第8話 可愛いは正義です
「ブルースさん、ハルトとミユの持ち物で、なにかきょうみありませんか?」
「きょうみ?ああ、興味ね。君たちの持ち物は見たことない物ばかりだからね、興味はあるよ。特にその乗り物はすごいね。馬も竜もない乗り物なんて初めて見たよ。」
『うっ、これは売りたくない!美優、悪い…。』
『自転車は売れないよ。私たちの大切な足だもん!』
『なにかめぼしいものないかな。教科書いらないけど、これは買ってもらえないだろうなぁ。』
『春ちゃん、これお勧めしてみて。』
「ブルースさん、これはどうですか?これは『ボールペン』…ええと、書くもの…羽ペンのようなものです。」
「羽ペン?羽がないけれど、どうやって使うんだい?」
「こうやって、後ろをおしてカチってして、書きます。」
春翔は自分のノートを取り出して、すらすらと自分の名前を書いた。
「ほう。これはすごいね。その文字は君の故郷の文字かな?なんて書いてあるんだい?」
「ハルトの名前です。ハルト・ラファエル・ジョーンズ」
おお、と周りから声が上がった。
お金の話だったため、ブルースと春翔のやり取りを口出しをせずに今まで見守っていたが、予期せぬ仰々しい名前に驚きの声が漏れたのだ。
「名前が3つもある!」
「すげえ名前だな。」
「そうね、貴族なのかしら?」
「この国では平民は苗字を持たないものが多いんだよ。商人の場合は、屋号を苗字として使うけれども、例えばレオンだと、村に住んでいた時はリシュリュー村のレオン、今はうちの店で働いているからウィンタースティーン商会のレオン、と言う具合に名乗る。君は貴族様の子なのかい?」
「ちがいます。ハルトの国ではだれでもがみょうじあります。」
「そうなのかい。それにしてもその羽ペンは素晴らしいね。それを売りたいのかな?」
「はい。お願いします。これは長く使えるものです。」
「どれどれ。ほう、よく見ると精巧な絵が描いてあるんだね!これは素晴らしいよ!」
美優のボールペンを手にとって近くで見たとたん、ブルースの様子が変わった。
美優の手持ちの文房具はすべて某有名テーマパークで買ったキャラクターものである。
プリンセスが描かれたそれは、おじさんが持つにはかわいらしすぎるものだった。
「へえ。俺にも見せてくださいよ。」
エヴァンスも食いついてきた。
「あら、ほんとかわいいわね。こんな小さなものにこんなに細かい絵が描けるなんてすごいわ。」
「ふふ、ふふふ…フハハハハハハ!いい、いいよ!もっとないかい?もっとだ!」
「えっ、ブルースさん!?」
闇落ちしたかのような突然の高笑いにドン引きする春翔と美優に、ランスはぼそりとつぶやいた。
「驚かせちまったな。娘へのみやげが手に入って喜んでるんだよ。」
「はあ、そうなんですね。」
ブルース用ではないと知ってなんとなくほっとする春翔と美優であった。
「結婚して7~8年たってからやっと出来た一人娘だからな。目に入れても痛くねえほどの可愛がり様なんだよ。」
「そうなんですか。ブルースさん、ブルースさん、これはどうですか?紙をたばねたもので、そのペンで書くのにちょうどいいです。こうやってはがしてペタっとくっつきます。それからこっちのペンは、いちど書いたものをけすことができます。」
同じくキャラクターものの付箋とシャープペンと消しゴムを立て続けに紹介する春翔は、文房具屋の営業のようであった。
『えーと、ボールペン(300ロス)、シャープペン(300ロス)、消しゴム(200ロス)、付箋(300ロス)、ノート(300ロス)、ペンケース(800ロス)か。合計2,200ロスで22,000円かぁ。街に入ってからの生活資金も欲しいよね。うー、自分用に取っておいたペンも売るべきかな…。』
美優は売上を計算し、もっと売れるものはないか考えていたが、春翔は税が払えればとりあえずは十分と考えていた。
『えぇー、もういいだろ?こんなに親切にしてもらってるのに、押し売りみたいな真似いやだよ…。ペンケースで8,000円なんて、俺達が一文無しだからそんな金額で買ってくれたに決まってるのに、これ以上親切心に付け込みたくないよ。』
『…うぅ、わかったよ。街に入ってから売れるところ探そう。』
『おう。』
『ブルースさん、子煩悩なパパなんだね。…ねえ、春ちゃん。みんな心配してるよね…。』
『…俺達、行方不明ってことになってるのかな。死んだことになってたりして…。』
『私達、帰れるのかな?』
『帰りたいな…。』
気持ちに余裕が出てきたのか、二人は日本のことを思い出していた。
美優の家は、美優が3歳になる少し前に母が亡くなってから、ずっと父と二人きりで暮らしている。
春翔の家でも、5年前から父が生死不明のままだ。
残された家族が今頃どれほど心配しているかと思うと、二人の心は重くなった。




