯撫での巨体でさえ一瞬で消し炭にした、高威力の一撃だ。こんな子供の体面積、消し飛ばすのに一瞬すらかかるまい。


「……チッ、避けたか」


 だが次の瞬間、路留は表面が燻るハンマーを投げ棄てると苦々しく呟いた。


 彩夏の姿は、ない。


「ふー! 危ない、危ない!」


 いや、正確には、遥か遠くにその姿はあった。

 常磐色の袴を纏い、刀を抜き放って構えている。


 火炎と判魔そのものを囮に後退、逆に路留の雷を隙として化装の切り換えを行ったのだ。


「キヒヒ! 第二ラウンドといこー!」

「……もう手抜きは無しだ。すぐ、死ね」


 動き出したのは、ほぼ同時。

 そして再び衝撃波が駆け抜けたのは、それからすぐ後の事だった。

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